吉兆
——五日目。
工事の進捗は順調で、今日にも浄化槽の直下に到達すると想定されていた。だが、十時の休憩明けにトラブルは起きた。
「ポンプ持ってこい!」
「ホース全部繋げろ、足りない分とポンプは借りに行ってこい」
穴の下から怒号が響いた。
作業員は地上からポンプを下ろして、受け取った下の作業員は横穴に駆けて行った。続いてホースが投げ入れられて、同様に穴の奥へ引っ張られて行った。
「なんだ!?」
モニターを見ていた高木が立ち上がると「地下水脈に当たりましたね」と後ろで声がした。
「千早!」高木が振り向くと「今日あたり出そうだって、音尾さんから連絡を貰いました」と、いつもの静かな口調で千早は言った。
「でも、参ったな。目前で水だなんて」
「いえ、これはもしかするかもしれないな。吉兆かもですよ」千早は下唇に折り曲げた人差し指を当てた。
「なんだよ、吉兆って」
千早はそれには答えずに「木全を追い詰めるには相応しい」と言い残して去って行った。
排水作業は、二台のポンプを使って二時間に及んだ。
昼が過ぎた頃、千早が音尾を伴って高木の元に戻ってきた。
「高木さん、間もなく——湯島の証言通りなら、間もなく遺体を埋めた場所に到達します」
「マジか。強めのモザイクかけるから......ダメか?」
「規制線外から、輪郭も分からないようお願いします」
「約束する」
高木はカメラを構えると、黒と黄色のテープの際に陣取った。
鑑識が数人、機材を持って降りて行った。
「見つけたな」
音尾が呟くと「そうですね」と千早は頷いた。
「音尾さんは行かないのかい?」
規制線の内側に立つ音尾に尋ねた。
「横穴は狭いので、鑑識だけですね。カメラでの記録もあるので、発見状況も後から確認できます」
音尾はそう言うと、イヤホンに指を当てて黙り込んだ。
「千早さん、屍蝋化しているそうです」
「ああ、やはり」
音尾の言葉に千早は驚かなかった。
「吉兆って言ってたヤツか?」
「ええ。地下水を潤沢に含んだ土中で、尚且つ上からは浄化槽の重さがかかった状況。当時の証拠が保全されている可能性が高いと考えました」
「音尾さん!」
大声に振り向くと三鷹が駆けて来るのが見えた。
「何か見つかったのか?」
三鷹は音尾の傍まで走った後で息を整えると「今井敏樹が目を覚ましました」と告げた。




