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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第3章 5本の腕と向日葵のかけら

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『4人と1匹』の作戦会議

 僕らは昼休みのあと、授業をさぼって、寮の僕の部屋に4人で集まって作戦会議をした。

 机と椅子とベッドぐらいしかないワンルームなので、ギュウギュウだ。散らかっていて少し恥ずかしい。とりあえずコーヒーを入れてクッキーを出す。


「いいかな、敵は2人を無力な餌だと思ってる。反撃されるとは全く思っていない。だから、そこを突くしか生き残る方法はないと思う。東矢、お前昨日も全く動けなかったんだろう?」


 藤友君が窓際の床に立て膝で座って呟く。

 まあ、情けないことに、そのとおり。


「どうせ次も動けない。なら、使うのは反射の呪符だ。他の札は効果が出るのに時間がかかるし、これなら動かなくても自動で発動する」

「ちょっと待って、何を言ってるの?」


 椅子に行儀よく座ったキーロさんは言う。まあいきなり呪符とか言われても当然だよね。

 だから僕らは実験してみせた。呪符を僕の手のひらの上に置いて上から石を落とす。石は呪符に落下した直後に跳ね返って落ちた距離くらいに浮き上がり、不自然に端が欠けた。


「えっ、何これ、マジックかなにか?」

「何かはわからない。でも、なんか、多分、エネルギー?、を、反射する、札? 僕も意味はよくわからないんだけど」


 我ながらわけのわからない説明だなと思う。妖怪とか怪異なら信じられるんだけど、魔法の札と言われると急に信じられないのは何故だろう? 呪いのアイテムと同じと言えば同じなのに。


「これで蛇の攻撃を蛇自身に跳ね返す。ただ、この呪符は弱点があるんだ。東矢にしか使えない」


 さっき藤友君でも実験したけど使えなかった。この呪符は封印のために『彼の方』が作った物で、僕が使えるのは半分以上封印されてるからだと思う。理屈はやっぱりよくわからない。


「実験の結果、呪符は少なくとも同等以上の威力を相手に返した。だが、蛇と東矢はもともとの強さがケタ違いだ。蛇を倒すことを考えれば、おそらく東矢が一撃で死ぬような攻撃をあてないと難しいだろう」


 ごくり、と息をのむ。


「だからキーロさんが襲われるときに東矢が一緒にいて、キーロさんを攻撃させずに東矢を攻撃させないといけない。それで蛇は東矢を簡単に殺すつもりはないから、うまく東矢とキーロさんを誤認させないといけない。前提として、敵に優先順位を変更させる必要があるだろう」

「言ってることがさっぱりわからん」


 僕もナナオさんに同意。僕とナナオさんは並んでベッドに腰掛けている、近い。ちょっとだけドキドキする。

 藤友君はどう説明したものかな、と口元に手を当てた。


「いま必要なのは、蛇を殺せる致死の攻撃を反射の呪符で受けることだ。少なくとも蛇を動けなくして、鈍器か別の呪符でとどめを刺す、これがこちらに必要な行動」

「うん。それは私もわからなくもないんだけどさ」

「次に敵の予定。敵は今、最初にキーロさんを苦しめて殺し、次にサニーを苦しめて殺し、最後に東矢を捕らえて苦しめようと考えている。ここまではいいかな」


 それはなんとなくわかる。わかりたくないけど。


「キーロさんが生き残るためというのもあるけど、キーロさんが襲われるタイミングで蛇を嵌めないと作戦が成立しない。なぜなら、蛇はサニーと一体化してるからいつでもサニーを殺せる。蛇は東矢を楽に殺したくないから、東矢だけ残れば致死の攻撃をするはずがない。今のタイミングを逃せばだれも助からない」

「タイミングって」

「だから今が蛇をハメる最後のチャンス。けれども今の敵の計画では、結局キーロさんを苦しめて殺すことが前提だ。だからやっぱりそのままでは致死の攻撃はこない。だからキーロさんを即死させないと目的が達成されない状況、そして即死させたいと思う状況に持ち込む」


 クッキーを片手にキーロさんがものすごく嫌そうな顔で手を止める。


「具体的には、サニーにキーロさんを即死させないと目的が達成されないと思い込ませ、蛇にはキーロさんをすぐにでも殺したいと思わせる」

「なんだそりゃ」


 キーロさんが即死しないと目的が達成されない状況?


