再会
「ノックって何回だ?」
「 三回よ」
病室へ向かう二人の後ろを千早は歩いていた。
忙しそうに歩き回る看護師と、松葉杖でぎこちなく歩く少年。外科の入院病棟は空気が軽く思えた。患者に若い人が多いせいだろうか。切迫した命の危険が近い患者が少ないからだろうか。
そんな中でもまだ危機に近い音尾の病室は個室だった。
教えられた通り、高木が三度扉を叩くと「どうぞ」と女性の声が聞こえた。
引き戸を開けて中に入ると、ベッドの背もたれを立てた音尾が番茶を飲んでいた。音尾のベッドの横のスツールに腰を掛けていた女性は、音尾の耳打ちに立ち上がると「主人がお世話になっております。音尾の妻の秀子です」と頭を下げた。
「音尾さん、ボクシングでもするのかい?」高木は、音尾の頭を可笑しそうに指差した。
「いやぁ、実は頭蓋骨を外してるんですよ」音尾はそう言ってヘッドギアに触れると、高木に歯を見せて笑った。
「えっ」高木の顔からサッと血の気が引くのを見た音尾は、嬉しそうに声を出して笑った。
「脳圧が高いんですね。頭を打たれたんですか?」
千早はそう言って音尾の横に立った。
「そうみたいですが、覚えてないんですよ。脳の腫れが引くまではしばらくこのままです」そう言ってヘッドギアをポンポンと叩く音尾に、高木は「ひぃ」と声を上げて島田の後ろに隠れてしまった。
その様子に三人だけでなく、秀子も声を出して笑っていた。
「あなたが高木さんですね。音尾から聞いていた通りです」まだ収まらない笑いに、口を抑えながら秀子は言った。
「ちょ、音尾さん。あんた、俺のことなんて話したんだよ」
「ファンタジスタ」
秀子は音尾の代わりにそう答えた。
「音尾はサッカーが好きなのです。千早さんが司令塔なら高木さんはファンタジスタだって。気付けば場を作っている人で、何かをしてくれるんじゃないかって」
「へぇ、物は言いようね」
島田はそう言うと「秀子さん、高木くんは適当なだけの行き当たりばったりなだけですよ」と、皆に聞こえるように耳打ちをした。
そんな和やかな雰囲気を一変させたのは千早だった。
「音尾さん、これを」
付箋を貼った二十年前の笠木市の地図を、ベッドの上の音尾の太ももの辺りに乗せた。
「痛みは大丈夫ですか?」
音尾が頷いたのを見た千早は、早速付箋を貼ったページを開いた。そしてその上に、今の笠木市の地図を重ねた。
「プールの場所、西野建設の土場だったのね」島田が地図を覗き込んでそう言った。
「土地の選定からキナ臭いな。ゴミ処理から離れてるのも——」
「疑わしいですが、全て時効ですね」
音尾は悔しげに高木の言葉を引き継いだ。
「湯島の証言次第では、プールの底じゃないかもしれないと思ったんですよ」
全員が千早の顔を見て、次の言葉を待った。




