安田実
「それはきっと——」
千早が口を開くと「なんで分かんだよ」と高木が恐ろしい物で見るように顔を向けた。
「二十年前の事件の被害者が言った一言を覚え続けた人間が、私の知る限りで、もう一人居るのですよ。更に、音尾さんが木全を救えたのは車が暴走する以前に、その人を認識したのだと思います。つまり、私と音尾さんが共通で見知っている人間になります」
「そうか、俺たちは知らない人間ってことか」
「会話には出てきたかもしれませんし、実は私もノーマークで名前も失念していました。それだけに音尾さんが、現場で姿を見ただけで事件と結び付けたのは、刑事の嗅覚なのだと思うんです」
千早がそういうと、ずっと無言だった秀子が顔を真っ赤にして、我がことのように照れていた。
「木全市長襲撃と、一連の事件の共犯は笠木西高校の用務員です」
「安田実。私もまだ詳しくは知りませんが、用務員の名前です」電話を終えた音尾が、千早たちの話にそう言って加わった。
「ウチの署から釧路に一人行かせるそうです。湯島自身は今井加奈さんの事件への関与を認めているので、遺棄現場についての聴取も素直に応じると思います」
「ソイツは使える奴なのか?」
そう言った高木に「会ってますよ、高木さん。私たちの初対面の日に」と音尾は答えた。
「あのクソッタレかよ」
高木は一度、強く床を踏むと苦々しくそう言った。
「しくじったら、俺のチャンネルで誤認逮捕の公開土下座だ」
「その時は私が出演しますよ」
音尾の申し出に、高木は鼻を鳴らして横を向いた。
「音尾さん、今井敏樹さんの安否の情報は貰えますか?」
少し困った様子の音尾に、千早がそう尋ねた。
「聞いてみますが、何かありましたか?」
「いえ、私が安心したいだけです」
「私も知りたいです」
島田もそう言って音尾に頭を下げた。
「木全は今回の件をどう話したんだ?」高木が横を向いた顔を、再び戻して言った。
「私の方には何も聞かされてないですね。ただ——心当たりが無いとか、ゴミ処理場移転派とか言うのでしょうね」
「まぁ、そうですね。ゴミ処理移転建築となれば億単位の金が動くでしょうから、理由としてはもっともらしいですね」千早はそう言って音尾の予想を補足した。
「やっぱり湯島頼みかぁ」
「湯島の誠意と記憶に期待しましょう」音尾の言葉に全員頷くと「そろそろ、ヒーロー音尾の武勇伝を聞かせて貰えませんかね、本人からさ」と、からかうように高木が言うと一斉に拍手が起こった。
「えっ、いやちょっと......千早さんまで、弱ったなぁ」
音尾はヘッドギアに手を当て、頭を搔くポーズを見せた。




