証言の壁
「では、座ったままで失礼します」
三鷹はそう言うと、鞄から取り出した資料をテーブルに並べた。
「なんかセールスみたいだな」
高木は腕を組んで資料を覗き込んだ。
「結論から言うと、湯島は今井加奈と草森ギンの事件への関与を全面的に認めました。佐藤圭太と安田実も、二件の殺人と二件の殺人未遂を認めましたが——」
そこで言葉を切ると、三鷹は困ったように頭をかいた。
「湯島は、佐藤圭太と散歩をしながら話をしていただけだと言うんですよ」
「ここに来て教え子を庇ったという訳か。二十年前にやれよって」
高木は感心した様子も無く、苦々しい表情を浮かべた。
「今井加奈のオヤジさんの容態はどうなんだ?」
「命の危険はもう無いのですが、昏睡状態は続いています」
三鷹は高木にそう答えると、一枚の地図を他の資料の上に置いた
「これが、今回の話の核心です。湯島は地図のここに丸を書きました」
それは千早が買った地図のページのコピーだった。
「遺棄現場の位置です」
全員が覗き込んだその場所は、千早の言った浄化槽の場所と一致していた。
「じゃぁ掘ろうぜ!」
高木が右の拳で左手の手のひらを叩いた。
「ちょっと高木くん。スコップで掘るみたいに簡単に行かないのよ」
島田の言葉に三鷹も頷いて「木全が一切認めていないんです」と、高木以上に苦々しげに言った。
「移転推進派による脅迫だろうと言って譲らないんですよ。安田実が母校の用務員だと言っても知らないの一点張。まぁ、これは実際に二十年会っていないので事実でしょうが......」
「湯島の証言だけじゃダメなのか?ほら、令状とか」
「湯島の証言で遺体が出たとしても、木全の関与を立証するのは極めて困難です」
「ここまで来て、どうにもならないのかよ!」
高木は太ももを叩くと、天を仰いで叫ぶようにそう言った。
「三鷹さん、湯島さんと話は出来ますか?」
暫く黙っていた千早が口を開いた。
「湯島は任意での聴取なので、千早さんが話をするのは自由ですよ」
三鷹がそう答えると「いえ、話すのは三鷹さんですよ」と千早は言った。
「どういう意味ですか?」
「web会議ですね。釧路署に出向いてもらって、三鷹さんが話をします。内容はインカムで私が指示します」
「腹話術の人形役ですか」
三鷹は表情を曇らせて言った。
「事件に関わることですからね。警察官が直接聞き取ることが肝要です」
「では、千早さんには木全を動かす妙案があるというのですね」
「湯島さんの話次第ですけどね」
千早はそう言うと「よろしくお願いします」と頭を下げた。




