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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第2章 恋する花子さん

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呼び出しは3回目で

 玄関で東矢と別れたあと、自室に戻ってベッドに倒れこむ。

 ヤバい。トイレで何かに関わった。今も首筋がチリチリする。この感触は逃げられていない。続いている。

 これはどのくらいヤバイ奴だ? 『トイレの花子さん』なのか?


 闇雲に動いても仕方がない。

 前提として、俺は常軌を逸するレベルで運が悪い。

 不可視の呪いの装備を身に着けているといっても過言ではない。悪いことは避雷針のようにだいたい俺に降りかかって来るし、人間関係を形作ってもほぼ間違いなくろくな結果にならない。だから俺はなるべく目立たず、人の意識や視界に入らないようにひっそりと生きているつもりだ。


 そしてアンリは俺とは真逆で幸運という海の中でぷかりぷかりと浮かびながら生きているような奴だ。アンリの望むことはだいたいかなうし誰も彼もがアンリに喜んで従う。けれども俺の過剰すぎる不幸と同じ用に過剰すぎる幸運というのもまたそれは呪いに等しいと思う。

 アンリにとっては全てが思うがまま。全てのものがアンリの望みを叶えるために奔走する。けれどもそれはおそらくとてもつまらないことなのだ。だからアンリはいつも予想のつかないもの、面白いものを求めている。

 そして俺はアンリのその『面白いもの』枠に入っている。俺の圧倒的不幸はアンリの圧倒的幸運とせめぎ合い、アンリの幸福ん効果を打ち消している。だから俺は別にアンリには従わない。それがアンリにはとても面白い。

 俺もアンリの存在によって恩恵を被っている。アンリが望むのかその幸運の波しぶきがかかるのか、アンリと一緒にいる時は、俺はなんとか『ちょっと運の悪い常人』並の幸運にあずかれる。

 なんとなく、小判鮫みたいだな。


 今日、首筋を嫌な感覚がさざめいた。これは悪いことが起こりうる予兆。俺はあまりに不幸すぎて俺の不幸の予兆に敏感だ。

 その原因の特定のために俺は今日のことを振り返る。

 今日の昼休みの終わり、アンリは俺の隣の席に話しかけた。

 これはとても珍しいことだ。アンリはデフォルトで他人に好かれる。皆がアンリに話しかけたがる。だからわざわざアンリから誰かに話しかけるなんてことはほとんどしない。


 俺の隣の席は東矢一人。中肉中背。やけにきれいな顔立ちをしているが、総合的な印象は薄かった。どこか自信なさげで目立たない雰囲気。だから俺は無視した。たいていの相手とは不干渉を貫いている。

 ただし今週の初めに少し変化があった。ただでさえ目立たないのに更に目立たなくなった。

 空気みたいな奴っていうのかな。窓から教室に差し込む光が東矢の存在を無視してそのまま透過しているかのように、注意を向けないといるのかどうかもわからないくらい存在感が薄くなった。

 何かあったのだろうかとは思ったが、大抵の場合は関わってもろくなことがない。だから気にしないことにした。俺の不運は妖怪変化や都市伝説の類も呼び込む。わけのわからないもの、それは誰も気がつかなくとも普通に隣を歩いている。そして目が合うと近づいてくる。

 巻き込まれないコツは、こちらが『気がついている』ことを気づかせないことだ。


 それで今日アンリが東矢に話しかけた。

 驚いたことに東矢は普通に困惑し、返答をためらった。アンリの幸運の支配を受けない東矢の反応にアンリは目を輝かせた。

 俺は幸運のかけらを求めてアンリに付き合っているが、アンリは客観的には狂ったトラブルメーカーだ。アンリの望みを叶えようという軋轢は大抵の場合多少の不幸も発生させる。だからアンリの求める『面白いこと』はたいていの他人にとってはろくでもない結果で終わる。だから俺は老婆心で無視するよう忠告した。

けれども東矢は地雷を踏み続け、最悪な形でアンリのハートを撃ち抜いた。


「好きなもの、怖い話……とか」


 最悪だ。それはアンリの好物だ。

 こいつは間違いなくアンリの『面白い』枠に入る。それが長期か短期かはわからないけれど、俺も一定程度はかかわらざるを得ないだろう。

 淡々と進む数学の講義を耳から耳へと流しながら午後いっぱい頭をひねって考えた最適解。どうせかかわるなら良好な関係を築いてリスクを最大限減らすのがいい。可能ならば味方に引き込む。いずれ破綻するとしてもこんなぽやぽやしたやつなら大した不利益にはならないだろう。

 当面は当たりさわりなく観察して適度に愛想を振りまいておこう。人間関係が近いところでもめるのは気分的にも最悪だからな。


 放課後、案の定アンリは東矢を誘った。

 アンリは深夜の学校探検に目を輝かせていた。経験上も放置するのはやばい。不要なリスクを背負い込まないよう俺は極力危険を避ける方向で誘導した。誘導はうまくできたと思う。屋上やプールだと、不運な俺は万一死ぬ可能性があるからな。

