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死者の告発  作者: 浅見カフカ


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10/31

絵図

音尾は懐から何かを取り出すと、テーブルの上に置いて千早へ滑らせた。

一枚の不鮮明な写真。

もう随分と懐にしまわれていたのだろう。

音尾の汗と時間が染み込んだ写真は、角がとれ随分とクタクタになっていた。

「ショッピングモールのATMで、数回に渡って金を引き出した今井加奈です」

画質の悪さに納得がいった。

「この日、草森ギンという高齢女性が殺害されました。事件の発覚までは数日を要しましたが」

「これに失踪か。——警察が疑うに十分すぎる材料だ」

「ただ、当時の未成年の犯罪は配慮すべき制約が多く......指名手配どころか、この写真も見せられない状況でした。その結果が美人女子高生の失踪というセンセーショナルな見出しの影に、強盗殺人事件は覆い隠されていきました」

「子供の写真よりも、彼女の写真を見たんだろうね」

千早の言葉に「そうですね」と振り返るように音尾は答えた。

「ただ、それが冤罪だと思わないからこそ高木さんの拘留なんてことを二十年経ってもやらかすんだよ。あなた達は」

ダン!と音が響いた。

音尾が両手をテーブルに着いて立ち上がった。

「二十三歳の時、最初に担当したのがこの事件だった。途中で定年していった先輩、去っていった仲間、彼らの想いと被害者の無念と正義の為に我々は昼夜を問わず人生を捧げた。それは誰にも侮辱させない」

「侮辱なんてしないけどね、的外れを指摘しただけだよ」

ふつふつと煮えるような瞳の音尾に、千早は凍るような一言を浴びせた。

「真犯人が笑ってるよ」

音尾の瞳から怒りが消えた。

だが、光は失われていないように見えた。

「当時の捜査本部が描いた絵図ストーリーを教えてくれますか?」

千早は冷めた珈琲に口をつけた。



平成十八年八月七日——

笠木西高校一年生の今井加奈は、ボランティア部の活動で度々訪れていた草森ギンの自宅を訪れた。

暫しの談笑のあと、隙を見て金品を物色したが露見。

その後は激しい暴行を与えて暗証番号を聞き出すと、キャッシュカードを持ち出して数回に分けてほぼ全額をATMから詐取した。

再び草森宅に戻った今井加奈は、台所の包丁を持ち出すと複数箇所を刺して失血死に至らせた。

逃走時には、玄関を施錠して植え込みに鍵を捨てて発覚の遅延を計った。


音尾は当時の捜査員が描いた絵図を千早に語ると、長く息を吐いた。

「今井加奈単独犯で追ったのですか?凶器の指紋は?靴跡は?引き出した後に現場に戻った根拠は?」

千早は目眩がしそうな衝撃を受けていた。

完全に決め打ちだ。

四角錐の底面だけ見て四角形と言い切る愚行だ。

「凶器と鍵からは指紋は出ていません。室内からは今井加奈他複数の指紋が出ましたが、被害者以外で新しいものは今井加奈のものでした。靴跡は玄関に笠木西高校指定のローファーのものが確認されています。現場に戻った根拠は、被害者が殺害されたのが防犯カメラに撮影された時刻よりも後と推察されたからです」

音尾はまるで捜査本部で報告するように、千早の疑問に答えていった。

「どうして鍵と凶器に指紋が無いのでしょう?他の部分にはあるのでしょう」

「それは手袋等で指紋を残さないようにしたからでは?」

「壁や電気のスイッチには残していたのに?今井加奈は本当にホンボシですか?」

千早の問い掛けに、音尾は黙り込んでいた。



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