メッセージ
「ラーメン屋のゴミから薬の袋を探せば指紋が取れるかもしれません」
そう言って踵を返す音尾を千早は止めた。
「無駄ですよ。大抵は長くても二、三日で回収業者がゴミ処理場へ持って行ってしまう。今頃は既に煙か灰です」
日中に見たゴミ処理場の方へ視線をやった。
煙突の航空障害灯の点滅がその存在を夜の闇に誇示していた。
音尾は落胆しながら千早の視線の先を見て「もしかすると......」と呟いた。
考えを整理するように顎に手を当て頷くと「まだ間に合うかもしれません」と口にした。
「いやいや、もう二週間以上経ってますよ」
否定する千早に「あの煙突、航空障害灯が光ってますよね」と言った。
「そうですね、六十メートルを超えると必要なんですよね。日中も紅白のペイントが見えました」
「さすがですね、千早さん。実は笠木市のこの煙突は全国的にレアなんですよ。大抵は維持費を抑えるために五十九メートル以下で作るんです」
音尾は得意気にそう話した。
「やたら詳しいですが、それが何か?」
「実は今年で稼働十九年なのですが、処理能力が落ちているんですよ。今回の市長選の最大の焦点が処理場の移転建て替えか、改修延命だったんです」
「はぁ」
千早の興味は既に音尾の話からは離れていた。
「ああ、いやいや。結局改修延命支持の木全市長が当選したのでゴミ処理が滞ってるんじゃないかと思うんですよ」
冗長な話に千早が飽きていることを察した音尾は、慌てて結論を述べた。
「嫌ですよ、ゴミ漁りなんて」
千早はにべも無く断ると「そんなことより」と音尾に顔を近付けた。
「稼働十九年ってことは、建設作業や計画はそれ以前ってことですよね」
「そうですね。以前は隣の松浜市に処理料金を払ってたので自前の処理場建設は二十二年くらい前に持ち上がった計画だったと思います。工事自体は一年くらいかかったかと」
「埋めちゃえば出てこないですよね、今井加奈」
千早は目をキラキラさせて音尾を見た。
「なっ」
音尾は息を詰まらせるように短く声を上げた。
そして「千早さん、それはいけない。推理も思い付くのも自由だ。けれど、嬉しそうな顔はいけない」と首を振った。
たしなめられた千早は「嬉しそうでしたか」と言ったあと「嬉しくないですかね」と問い掛けた。
「生きてて欲しいじゃないですか」
音尾はごく当たり前の感情を千早に言った。
「鈴木淳也は二十年前、今井加奈失踪当日にあった強盗殺人事件の関係者だと思います。理由はボランティア部です」
千早はそう言うと、今井家で借りたノートを見せた。
「木全が部長で鈴木も部員です」
「初耳です、それは。きっと部員や学生への聴取は少年課で担当したせいですね」
「分業の弊害か縄張り意識かってとこですか」
「言い訳をするのでは無いのですが、今井加奈犯行説が捜査本部では主流でした。当時、彼らの名前が出たとしても誰疑わなかったと思います」
音尾は臍を噛むように俯いた。
「だとして、誰が鈴木淳也を殺害したのでしょうか」
「あの動画を見た人でしょうね」
「では動機は口封じですか?」
「復讐かもしれませんよ。いや、復讐です」
千早は抑えた低い声で言った。
「あのハリギリは復讐者からのメッセージです。それなら繋がるでしょう、理屈が」
言い終える頃には、もう笑みを隠せずにいた。




