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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第4章 明日の日記と僕の日常

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37/61

6月4日 ペットを飼いたい

 新谷坂(にやさか)高校1年の夏の初め。

 僕は東矢一人(とうやひとり)。春の終わりに新谷坂山に夜のピクニックにでかけて封印されていたたくさんの怪異を解き放ってしまった。その結果、僕の住む神津(こうづ)市内にはたくさんの怪異が散らばり、同時に僕の体の半分以上は封印された。

 それ以来、僕は逃した怪異を追っている。

 封印を元に戻して、僕自身も元に戻るために。


 天気予報では、今日から梅雨入り。

 6月4日の梅雨入りは例年よりは少し早いらしい。梅雨の始まりを告げるしとしととした優しい雨が、教室の窓の外を濡らしている。


「東矢くん、これ面白いから!」


 突然反対側から聞こえた声に僕はビクッとなる。窓から目を離して振り向くと、そこには坂崎さんがいた。坂崎さんはいつも唐突だ。

 坂崎安離(さかざきあんり)さんは僕の同級生。灰茶色の髪に蝶の羽の髪飾りをつけたふわふわした見た目のとてもかわいい女の子。でも僕はこの前の学校の怪談の事件で坂崎さんの異常性に気がついた。

 隣の席の藤友君は、坂崎さんを『狂ってる』って評するけど僕はまだなんとも判じかねている。

 坂崎さんはにこにこしながら僕の目の前にぬっと携帯を突き出す。

 近い。

 画面にはQRコードが表示されている。


「読み取って♪」


 坂崎さんの有無を言わさぬ勢いに負けておとなしくコードを読み取る。

 僕がページを開く間もなく、坂崎さんは、それじゃっ、と言って立ち去った。

 相変わらず坂崎さんはよくわからないし、会話が成り立たない。


 そっとコードを開くと、それはTwiterのアドレスだった。

 IDは『obsevare0430』。名前は『赤司れこ』。知らない名前。

 内容は日記のようだ。全体的に軽いノリだけどそんなに変わった内容にも思えない。

 フォローもフォロワーも0。アイコンもデフォルト。

 内容よりも坂崎さんがどうやってこのTwiterにたどり着いたのかが疑問だ。

 ひょっとしたら坂崎さんのTwiterかなとも一瞬思ったけど、第一人称は『俺』で坂崎さんの印象にも全然あわない。

 とりあえず内容を読んでみる。始まりは4/30。あれ? この日付、ちょうど僕が封印を解いた時期。

 少し嫌な予感がした。



◇◇◇

赤司れこ@obsevare0430

赤司です! いろいろ書いちゃうよ!


-----------

赤司れこ@obsevare0430  10時間前

あ! 初めてのフォロワーさんきたっ!

よろしくお願いシャス!

えっと、せっかくだし。

あっ怪我注意です! 寮のとこぬかるんでるから!

それから誘われても体育倉庫に行ってはいけません!



赤司れこ@obsevare0430 6月4日

今日から梅雨入りだってーやだなー。

俺雨きらい。

帰りはめっちゃ豪雨だから、気を付けてね!



赤司れこ@obsevare0430 6月1日

土曜日なのにあんまりやる気がでないお。

海って見ると泳ぎたくなるよね。

海開きより前に海に入ったらおこられるかな?



赤司れこ@obsevare0430 5月27日

今日から中間テストです!

どうしよう~? 勉強あんまり勉強進んでないよね?