「東矢から聞いた話では、サニーはおそらく自分、つまり蛇がキーロさんを殺してこそ復讐になると考えているように思える。だから多分キーロさんは自殺じゃだめなんだ。だからサニーにキーロさんが自殺すると思わせる。それを止めるためには、自殺する前に殺す、つまりキーロさんを即死させないといけないと思わせる」


 話の中身がぐるぐるといったりきたりしてる気がする。


「自殺すると思わせるってそんなことができるのか?」

「東矢は昨日、『よっち』が死ぬところを見ていた。サニーが『キーロさんが自殺する』と考えることに合理性はある」

「私、まだ生きてるんだけど」

「東矢から詳しく聞いてないからだろ。なかなか苦しそうだぞ。ちなみに失敗した場合に東矢に待ち受ける運命は、その何十倍も酷そうだから協力してやってくれ」


 藤友君がバッサリ告げるとナナオさんとキーロさんは息をのみ、真剣な目で僕を見た。うぅ、あまり考えたくない。昨日の『よっち』さんの姿、多分全身の骨が折れていた。でも、あれを「なかなか苦しそう」ですませる藤友君も怖い。


「毒を飲んでいることにするのはどうかな? 毒が回る前に殺さないといけないだろ? でもそれなら今なんで生きてるんだっていう不自然さがあるからさ、バーターで交渉をいれよう。交渉の内容は、不自然でないならなんでもいい。サニーに他の選択肢を選ばせないために」

「他の選択肢?」


 キーロさんは首をかしげる。


「考えられる最悪のパターンは毒がブラフだと気付かれること。それから蛇が神経毒をもっていて二人まとめて動けなくすることが可能な場合。血清があって毒自体が無効と考えられてしまうこと。いろいろ考えられる。けど、『自殺するかもしれない』という不安を突きつけ『交渉にのる』『のらない』という不自由な選択肢をわざと差し出せば思考を自殺を前提とした二者択一に誘導しやすい。そうすると他のことが考えにくくなる。ようは頭がまともに働かない状態にする」

「そんなうまくいくのか?」

「少なくとも末井には有効だぞ? お前、サニーに目の前でこいつらを殺すといわれたら、全員で逃げるより無意識にこいつらの前に立つだろ?」


 ナナオさんは、アハハ……と乾いた笑いを響かせる。

 あの、前例があるから本当にやめて。


「特に緊急で選択しないといけない、と思わせられたなら他の手段はなおさら浮かばない。それで最終的に自殺を避けるために即死させるという決断を自ら行ったと思わせる。東矢の発言に不自然さを覚えないように。それで蛇のほうは」


 藤友君はちょっと視線をさまよわせて、目をそらせたまま呟く。いいづらそう。


「蛇にはキーロさんを即死で殺したい思わせる。キーロさんをいたぶるより美味い餌を鼻先にぶら下げる。聞いた限り蛇はドSで、蛇にとって東矢はストライクゾーンの真ん中よりだ。だから、蛇を誘惑して釣り上げろ。死にたくないとか、痛いのは嫌とか、助けて、とか、哀れげに必死に慈悲を乞う。こういう手合いは『殺してほしい』ってのもかなり効くかな。多分、キーロさんとサニーはどうでもよくなって東矢一直線になる」


 ちょっと意味がわからないんだけど。

 藤友君は今度は僕と目を合わせて真剣な声でいう。


「いいか、馬鹿馬鹿しく聞こえるだろうがまじめな話だ。そもそも蛇はキーロさんもサニーも時間をかけていたぶり殺したいと思っている。この認識を破棄させないといけない。そのためにはより魅力的な選択肢が必要だ。蛇に我を忘れさせてキーロさんとサニーはどうでもいいと思わせろ。さっきもいった通り一撃で死ぬような攻撃でないと蛇は倒せない。失敗すれば警戒されるしおそらく二度目はないと思え。だから、一度にどれだけ蛇を興奮させるかが勝負だ」

「それ、本気?」

「残念ながらな。このタイプの奴は案外単純だ。力に自信があるし自尊心も高いから自分が騙されるとは露ほども考えていない。多分煽り耐性も高くない。だから2度目はないが、最初の1回を引っ掛けるのはそう難しくはない……俺の経験上も間違いない」


 微妙な沈黙が流れる。藤友君にいったい何が。


「東矢で遊ぶのはマストだろうから『苦しまない』という条件は蛇が飲むはずがない。サニーの頭を自殺に釘付ければ、選択肢も自然と自殺を回避する他の方法、つまりキーロさんを即死させる方向に流れると思う。蛇はとっととキーロさんを殺して東矢を捕まえたい。目的は違っても意見はあう。だから、キーロさんを即死させる方向で動くと思う」

「あの、僕、自信ない……」

「わかってる、お前に咄嗟の対応は期待していない。全く。むしろしゃべると全てがダメになる予感がする」


 これまでの僕の残念対応が頭の中を次々と通り過ぎる。


「それにそもそも動けないかもしれないしな。だから録音でもしようか。東矢とキーロさんの位置を誤認させるのにも有効かもしれない。サニーにも使えそうだ。内容は……そうだなぁ、キーロさんは東矢を巻き込んだわけだから、東矢と自分が苦しまないで死ねるならあえてサニーに殺されてもいい、とかいう話にすると不自然じゃないんじゃないかな」

