任意聴取
ノートパソコンの向こうには、桜田の姿があった。
「三鷹です。今日はお世話になります」
カメラに向かって礼をすると『なんもですよ』と桜田は北海道弁を使って答えた。それを聞いた三鷹の口元が綻んで、肩の力が抜けた。
『湯島さん、良いですか?』
桜田は画面の外に向かって、ゆっくりと大きな声で話した。
パソコンごとカメラが向けられて、湯島の顔がモニターに映った。
白く濁った目がカメラを見詰めている。これから、この老人が見てきたものを語ってもらうのだ。
三鷹はゆっくりと息を吸った。
最初は好きに話して欲しいと言われた。千早の意図は分からないが、警察のやり方で問題は無いのだろうと思った。だからこそ、まずは人定質問から三鷹は始めた。
「では、お名前と生年月日、現住所をお願いします」
最初の十分程は、完全に取り調べだった。だが湯島は異議も抗議もなく、淡々とそれに答えていった。
まるでそれが彼の義務かのように。
「えっ」思わず言葉に詰まった三鷹は、それを誤魔化すように「と、木全は他の場所にも埋めてますね」と続けた。
それが千早の最初の質問だった。
それまで淡々と答えていた湯島が、カメラを凝視した。その白濁した瞳で見詰めているのは自身の記憶のように、三鷹には見えた。
「今井加奈さんのご遺体を単純に遺棄しなかったのは、彼——木全は過去にも証拠品を埋めて隠蔽していたからですね」千早の言葉をなぞる三鷹に、湯島は一瞬の静止のあと、ゆっくりと頷いた。
『木全はボランティア先で盗んだ財布やカードを、確かに埋めていました。草森さんの家からは過去にも数回盗んでは、証拠になりそうな物を埋めていました』
「それはどこに埋めましたか?」
質問に湯島は答えなかった。
「どうしましたか?」
『思い出せないのです』
湯島は力無く首を振った。
「それは何故ですか?」
今更誤魔化すことも、嘘をつくことも無意味だ。
『——魔が差しました。引率したボランティア先でのことです』
少し喋りすぎたのだろう。湯島は喉に絡まる痰を気にし始めた。
「お茶でも飲んで、少し休みますか
これは三鷹自身の提案だった。
『大丈夫、続けます』湯島はお茶を飲むと、休むことはなかった。
『テーブルの上に置いてあった三千円をポケットに入れました。そして、それを木全に見られたのです。以来、私はそれをネタに脅されて、裕福そうな老人宅の担当に木全をあてるようになりました』
「なんてことを」
『そして木全が私のしたことを見たように、私たちの犯罪に気付いた生徒が現れました』
「今井加奈——」
『はい。木全は彼女を仲間に引き込むと言っていました。私はあの日、それを真に受けて草森さんのお宅へ今井加奈さんを向かわせました』
「アンタっ!」思わず声を上げてしまった。
『木全は随分前から草森さんに疑われていたようでした。鈴木と二人で草森さんを襲い、人質にしました』
湯島はまるで正気を無くしたように、一心不乱に語り始めた。




