死者の告発
「音尾さんもくどいですね。私は殺害していませんし、そもそもその場にも居ませんでした」
小さな机を隔てた向こうで、木全は悪びれもせずに言った。「若気の至りで盗みを働いたのは認めますよ。でもそれは、私が埋めた分だけです」
笠木西高の花壇の下から、菓子の缶に入った通帳が掘り起こされていた。
それは安田実が守り続けた、旧ボランティア部の花壇の下にあった。
「失礼します」
三度のノックと同時にドアが開かれ、三鷹が音尾にビニール袋を手渡した。
「そうですか。木全さんは、浄化槽のあの場所には居なかったんですね。殺人も遺棄も全ては鈴木と西野の犯行だと。湯島さんは貴方だと言っていましたが」
「いやだなぁ、要介護の老人の妄言ですよ。記憶が混濁しているのでしょう。とにかく、過去の窃盗は認めますよ。時効ですがね。そして音尾さん——ではなく、探偵への殺人未遂も認めます。さっさと起訴して終わらせましょうよ。こんなのは無意味ですよ」
木全は饒舌に話すと、口の端を歪めて笑った。
「木全——」
音尾は今日初めて木全の名を呼び捨てにした。
「これ、何か分かるか?」
音尾は透明プラスチックの袋を、木全の眼前に突き付けた。中には溶け跡のある折れたカードが一枚あった。
「お前が火をつけて放り投げた、草森ギンさんのキャッシュカードだ」
怒鳴りつける音尾を木全は鼻で笑うと「二十年ですよ。指紋なんてすっかり分解されて消えてますよね。それで私が捨てただなんて、決めつけ捜査も甚だしい」と言って、肩を震わせた。
音尾は深くため息を吐いて、証拠品袋を手元に戻した。その様子に木全は勝ち誇ったように歯を見せた。それはまるで、能面に走った亀裂のように見えた。
「このカードはな、加奈さんの制服の袖口に落ちていたんだ。まるで掴んでいるようだったと鑑識が言っていたよ」
音尾はそう言うと、一枚の写真を木全の前に置いた。
木全の眉が小さく動いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ロザリア・ロンバルト?」
高木は首を傾げて千早を見た。
「世界一美しい少女のミイラよ」
島田が千早の代わりに答えて、検索した画像を見せた。
「嘘だろ、眠ってるみたいだ」
百年前に眠りについた少女の姿を、食い入るように見つめた。今にも目覚めそうな彼女の瞼は、永遠に開くことはない。
「高圧で、空気がほぼ遮断された土中。今井加奈さんの身体は微生物の分解を免れました。そして屍蝋化した彼女は、二十年前の姿をほぼそのままに留めていました」
「この、ロザリアみたいにか」
「頸部には扼殺の跡と、軟骨に骨折が見られました」
「ひどい」島田が口を両手で覆った。
「その頚部にはおそらく、犯人の皮脂が、彼女と共に屍蝋化しているはずです。そして一緒に見つかった屍蝋化したカードからは指紋が取れるはずです」
「犯人を指し示す絶対的証拠か」
「それって........」島田の後を千早が続けた。
「死者の——」
◇ ◇ ◇ ◇
「死者の告発だよ、木全」
音尾は木全の目を睨みつけるように見詰めると、静かにそう言った。
「指紋もDNAも全て一致した。これは二十年間、彼女がたった一人で守り続けた証拠だ」
木全は項垂れるように、その場で崩れた。




