宛名
「で、そのメッセージって何ですか?」
「さっぱり分からない、見当もつかない」
島田の問いに即答した千早は、軽自動車の薄っぺらい背もたれに体重を預けた。
「あっ、出て来ました」
笠木警察署の正面玄関から、画面では一方的に旧知の仲となった高木が姿を見せた。
隣には無表情の音尾が立っている。
島田は音尾から引き離すように、高木の腕を掴んで車に戻って来た。
千早が苦笑いで手を挙げると、音尾も同様の表情浮かべて小さく頭を下げた。
「千早さん、行きますよ」
島田はそう言うと強めにドアを閉めて運転席に座った。
千早は後部座席に戻ると、助手席の高木に名刺を渡して「千早です」と言った。
「ああ、シィさんから聞いてます。色々とありがとうございます」
面会で島田から聞かされていたお陰か、千早はすんなりと受け入れられた。
「音尾さんはもう疑ってませんよ」
「そのようですね。期限いっぱいは引っ張られたけれど」
思い出して苦々しい表情を浮かべた。
「とりあえずレストランに入りましょうか。高木くんも好きな物食べたいでしょ」
島田はそう言うと駐車場に車を停めた。
「シィさん、ここ高いんじゃ」
高木が看板を見上げた。
ファミレスのつもりだった千早も看板を見て腰が引けた。
「出所祝いよ」
「服役してねーよ」
高木がそう言うと島田は嬉しそうに笑った。
「調子出てきたね」
そう言って先頭を歩く島田の後ろを、男二人がのこのこと続いた。
席に着いてしまうと先程の弱気は何処吹く風で、高木は「ラガー、瓶で貰えるかい?」と開口一番ウェイトレスに言った。
「生じゃないんですね」
千早がそう言うと「炭酸のキツイところが欲しくてね」と歯を見せた。
「ほらほら、空きっ腹じゃ悪酔いするよ」
島田が差し出すメニュー表を皆で覗き込んだ。
「枝豆と冷奴」
「ハンバーグセットかな」
「じゃぁ呼びますね」
島田が呼び出しのベルを押すと、ビールとグラスをトレイに載せたウェイトレスが丁度到着した。
グラスをテーブルに置き、栓を開けた。
小さな金属音と、炭酸が爆ぜる音が涼しげに響いた。
テーブルの上に置かれた瓶の口から、白く細い煙があがった。
「勝利の狼煙だ」
高木はそう満足気に言うと、手酌で注いだ。
「それにしても、注いでくれないなら栓も抜かなくていいのになぁ」
高木はそう言いながら、一杯目を流し込むように飲み干した。
「栓は抜いて提供しないとダメなんですよ」
「え、どうして?」
千早の言葉に島田がスマホから顔を上げた。
高木はご機嫌で二杯目の手酌中だ。
「栓をしたままだと酒類販売業免許が必要になるんですよ。酒を売ったことになるんですよ」
「ああ、なるほど。栓を抜くとお酒を提供したことになるんですね」
「もうね、屁理屈ですよね」
千早はそう言って笑う途中で息を飲んだ。
「センですよ、セン!」
「どうしたんですか?」
島田は千早の大声に目を見開いた。
「ハリギリの別名ですよ。センノキと言うんです」
「あの、鈴木淳也さんが吊るされていた......」
島田は周囲に配慮するように、声を抑えて話した。
「木材となった時にはセンと呼ばれるんです。漢字で書くと部首が木で旁が全です」
「!!」
島田は警戒するように周囲を見回した。
「木全市長ですよ、メッセージの宛名は」
千早は静かにそう言うと、今井加奈のノート開いて見せた。
高木も二杯目には口をつけずに、ノートを覗き込んで生唾を飲んだ。
ゴクリと言う音だけが場に響いた。