「ボッチーさん、本当にごめんなさい」


 キーロさんが唇をかみしめて、苦しそうに視線をそらす。

 別に藤友君はキーロさんを責めてるわけじゃないと思う。素なだけで。

 その後も少し話し合ってみたけど、他にいい案は浮かばなかった。

 僕もキーロさんも小柄で、根本的にあの巨大な蛇に敵うとは思えない。それならやはり、騙し討ちしかないのかも。


「それじゃ次は注意事項をすり合わせようか。時間があまりないからな」

「注意事項?」

「キーロさんだと勘違いさせて東矢に攻撃を当てるには、東矢とキーロさんを誤認させないといけない。蛇という生き物はもともとほとんど目が見えない。だから東矢とキーロさんを視覚で見分けない、と思う。東矢、『よっち』が死んだ路地は真っ暗だったんだろ?」

「うん。ただでさえ暗かったところに何か闇みたいなのが積み重なって結界になってた。何かが動いている、くらいしかわからなかったよ」

「ならサニーも視覚を重視していない。暗いところで待ち受ければ視覚はごまかせそうかな。懐中電灯でも持ってきてたら、運がなかったと思ってあきらめるしかないな。後はどうやって他の五感をごまかすかか……。蛇は舌で臭いを判別している。東矢は顔を舐められたんだろ? 臭いを覚えられてるから塩水で水垢離でもして臭いを除去して香料でもかけておくのがいいかな」


 お塩。そんなにあったかな。ミント系の制汗剤はあった気がする。


「あとは聴覚か。蛇は皮膚でも音を感じるから、誤魔化せるところはないかな」

「新谷坂山のふもとの洞窟はどうかな。凹凸もそれなりにあるし音が結構ハウリングするんだけど」


 蛇を待ち受ける場所に最初は井戸の底の新谷坂の封印を考えた。封印するには一番だけど、蛇は警戒して入ってこないと思った。それに封印は井戸の底で入口は一つ、僕らが死ぬか弱るまで待ってから入ってくればいい。

 麓の洞窟はニヤと相談した結果、2番目に蛇を封印しやすい場所としてうかびあがった場所。以前新谷坂山に封印されていた『口だけ女』が封印から逃げ出すときに開けられた新谷坂山の横穴を使うことにした。蛇は封印から出るときは井戸の底から出たんだからこの横穴は恐らく知らないだろう。ここなら封印に接していて怪異の再封印がしやすく、万一僕が蛇に囚われそうになった場合はキーロさんと一緒に封印に逃げ込みやすい。


「悪くない。少なくとも人の耳はごまかせそうだ。サニーと蛇が入ってきたら極力動かず振動を発生させないこと。動き方でばれてもまずいからな。それからにおい避けに入り口に蛇用の忌避剤をまいとくのもアリだな。あと蛇に特殊なのは赤外線センサ。丁度二人とも同じくらいの背丈だからごまかせる気はする。なるべく大きめの似た服を着て体型をごまかそう」


 1つ1つ確認しながら僕とキーロさんは頷く。


「最後にごまかす方法だけど、東矢の声を録音したのを前面に立つキーロさんが流すのはどうかな。相手は体温と声の位置で人物を判断するだろう。だからあとは極力動かないようにすればなんとかなる気がする。後は何かあるかな」


 にゃぁ、という声がする。


「呪いの強度でばれる可能性があるって」

「強度? なんだそれは」

「よくわかんないけどこの手首の痣から臭いがするみたい。でも吸収の呪符をまいたら吸収されたりしないかな」


 僕のつぶやきにナナオさんが左手首のアザの上に吸収の呪符を巻いてくれた。三枚巻いたところで、蛇の匂いがずいぶん薄くなったそうだ。でもそれが限界でそれ以上は薄くならなかったけど。ニヤに確認すると僕の方がキーロさんより気配は薄くなったらしい。


「じゃぁ、最後に録音を作ろうか。何パターンかのシナリオと、汎用的に使える言葉をいくつか録ろう。東矢、お前の余生の悲惨さがかかっているんだから真面目にやれ」


 そこからは、なんというか、生まれてこの方一番恥ずかしい時間だった。

 「苦しまないでいいなら何でもする」とか、「ひっ。こっちにこないで」とか、「お願い、助けてください、何でもするからぁ」、とか、果てはすすり泣きまで録音された。しかも本気のナナオさんの熱心な演技指導付きで。藤友君は気の毒そうに僕を見てたけど、時々小さく吹きだしている。ひどい。

 おかげで、物凄く哀れっぽい、なさけない録音集が完成した。その頃には3袋のクッキーが消費されていた。藤友君の8割いけるというお墨付きとともに、お前すげぇな、と言ってくれたけど、これが黒歴史か……。


「まかせて。私、妄想力には自信がある、絶対自然な感じで録音を流す」


 キーロさんは録音の順番を覚えて真っ暗の中でも任意の声を再生できるように練習した。多少のノイズは洞窟のハウリングで紛れるに違いない。

 でも再生の度に僕の声が流れて、もう、死んでしまいたい……。

 でもうまくやれなかったら、3人と会えるのはこれが最後だったんだろうな。


 そして、この録音作戦は恐ろしく成功した。

 録音を想定の半分も使わないうちに、蛇は釣り上げられた。

 やっぱり藤友君はすごい。……経験の差なのか?

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