表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第3章 5本の腕と向日葵のかけら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/61

さよなら『サニー』

 蛇は地面に横たわり、ピクリとも動けないようだった。

 私も体はピクリとも動かず、衝撃であおむけに倒れたままだ。

 キーロさん、と呼びかける声があり、小さなうめき声が上がった。そのあと、蛇に何かがつかまった感触がした。

 そうしたら、不思議なことに、蛇はずるずると洞窟の床の中に引きずり込まれ始めていく。


 声がした方に四角い明かりが開き、男の子の顔がぼんやりと照らされた。静かな洞窟内にコール音が鳴る。どうやら救急車を呼んだようだ。携帯がオフになると再び洞窟内は暗くなり、なんとなく輪郭が分かるくらいの明るさに戻った。


「サニーさん」


 そう呼びかけた声からは何かを迷う気配を感じた。

 瞬きをして、続きを待った。しばらくして、あまり感情のこもらない声がした。


「サニーさん、僕とキーロさんが勝った」

「……そうね」


 私から蛇が抜けていくうちに、いっしょに毒気とピクルスたちに対する怒りも抜けていくような気がした。私の妹を殺した奴ら。そいつらは殺した時の反応からも、もう殺し尽くした気もしていたし。負けてしまったことで私の区切りもついた気がする。


「だからサニーさんには2つの選択肢がある。ここは新谷坂山の封印の入り口。蛇は今僕が再び封印した。サニーさんはどうしたい? 一緒に封印される? それともこのままがいい?」


 封印……そういえばさっきそんなこと言ってたわね。


「封印されるとどうなるの?」

「よくわからない。僕も半分以上封印されてるけど、なんていうのかな、ねばねばした液体の中でずっとうつらうつらしている感じ。そんなに悪いものでとないと思うけど、封印されたら封印が解かれるまで外には出れない」


 それから、と声は続く。


「そのままでいいなら蛇の部分だけ封印されて、サニーさんだけここに残る。7分の6食べられたってことだから、多分7分の1だけ残る。どこが残るかは知らないけど、多分死んじゃう」

「別に死ぬ分にはかまわない。もともと死ぬ予定だったし。……倒れたのはキーロだったのね。大丈夫かしら。蛇は動けなくするだけの毒が好みだったみたいだから多分大丈夫だと思うけど、どのくらいで効果が切れるのかはわからないわ」

「そう、教えてくれてありがとう」


 こつこつと足音が近づいてきて、私の隣に座り込むのがわかった。


「怒ったり疑ったりしないの?」

「怒るかどうかは、まあなんていうか、お互いさまだよね。キーロさんは怒ってるかもだけど。あ、そうだ、キーロさん、呼吸は普通だったし多分大丈夫。それに僕の友達は、蛇が毒を使うとしても僕を長くいじめるために、最初はごく弱いものだろうっていってたから」

「……あなたの友達もろくでもないわね」

「でも友達がいないと僕らは負けてたから」


 日はとうに暮れていて、見あげる天井は真っ暗で何も見えない。声は岩棚に反射してどこから聞こえているのかはよくわからない。けれどすぐ隣にいるのは気配でなんとなくわかった。


「私、妹を海に投げ捨てたのはピクルスたちだと思うけど、殺したの自体は蛇の可能性もあるのかなとも思ってた」

「タイミング良すぎるもんね、サニーさんも蛇に呪われてたのかも」

「どうかしら。でも、一目見て蛇には勝てないことはわかったし、利用して復讐しようとした」


 あなたが蛇への復讐も肩代わりしてくれた。


「そう」

「怒らないの?」

「さっきの友達が『大切なものは、他人に理解されるかどうかは関係ない』っていってた」


 ゆったりとした沈黙が続く。

 なんだかだんだんどうでもよくなってきた。

 少し意識が薄らいできた気がする。

 すでに私の中から蛇はもうほとんど抜け出ていて、私自身も大部分が失われ始めたからかもしれない。


「封印を選ぶならそろそろ時間だけど」


 どうしようかな。


「封印されたら蛇の近くにいることになるの?」

「違う部屋を用意するよ」


 また、少しの沈黙。


「決められないからこのままでいいわ」

「わかった。残った体は洞窟の奥の方に隠しとく?」

「そのままでいい」

「そう。じゃあ、元気で」


 元気で、っていう挨拶は、わるくない。

 闇の中に立ち去る気配がした。



「これなる返還により、主との縁は解消された。今ここよりは我が封印にて守られる」


 ニヤは厳かに宣言する。

 封印の底から、蛇がぼんやりとこちらを見ていた。


「ここは脇道だけど、封印は普通にできるんだね」

「封印の中に入れば同じだ。この穴の入り口は埋めるのでいいな」

「そうだね。あると便利そうな気はするけど、変なのが入っても困るし」

「承知した」


 僕はニヤを残して明るい洞窟の外に出る。

 結局今回は話し合いが成立する余地はなかった。

 僕も蛇もサニーさんも自分の目的を果たしたいと思っていて、最終的に僕が勝って目的を果たした。もう全部けりはついた。

 ニヤにはああいったけど、僕は洞窟をそのままにしてサニーさんの一部が見つかって騒がれるのがなんとなく嫌だったのかも。


 事件が終わった後日譚。

 僕はといえば相変わらずだ。

 あの日僕は救急車を呼んで、キーロさんを乗せた。

 結局、麻痺の原因はわからなかったけど、病院で3時間ほど経ったら動けるようになった。立ちくらみでは? という診断になった。

 そしてキーロさんは望み通り、日常に戻っていった。


 翌日、生還した僕は藤友君にめちゃくちゃ怒られた。迂闊すぎるって。ちゃんとリスクを考えろって。返す言葉もない。こんなに怒られたのって、いつ以来だろう。ナナオさんは、よかったと泣きながら、また僕をギュッと抱きしめた。ナナオさんからはいつも太陽のにおいがする。


 前日午後の授業をさぼった顛末について。僕はいつもの封印の影響か、先生に不在すら気づかれてなかった。藤友君はちゃっかり病欠届けを出していたようだ。その結果、無断欠席扱いになってたナナオさんだけ先生に怒られて、ずるいと言われた。罰としてあの録音データを取られた。

 やばい、まじ消して。僕の結婚式に流すとかいわないで。


『腕だけ連続殺人事件』は6本目の腕が見つかって以降、新しい腕が見つかることはなかった。被害者は4本目の腕以外は誰のものかもわからないままだ。神津市では年間行方不明者数は多い。くまにゃんさんも、よっちさんも、でりあさんも、よしみちさんも、神津ペッカーさんも、そしてサニーさんとその妹も、そういうふうに扱われるのだろう。

 そのうちテレビのニュースも落ち着いて忘れられ『未解決事件スレッド』でだけ名前を見るようになる。


 新谷坂高校の屋上で寝転ぶと、太陽を吸収したアスファルトが背中をじりじり温めた。

 新谷坂山からは真っ白い入道雲が立ち上っていた。

 もうすぐ、本格的な梅雨が来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