白い車
公営住宅のインターホンを押すと、今井加奈の母親、純子が戸口に出た。
「あっ、この間の」
「千早です。先日はありがとうございました」
「今日はどうされたんですか?」
前回の訪問失礼があっただろうか。
純子の様子が、妙によそよそしく感じた。
「幾つかお借りしたい写真があって伺いました。佐藤くんと湯島先生の写真を探させてください」
「湯島先生?」純子は首を傾げた。
「当時のボランティア部の顧問です」
「ああ、そうなんですね」
そう言うと純子は居間へと通してくれた。
「今日はご主人は?」
「所用で外出しています」
やはり違和感が拭えなかった。
千早の訪問を妙に警戒して、夫の所在を訊ねると声のトーンが冷たさ帯びた。
これ以上は聞くなというシグナルを発していた。
写真は約十年前に、今井夫妻と佐藤圭太で撮ったものを借りることが出来た。
だが、湯島教諭の写真はここには無かった。
今井家を辞し一階の共用玄関に降りると、駐車場に入る車を見掛けた。
今井敏樹だった。
——白だ。
白い乗用車だった。
反射的に監視カメラの映像が浮かんだ。
『う67-44』
ナンバーを覚えて車に近付いた。
笑顔を浮かべて会釈をすると、千早は車に駆け寄った。
「こんにちは。今、佐藤圭太くんの写真をお借りしました」
「ああ、そうでしたか」
窓を半分だけ開けてそう言った
強い警戒を感じたが、写真を借りに来たと知ると表情が緩んだ。
「ところで、今日はどちらへ」
「それは、まぁ、関係ないことですよね」
「すみません。職業柄、良くないですね」
千早がそう言って頭を搔くと、ふっと口元を緩めて「それでは」と窓を閉めて車を降りていった。
共同玄関へ向かう背中を見送った。
直後、千早は高木さんに今井さんの車と入手した写真とメッセージをLINEで送った。
『市長の周りで見ていませんか』
『V確認したら折り返す』
返事はすぐに返ってきた。
YouTuberとはそういうものなのだろうか。
もしも今井敏樹が佐藤圭太の共犯者で、偽装自殺の手助けをしていたら......
西野のマンションのカメラに映っていたのが今井敏樹なら......
彼はピースのひとつなのだろうか。




