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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第2章 恋する花子さん

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放課後、校舎の裏で

 どうしたものかな。

 午前の授業中に怪異について検討する。

 幽霊は手紙を出さない。幽霊は人の魂で非物理だ。封筒には触れない。そうするとこの怪異は物理現象だ。『トイレの花子さん』は幽霊のイメージだったが狐狸妖怪の類なのか?

 よく考えたら納得した。『トイレの花子さん』は全国に存在する。そしてそれは皆、バリエーションはあるものの基本的には同じ性質を兼ね備えている。けれどもトイレで死ぬ子供などそうそうはいない。まぁ学校のトイレで死んだ子供がいたとしてもせいぜいその学校で幽霊として化けて出るくらいで、同じ魂が全国津々浦々の学校で出たりしない。『トイレの花子さん』が幽霊とは異なる性質を持つ特殊現象だとすれば、物理作用が可能なのかもしれない。わからないな。

 そういえば東矢は怖い話が好きなんだったか。幽霊も信じてるって言ってたな。

 休み時間に隣の席を見ると相変わらず恐ろしく存在感が薄い東矢がぼんやりと窓の外を眺めていて、ぽかぽかと暖かそうな陽が差し込んでいた。


「東矢、『トイレの花子さん』って幽霊と妖怪とどっちだと思う?」


 東矢はきょとんとした顔で俺を見る。


「幽霊だと思ってたけど……。どっちかというと『学校の怪談』じゃないのかな」

「『学校の怪談』は幽霊や妖怪と違うのか」

「うーん。幽霊や妖怪は独立して存在しているでしょう? 『学校の怪談』はその中身が何かっていう以前に『学校』っていう場所が重要なんだ。学校じゃないと成り立たないもの。存在し得ないもの? だから学校をキーワードに仕掛けられた呪いの一種じゃないかな。」


 呪い?

 南向きの明るい窓に不釣り合いな不穏な単語。


「それで『トイレの花子さん』とか『動く人体模型』っていうのは学校っていう特定なフィールドが展開された時にポップするアンノウンで、学校という地形を利用して特殊効果を発動させる、的な存在? だからどの学校でも同じようなフィールドが展開する限りは似たようなバリエーションがポップするし学校に縛られているれけど学校という状況を最大限に利用できるの」


 ……なんか、思ったよりガチなのか、こいつ。ヤバい奴か?

 でもまあその話に納得できることはある。靴箱に入っていた封筒もコピー用紙も学校の備品と言われれば合点がいく。

『トイレの花子さん』の中身は何であれ『学校の怪談』なら学校でしか存在できない。それは前提として使えそうだ。それなら待ち合わせ場所は学外にした方がよかっただろうか。


「昨日、3階のトイレで様子が変だったが何かあったのか」

「……『トイレの花子さん』の気配がした。信じてくれるかはわからないけど」

「『トイレの花子さん』?」

「うん。だから藤友君も坂崎さんももう行かないほうがいいと思う」

「それ、絶対アンリにいうな。絶対に行くって言い張るから」


 東矢は慌ててうなずく。

 大丈夫かな、昨日も無意識に考えたことを口に出していた。


「それより、藤友君も昨日トイレで何かあったの? 様子が変だったけど」


 その瞳は俺のことを心配しているようだった。

 俺を心配する人間というのも珍しい。ひょっとしたらアンリの幸運支配の影響を受けないように、ひょっとしたら俺の不運の影響もさほど受けないのかもしれないな。まあわからないが。

 東矢に話したほうが得だろうか。

 『トイレの花子さん』から手紙をもらったと言っても普通は信じないろう。けれどもさっきからの東矢の発言は『トイレの花子さん』が存在することを前提としたものだ。そうでなければ、「だから」「《《も》》《《う》》行かないほうがいい」とは言わないだろう。

 昨日から考えて東矢は悪いやつのようには思われない。多分、物物交換が好きなタイプだ。情報を渡せば情報が返ってくるような。俺の話を信用するだろうか。東矢はこういうわけのわからない話は好きそうだから俺の知らない情報を知っているかもしれない。手がかりは少しでも欲しい。

 そうすると腹を探りあっても面倒だ。


「昨日、トイレで何かに捕まった感じがしたんだ」

「ああ、やっぱりそうなんだ」

「やっぱり? それで今朝『トイレの花子さん』と思われる者から手紙で放課後に呼び出しがあった。俺が把握していることはこれだけだ。何かわかることがあれば教えてほしい。行くと返事を出してしまったがやめた方がいいかな」

「それ僕もついて行っていい?」


 東矢は一瞬驚いた後、真面目な顔で口を開く。

 何故?

