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死者の告発  作者: 浅見カフカ


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教育委員会

「では、図書館で過去の新聞を——」

勢いよく音尾が立ち上がった。

「音尾さん、石器時代かよ」

高木が肩を震わせてスマホを見せた。

「今はウェブで探せるんだよ」

音尾は薄暗い店内に青く光る画面を見詰めると、拍子抜けしたようにストンと腰を下ろした。

「湯島は定年してるのか?」

「そうですね、今は六十七歳だったはずです」

「じゃぁ七年前か」

高木は何度か画面をタップして、その度に首を傾げた。

「六年前から十年前まで遡ったけど、湯島秀樹の名前が退職者にないぞ」

「高木くん、ちゃんと調べたの?」

島田が画面を覗き込んで、疑いの目を向けた。

「じゃぁ、しぃさんもパソコンで調べてくれよ」

高木は仏頂面を島田に向けた。

「——無い......ですね」

「だろ、異動にも退職にも無いんだよ」

音尾もスマホとパソコンを交互に覗き込んで「うーん」と唸っていた。

「教育委員会に異動していませんかね」それまで沈黙していた千早が口を開いた。

「あっ、ありました!」

全員が一斉に画面を覗き込んだ。

【退職 釧路市教育委員会 湯島秀樹】

「七年前ですね」

「釧路かぁ」高木が天を仰いだ。

「人口はそこそこ多いですね」

千早は高木の嘆きを言葉にした。

「私は科捜研の結果を待ってから動きます。ご武運を」

ご武運を——

音尾が言った似つかわしくないこの言葉が、最もこの場に相応《ふさわ》しく思えた。

「加奈さんを——」

「帰しましょう!」

島田の音頭に、異口同音で全員が続いた。


スピーカーからメロディ共にアナウンスが流れた。

「次は終点、くしろぉ釧路。お手回り品、お忘れ物をなさらないようご注意ください。ご乗車お疲れ様でした。次は釧路」

特急おおぞらは徐々に速度を落としてホームへと滑り込んで行った。

島田は、三缶開けて高いびきで眠る高木を何度も揺さぶっていた。

帯広駅で多くが降りたせいか、ホームに降りた人はまばらだった。

「海の匂いってしませんね」

島田がひくひくと鼻を動かした。

地図で見る限り海が近い印象だったが、確かに磯の香りはしなかった。

「風向きですかね?」

駅舎の外に出ると大きな車輪のオブジェがあった。

「これって電車のですか?」

「汽車のですね」

千早はそう言うと駅舎を振り返った。

帯広を過ぎてから、気付くと高架ではなくなっていた。

地上にホームがある光景に、ノスタルジックな気持ちを覚えていた。

「この先にもレールは続いているんですね」

曇天《どんてん》の下、駅前の荒涼とした景色が寂寥《せきりょう》を運んだ。この世の果てへ続く入口は、存外このような場所なのかもしれない。

「私たちは真実の最果てに、何を見るのでしょうかね」千早は島田の呟きにそっと言葉を寄せた。

「さぁ、どうやって湯島を探そうか」

酔いもすっかり醒めた高木がそう言うと、千早が悪い笑みを口の端に乗せて振り返った。

「湯島先生には迷惑ばかりを掛けたけど、こうして独立して映像仕事をしています——というストーリーでいきますか」

「なるほど、釧路教育委員会で定年を迎えたと知って行方を尋ねるんですね。お礼を言うために」島田が千早の言葉を継いで高木に言った。

「どうして俺を見るんだ」

「高木くん、っぽいもの」

「っぽいじゃねーよ」

「っぽいですね」

「千早、このっ」

寂しげな駅前に、賑やかな光景があった。


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