探偵
漫画喫茶のカウンターで、島田は所在なげに立っていた。
キョロキョロ辺りを見回しても店員の姿は無い
呼び出しブサーはあるが、呼び出したところでなんと言えば良いのか思案に暮れた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
島田の姿に気付いた店員が、掃除用具を置いて駆けて来た。
ポニーテールが揺れるのが可愛らしい、
「一時間八百円ですが、こちらのデイプラン3hですと二千円とお得ですよ」
ラミネートされたメニュー表みたいなものを差し出した。
「あ、いや。違うんです。客じゃなくて......その......」
言いかけて踵を返した。
(探偵とは事務所かBARに居るものだ)
(こんな漫画喫茶に居るわけがない)
「ごめんなさい、いいです」
そう言った背中に「もしかして、探偵さん?」
そう声が掛けられた。
カウンターで二百八十円を払ってドリンクバーを頼んだ。
使えるのはラウンジと呼ばれるテーブル席で、漫画が詰まった本棚に囲まれていた。
メロンソーダにストローを挿して氷を弄ぶ。
アイスコーヒーが飲みたかったが、メロンソーダが目印らしい。
「アンタが依頼人か」
いきなり背後から掛けられた声に、背すじが伸びた。
椅子がガタンと音を立てた。
「探偵さん」
振り向き見上げると......
見上げると本棚しか無かった。
「どこ見てんだよ」
下から聞こえた声に視線を下げると、小学生くらいの男の子が居た。
「あなた——キミが、探偵さん?」
「そんなわけないだろ」
少年は「マンガじゃないんだから」と言いながら島田の向かいに座った。
そしてメロンソーダを掴むと、勝手に飲み始めてしまった。
「ちょっと、キミ」
別に飲みたい訳じゃなかったけれど、思わず手を伸ばした。
少年はそんな私の前にスマホを立てると画面を向けた。
『助手にメロンソーダをありがとう』
画面の中から若い男が話しかけてきた。
整った顔立ちだ。
だが目元まで覆うように伸びた髪や無精髭に、この男の実情が見えるようだった。
「あなたが、探偵?」
男は頷くと「千早冬馬だ」と短く告げた。
「どうしてこんな回りくどいやり方を?」
島田は当然の疑問を投げかけた。
千早の瞳に一瞬だけ、暗い光が宿ったように見えた。
『職業柄......危険が多くてね』
そう言ったスマホの背後で少年が首を横に振った。
そしてゆっくりと大きく口を開いた。
「しゃっ・き・ん・と・り」
『私も忙しい身だから報酬は......』
無音で告げた言葉を受けた島田は、スっと席を立った
背中で何かを叫ぶ声が聞こえたが、振り向くことは無かった。
カウンターには先程の店員がいた。
軽く会釈をして通り過ぎようとした時だった。
「高木さんの件ですよね、島田さん」
背後からの声に、今度は振り向いた。
反射的に、咄嗟に......
そこには目元まで覆う無造作に長い髪に無精髭をたくわえた青年が、島田を見下ろすように立っていた。