 こちらはこれでも真面目に話している。興味本位でかき回されても困る。


「……ついてきてどうする気だ?」

「見れば何かわかるかもしれない。その、僕も気配を感じたものだから。それに多分、1人より2人の方が安全だと思うんだ。何かあったら追いかけられるし」

「何かありそうなのか」

「それはわからないけど。それからトイレから出てる時点で『トイレの花子さん』じゃない気もするんだ。追いかけてくるバリエーションもあるから確定はできないけど」


 『トイレの花子さん』はトイレで待ち受けるイメージだ。それもまぁ、納得はできる話に思える。そうすると何なのか。その判断には妖怪や幽霊が好きだという東矢の情報は役に立つのかもしれない。

 それに1人より2人のほうがリスクが分散できるのは確か。

 何より、東矢は俺の話を信じている。何故俺の話を丸ごと信じているのかがわからないが、その妙に真剣そうな目からは茶化すのではなく真面目に考えていくれているように思える。少なくとも面白半分には感じない。


「えっとそれから、どっちかっていうと藤友君が『トイレの花子さん』を呼び出したんだよ。だから、無視するのはまずい気がする」

「まて。何? 何のことを言っている?」

「あのね、『トイレの花子さん』のテンプレートは3階の3番目のトイレで3回ノックして花子さんを呼び出すこと。藤友君は昨日トイレのドアを3回叩いたでしょう、指で。それから「花子さん」って言った」


 叩いた……か?

 ノックでなく指で? 全然記憶にない。


「俺は『トイレの花子さん』は『いない』と言ったんだぞ?」

「幽霊なら会話の内容で判断するかもしれないけど『学校の七不思議』っていうのは呪いとか、システムとかいう類なんだと思う。それならキーワードの発生だけで条件が満たされる可能性があるかも」


 まじか……。

 まさか自分で種を巻いた可能性があるとは。さすが俺の不運。全てを悪い方向にしか導かない。

 しかし『トイレの花子さん』じゃない可能性もある。まだ話を鵜呑みにするほどの確証はない。


 昼休み。

 ここじゃ何だから、と東矢に誘われて屋上に向かい、2人で対策会議を行った。

 あまり屋上に上ることはないが思った以上に景色はいい。さすがに昨日アンリの怪談を聞いているから端に寄ろうとは思わないが、灰色のパネルが敷き詰められた屋上からは、学校全体が見渡せた。

 少し乾燥した心地よい風が吹いている。


「呼ばれたのは俺だ。だから東矢はどこかで見ていてほしい。一緒に行くんじゃなくて。その方が2つの視点から自然な状態を観測できる。待ち合わせ場所は保健室の裏だ」

「ああ、あのトイレの真下あたり」


 校舎北側は新谷坂山に接していて校舎と山の隙間に通り抜けられる程度の通路がある。トイレの窓は校舎の北側に面していて、万一トイレに何か反応があるのならその怪異を『トイレの花子さん』と確定できそうに思える。

 可能な限りリスクを低減して観測できる方法。待ち合わせに使うGPSアプリを東矢の携帯に入れる。


「念のため俺の位置情報がわかるようにしておいた。『トイレの花子さん』と会うときは通話状態にして会話内容がわかるようにしておく。他に気をつけることはあるかな」


 まあ怪異や異変に巻き込まれるときは電話なんて繋がらないことが多いんだけどな。


「ええと、そうだね。『学校の怪談』だとすると何かの許可を求められるかもしれない。けど返事はうかつにしちゃだめ。特に相手の言うことを肯定する場合は」

「肯定する場合? 『トイレの花子さん』は否定しても捕まったんだろ」

「そうだね。でも『赤紙青紙』の話は知ってるでしょう? 赤の紙と青の紙どっちがいいか聞かれるやつ。赤だと出血死で青だと失血死。否定だと一応駄目の意味になることも多いけど、肯定は思った内容と全然違うことがある。人間と怪異は言葉の定義が同じじゃないの」


 なるほど。人間相手でも勝手に解釈されてこじれることがある。

 怪異ならますます言葉は通じないだろう。


「でも今回は藤友君が呼び出した扱いになっているなら無言は承諾ととられるかもしれない。申し入れをしたのは藤友君だから相手の応答だけで何らかの契約が成立する可能性がある。だから返事はした方がいい。難しいかもだけど」

「何か問われたら返事をする、だな。まあ、アンリよりは話が通じることを期待しよう」


 東矢は微妙な、妙に納得したような顔をした。

 さて、今の時点で検討できることはこの程度だろうか。


 放課後17:30。

 少し緊張しながら保健室の裏に向かう。

 日の入りはまだ少し先だが山と校舎の陰であるせいかすでに道行きは薄暗いが山と校舎に挟まれた狭いスペースだが前後に逃げ道は確保できる。

 時間はもっと早いほうがよかっただろうか。東矢は少し離れた木の影に待機している。

 コードレスのイヤホンマイクを耳にかけて東矢にコールする。


「聞こえるか? 何か気づいたことがあれば教えてくれ。つきあわせてすまないな」

「大丈夫」


 今のところ通話状況は良好だ。

 冷たい校舎の影を回ると保健室裏に女性が立っていた。おかっぱというよりはレイヤーボブ、白いシャツを着て赤っぽいスカートをはいている、小学生ではなく高校生くらいの女性だ。

 『トイレの花子さん』ではない?

 けれども成長したした『トイレの花子さん』を思わせる。こいつはいったい何だ?


「靴箱に手紙を入れた人?」

「そうです!」

「用件は何かな?」


 花子さん(仮称)はもじもじしてから言う。


「あの……私とつきあってください!!」


 はい?

 予想外の言葉に思わず固まる。

 付き合う?

 憑きあう?

 承諾はだめ、無言もだめ。ええと。


「すまない。つきあえない。もうつきあっている人がいる」


 だがその俺の声は俺より大きな声にかき消された。

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