俺も!?



~~~(略)


赤司れこ@obsevare0430 4月30日

今日からtwiter始めちゃうよー!

俺、初めてだから、ちょっと緊張。

ちゃんと見てくれるかな?


◇◇◇


 最新の投稿でフォロワーができたって書いているけど0のままだ。外されちゃったのかな。哀愁漂う……。なんとなく気の毒に思って、とりあえずフォローしといた。

 これで1は確保できるかな……。

 坂崎さんがなんでこれを勧めてきたのかよくわらないけど、なんとなく憎めない感じ。


 その日1日、雨はしとしとと降り続く。そして放課後には空の底が破れたような大雨になった。ひどいゲリラ豪雨? 校舎前にできた大きな水たまりに水滴が踊るように跳ねている。傘をさして寮に戻ろうとすると強い風で傘は逆さに跳ね飛ばされて壊れてしまった。

 結局びしょぬれ。もう、ついてないな。


 新谷坂高校には寮があって、僕は寮に住んでいる。

 夕ご飯時に食堂で坂崎さんと藤友君、藤友晴希(ふじともはるき)と会った。藤友君は同じクラスで僕の隣の席。ちょっとワイルドでカッコいいけど結構優しい人。前髪をくしゃっと上げて、結構おしゃれに気を使っているように見える。そして不幸体質らしい。

 いつもは僕とご飯を食べる時間帯が違うからこの2人と食堂で会うのは珍しい。


「一緒していい?」

「いいよっ」


 坂崎さんはにこりとほほえむ。正直、坂崎さんは何もしてなければすごくかわいい。何もしてなければね。

 藤友君は無言だけど嫌がっている様子はないから大丈夫だろう。2人は結構一緒にご飯食べていることが多い印象がある。幼馴染なんだっけ。


「ねぇ、東矢君のゼリーももらっていい?」

「アンリ、お前俺のも食っただろ」

「ええー? でも美味しいよ?」


 僕の返事を待たずにゼリーは去っていき、藤友くんははぁ、とため息をつく。

 坂崎さんのご飯にはまだ手がつけられていないのにゼリーのカップは既に2つ空になっていた。


「今日はご飯早いんだね」

「ちょっと厄介ごとだ。アンリが動物飼いたいって言って困ってる」

「えぇ? さすがに寮じゃ無理でしょう?」

「動物かわいいよ?」


 ゼリーをもぐもぐしながら話すのはあまりお行儀良くないんじゃないかな。


「飼うっていってもどこで飼うの?」

「うーん、ハルくんの部屋?」

「な、とんでもないだろ」


 藤友君は坂崎さんを指さす。前提がとんでもない。


「……なんかご愁傷様です。動物は動物園とかでたまに見るからいいんだと思うな。毎日だと世話が大変だよ?」

「毎日エサもやらないといけないしな。お前、目の前にあるものを適当にやるつもりだろ。犬は玉ねぎ食ったら死ぬらしいぞ?」

「ええー玉ねぎおいしいよ」


 不満そうな声。

 坂崎さんは……動物を飼っちゃいけない人なんじゃないかな……。


「東矢くんはどんな動物がいいとおもう?」


 あ、これ、ヤバいやつだ。多分へたに犬とか猫とかいうと本当に拾ってくる。

 ええと。


「せっかく飼うならプテラノドンとかブラキオザウルスとかカッコいいのがいいなぁ」

「わぁ! それ素敵っ」


 藤友くんがチッと舌打ちして僕の膝を強めに蹴りあげてにらむ。結構痛い。

 えっこれでダメなの? ほんとに? 正解あるの?


「アンリ、部屋に入らねぇ。無理だ。部屋よりでかい」

「うーん、入らないと無理かぁ、残念」


 駄目だ、大丈夫なラインが全然わからない。


「それより体育祭だ、東矢はリレーはトップランナーだろ? 足は早いのか?」


 わぁ露骨に話題変えてきた。

 そのあとはリレーで誰が早いかっていう話題になった。坂崎さんは案外早いらしい。藤友君は大分疲れてそうだ。

 藤友君は無事にペットが回避できるのだろうか。なんか、……がんばって。

 今度甘いものを差し入れよう……。


 そのあとは部屋に戻ってゆっくりお風呂に入って、テレビを見たりして過ごす。天気予報では明日も雨。いつものお天気お姉さんが、明るい声で今週いっぱい雨と告げる。

 今週末の土曜日は体育祭の予定で雨でも体育館で決行予定。でもやっぱり晴れた外でやった方が楽しそう。晴れたら暑いかな?


 体育祭といえば僕だけ係がない。僕の体は半分以上新谷坂山に封印されちゃっているから、なんだかずいぶん存在感が薄くなっているらしい。僕に話しかけてくるのはこのクラスでは坂崎さんと藤友君、それから末井ナナオ(まついななお)さん、通称ナナオさんの3人だけ。

 先週のホームルームで係決めがあったけど、僕だけ華麗にスルーされて係が決まらないまま終わってしまった。楽といえば楽だけど、なんとなくせっかくの体育祭の連帯感もなくなっちゃうから、少し残念な気持ち。


 だから僕は同じクラスのナナオさんを手伝うことにした。ナナオさんは金色の髪を頭の上に結い上げたギャルっぽい人。いつも明るくて太陽のような人だ。それから困っている人を見過ごせないタイプで、いつも助けてもらっている。だから少しでも恩返ししたい。ナナオさんは用具係。明日は早起きして体育倉庫の用具の数とかの確認をするみたい。

 だから今日は早寝しなくっちゃ。

 おやすみなさい。



 翌朝。

 ナナオさんと待ち合わせているから、今日はちょっと早起きした。

 あくびをこらえて窓の外を眺める。昨日ほどではないけれど雨はしとしと降り続き、サッシに冷たい空気が忍び寄る。6月の朝はなんだか憂鬱。眠いだけかもしれないけど。


 昨夕から明け方にかけての大雨で、寮の入り口には大きな水たまりがたくさん発生していた。なるべくぴょんぴょん水たまりをよけて学校に向かう。寮と学校は隣接していて専用の歩道を通るとだいたい5分くらいで学校につく。

 ナナオさんは通学の地元民だから、新谷坂という長い坂を登ったところにある学校まで登り坂を超えて来ないといけない。道は綺麗に舗装されているけれど、雨が降ると滝みたいに道路に水が流れ落ちるって聞いたことがある。だから結構大変そうだ。


 そんなことを考えながら学校の体育倉庫に着くと、ざわざわと人だかりができていた。

 入り口のあたりにいたナナオさんを見つけて何があったのか聞くと目的地の体育倉庫内で事故があって女子生徒が怪我をしたとか。


「係の人?」

「うーんそうだと思うんだけど、私がここにくる前だからなぁ。先生は入るなっていってるし」


 体育倉庫の入り口から少し離れたところから中を眺める。


「暗くてよくわからないね」


 しばらくすると救急車が来て誰かがタンカに乗せられて出てきたけど、その姿は先生と救急隊員の姿に阻まれて見えなかった。

 体育倉庫……そういえば、昨日の赤司れこのTwiterを思い出した。


『それから誘われても体育倉庫に行ってはいけません!』

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