凶報と決意
その凶報はラジオからだった。
釧路署へ向かうタクシーの中で三人は息を飲んだ。
「運転手さん、ボリュームあげて」
高木が前のシートにしがみついて言った。
島田は呆然と、テレビでも見るかのようにラジオを見つめていた。
千早のスマホからは、いつまでもコール音だけが鳴っていた。
『現在、市長を襲った男の身柄は確保。警察官ひとりが車に跳ねられ重体と、情報が入っています。木全市長の無事は確認されています』
「音尾さん、出ないのか?」
千早のスマホに視線を落として、高木が声を低くして言った。
千早が答える代わりに、アナウンサーの緊張した声が車内に流れた。
『新たな情報です。搬送されたのは音尾金吾巡査部長。現在意識不明の重体と——』
ドサっという鈍い音がして車体が揺れた。しがみついたシートから手を離した高木が、後部座席に沈む音だった。
誰も口を開かなかった。
運転手も何も言わず、降り際に「どうか、気を落とさないで」と目を伏せた。
去って行くタクシーの排気音をかき消すように、海保のヘリが上空を過ぎて行った。
「釧路の病院じゃないのか」
高木が西へ飛び去る機影を見上げた。
「帯広——いや、札幌の病院でしょうか。ドクターヘリと中継するのかもしれませんね。新得町に緊急の発着場があったと思うので、治療も並行するなら......」
「はは、沈着冷静な千早さんは本当に凄いね」
「ちょっと、高木くん!」島田がまだ潤んだ瞳のまま、強く鋭い視線と語気を向けた。
高木は島田に背を向けると「二人ともどうか、どうか頑張ってくれ。千早さん、悪かった」と肩を落とした。
「あっ」
普段の千早からは聞かれないような、間の抜けたような声が漏れた。
「音尾さんからLINEが来てました」
「助かったのか!」
二人の表情に光が灯ったように見えたのも束の間、千早の言葉に再び俯いてしまった。
「事件前の送信ですね。添付ファイルがあります」
千早は二人にスマホの画面を向けた。
「科捜研に送ったCD-Rの解析結果です」
「これは......連続写真?」
島田が首を傾げた。
「動画の切り抜きだな。容量のせいか」
「そうですね。動画はきっと入れられなかったのでしょうね。ファイルの圧縮なんて、当時の女子高生には難しかったでしょうし」
「私は今も無理よ」
島田は千早に首を振って見せた。
「音声データもありますね」
『ゆっちぃ、今更もう無理だろ。俺らが卒業するまではよろしく頼むね。バレなきゃいいんだって』
「これ、木全市長の声に似てるわ。少し若いけど」
「ゆっちぃって、湯島のことか。相当ナメてるな」
「連続写真は不鮮明ね。当時の画素数じゃ仕方ないわね」
「きっとその辺は、科捜研が何とかしてくれるだろ。なぁ、千早さん」
千早は眉根を寄せると困ったように「鮮明化は可能なんですが——」と口ごもった。そしてほんの一瞬、西の空に視線を遣った。
「鮮明化した画像は、正式な証拠にはならないのです」
「はは、沈着冷静な千早さん......アンタがそう言うならそうなんだろうな。それなら俺たちは、この不鮮明な画像に意味を持たせなきゃだな」
高木はそう言って右の拳を差し出した。
「はい」千早が高木の拳に、自身の拳を真っ直ぐ当てた。
「ここからね」
島田の拳が二人の拳に触れた。
強く吹いた潮風が、三人の拳に当たった。それは音尾の拳だと、誰となく感じていた。




