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死者の告発  作者: 浅見カフカ


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今井家

今井敏樹は妻の純子と市営のマンションを出ずに暮らしていた。

千早の突然の訪問に戸惑いながらも「引っ越してしまうと、加奈が戻れなくなるから」と語った。

「それで探偵さんが何の御用ですか?加奈の居場所が分かったんですか?」

一瞬——

期待をする目をしたが、彼はすぐに目を伏せた。

期待しては裏切られるを繰り返すうちに、期待をやめたのだろう。

それでもこの場所を移らないのは、人の心の矛盾だ。

「実は草森さんの事件で」

「帰れ」

「帰ってくれ!」

ドアを閉じようとする敏樹の腕を止めたのは、千早の一言だった。

「加奈さんに汚名を着せたままでいいんですか」

閉じかけたドアが、薄く開いたまま止まった。

「——入ってくれ」

敏樹はそう言って千早を招き入れた。

玄関で相対あいたいした敏樹は、長身の千早を見下ろすと、背を丸めて言った。「貴方は加奈を信じてくれるのですか」と。

リビングダイニングに通された千早は、テレビの前に置かれた長方形の座卓に向かって正座をした。

かつてはここで団欒もあったのだろう。

卓上の輪じみや傷が、その記憶を留めていた。

「どうぞ楽に」

お茶を運んだ純子が、正座を崩すよう気遣ってくれた。

「最初は、警察が加奈を探してくれていると思ったんです。そのうちにそれが違うと分かって、近所の人も加奈が人を殺して金を奪って逃げたとか男に狂ったとか言い始めて——」

悔しさが込み上げて来たのか、敏樹は俯いて鼻をすすり始めた。

「加奈さんは犯人ではないです」

「ありがとう。久しぶりにそう言われたよ」

「圭太くんがよく言ってくれてましたね」

お盆を胸元に抱えた純子が、遠くを見詰めるように言った。

「奥さん、圭太くんというのは誰ですか?」

「同級生の佐藤圭太くんです。加奈のボーイフレンドで、昔はよく来てくれたのだけど——」

純子は敏樹を見て言葉を止めた。

「もう来るなと言ったんです。失踪から十年経っても来るんですよ。圭太くんには圭太くんの人生がある。加奈を待つのは私たちの人生だから......」

「加奈さんはご自宅で草森さんの話はしていましたか?」

千早は話の矛先を変えた。

ここにはいい話を聞きに来た訳ではない。

「ええ、ボランティア部の活動が楽しいらしくてよく話してくれましたよ。それとあの新市長の木全さん!彼が部長さんで、在学中にヘルパー二級を取って活動していたんです。加奈も目標にすると話してましたね」

「木全市長が部長さんだったのですね!それは素晴らしい。ちなみに鈴木淳也という名前を聞いたことは?」

夫妻は顔を見合せて「記憶にないですね」と答えた。

「あと、加奈さんの部屋を見せてもらっても?」

ふたりは立ち上がると「どうぞ」と快く案内をしてくれた。


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