浄化槽
「まずは条件として、埋めた時間は夜。場所は既に掘削済みの底面を更に数メートル。そしてここが重要なのですが、西野自身がプールの現場としか理解していない——というのが前提です」
「犯人の行動として夜というのも、遺棄した場所も理解出来ますが、西野の認識というのがよく分からないのですが」
音尾がそう言うと、高木も首を縦に何度も振っていた。
「おそらく西野は、当時は新人くらいだったと思うのです」
「はぁ」
「つまり、自分がこの現場のどの部分の施工をしてるのか、理解が浅かったのではないかと」
「まぁ、卒業後も後輩とつるんで犯罪行為をしているくらいですから、仕事に対して熱意があったとは思えませんね」
音尾はそう言うと顎に手を当てた。
「これを」
千早はスマホでマップを開くと、航空写真に切り替えて見せた。
そしてプールの部分をピンチアップした。
「解像度が凄いですよね。何があるか一目で分かります」
そう言って話を続けた。
「このアーチ状の屋根部分がプール。連結して片屋根になっているのが入口や更衣室のある建屋ですね。ラインの引いてあるアスファルトは駐車場、そしてこの建物裏のマンホール穴のある白いコンクリートの土間は浄化槽——」
そう言うと、千早はその浄化槽に指を置いた。
「ここをプールと勘違いしたということはないでしょうか。通常の建物の基礎や駐車場の砂利を敷設する程度の深さを間違えることは無いでしょうが、大型の浄化槽なら相当な深さの根掘りをするはずです」
「あのぅ......浄化槽ってなんですか?」
島田がおずおずと手を挙げたが、隣の高木も分かっていない様子だった。
「そうですね、上下水道のインフラ整備が行き届いた都市では聞かない言葉かもしれませんね」
千早はそう言うと、スマホに『浄化槽 タンク』と入力した。
「このクレーンで吊っているのが浄化槽?」島田は画面を覗き込むと目を瞬かせた。
「このヘルメット被ってるのって、コラじゃねーの?人間、小さ過ぎない?」高木も「こんなの埋めてるのかよ」と目を見開いた。
「浄化槽の耐用年数は一般的な物だと二十年から三十年だそうです」
「じゃぁ、そろそろ入れ替えの時期ですね」島田が期待を込めた目で千早を見た。
「ですが、このような大型の物はもう少し丈夫なようでして——更に適切な維持管理がなされていれば半世紀は使えるそうです」
「じゃぁ、ダメじゃないですか」
島田は肩を落として、恨めしげな視線を千早に向けた。
「私は土木の知識は皆無なのですが、この浄化槽の下に埋めたのなら、横穴を掘ってアプローチするというのはどうなのでしょうか」
千早はそう言うと、音尾に顔を向けた。
「私も専門家ではないですから分からないです。どれだけの土圧が掛かるのかとか、安全性や現実的か否か——でも、湯島を首実検にかける価値はありそうですね」そう言ってスマホを取り出すと電話をかけ始めた。
「なぁ、そう言えば木全を襲った奴って結局誰だったんだ?」
高木が素朴な、そして誰もが聞くのを失念していた疑問を口にした。