 最終的に残したのは、アンリの話の間にサラリと差し込んだオーソドックスな『トイレの花子さん』だった。七不思議を探そうとするアンリの題材として不足はないだろう。

 多分ここで、アンリの希望に沿った『トイレの花子さん』が発生した可能性が高い。

 怪異ですら、大抵の場合は狂ったアンリの幸運に従うものだ。


 探検の中でも俺は注意を怠らなかった、と思う。

 トイレは校舎の東西の端近くにあり影が濃い。全員がトイレに入ってしまうと逃げ道がない。アンリがトイレを探検する間、俺は廊下と階段で異変がないかを見張る。それに万一にも怪異に巻き込まれないようトイレには入らないようにした。途中休憩で東矢がうかつなことを言ったが、前半はまあ何とかなった。


 問題は3階西側の女子トイレだ。

 見た目は他のトイレと同じだ。細い金属板で廊下と区切られたリノリウムの床が冷たく張られ、水場のせいか少しの湿り気を感じた。入り口から奥は見えない。俺には違いはわからない。

 けれども東矢の様子はトイレに差し掛かった時から何かおかしかった。

 一瞬ピクリと不自然に動きを止めて瞬きをした。目だけで左右を窺った。何かに戸惑っている表情。

 その後アンリがドアが開かないと騒ぎ始め、東矢に様子を見に行ってもらった。しばらくは静かになったが、またガチャガチャとノブを回す音がし始める。

 思わず舌打ちを打つ。


 仕方がない。東矢にはアンリの止め方はわからないだろう。強引にトイレから追い出せるような性格とも思わない。このままじゃ埒があかないから俺がさっさと回収するしかない。

 だからトイレに入って『トイレの花子さん』はいないとアンリを説得した。

 その時だった。

 ふいに、首筋にチリチリとした悪寒が走った。俺が怪異に巻き込まれるときに感じる不幸の合図。


 何が引っかかった?

 トイレの中の様子は別段変わらなかったし特段何かした覚えはない。

 アンリが希望した『トイレの花子さん』を否定したのがまずかったのだろうか?

 念のため『トイレの花子さん』についての東矢の認識も聞いたが俺の認識とそう齟齬はなかった。

 『トイレの花子さん』は小さな女の子の幽霊だ。幽霊なら俺は見えない。けれども幽霊ならば別に問題はない。俺の運はこれ以上下がりようもないほど悪いから、追加で一体見えないものに付きまとわれてもたいして影響はない。

 それに最悪のパターンでもトイレに引きずりこまれる程度だ。昔のぼっとん式ならともかく今の学校のトイレは水洗で引きずりこまれることはない。被害はせいぜい足元が濡れるくらいだろう。


 やはり相手はおそらく『トイレの花子さん』。遭遇状況から他には考えがたい。

 けれども巻き込まれた原因がわからないと対策がたてられない。

 あの時は急いで退散したが、今も首筋の違和感は続いている。怪異に巻き込まれかけている。そういえば東矢はトイレの中でも妙に緊張していたな。仕方がない、明日少し聞いてみよう。

 これ以上は考えられる情報はない、か。


 翌朝、眠い頭をゆすりながら学校に向かう。

 太陽が眩しくて目が痛い。学年別に並んだ木製の靴箱がにじんで見える。昇降口で何人かと挨拶しながら靴箱を開けると異変が発生していた。上履きの上にそっと茶封筒が置かれていた。しわ一つない、新品の茶封筒?

 日に透かしてカミソリなんかの異物でも入っていないかだけ確かめて封筒をあける。


「放課後に待っている」


 そのようにそっけなく書かれた紙が几帳面に三つ折りになって入っていた。

 俺の靴箱には時折いろいろなものが投げ込まれる。ラブレター、呪いの手紙、果たし状。こじれた人間関係の結実だ。けれどもそれらはもう少しマシなものに封入されている。ラブレターであればかわいい封筒、呪いの手紙はおどろおどろしい封筒。茶封筒には入れないだろう。紙もコピー用紙に思われる。

 果たし状の場合は紙そのままで封筒には入っていないことが多いし入っていても表面に筆ペンで『果たし状』と律儀に書いてある。


 この茶封筒という形式はどことなく事務的な感じがして、外形から意図が読めない。それに肝心の名前も場所も書いてない。事務連絡に必要な用件も満たされていない。

 けれども俺には心当たりがあった。封筒を触った瞬間、首筋がちりりと反応した。昨日の夜が続いている、そんな予感。

 暗がりから闇討ちするのではなく穏当に手紙で呼び出すというのなら差し迫った危険はないのかもしれない。そのことに僅かに安堵する。けれどもこれは異界のものだ。人間とは違う理屈で動いている。吸血鬼が家に入るには招待が必要なのと同じように、手続きとして被害者が呼び出しに応じる必要があるのかもしれない。

 けれども始まった以上俺の運命は悪い方向に転がりだすものだ。

 見つかってしまったのなら、放っておくのは得策じゃない。時間がたつほどにこじれても困る。会話ができるなら直接聞いてみるのが早道かもしれない。どうしたものかな。

 とりあえず自体を動かそう。

 働かない頭でポケットから取り出したペンで手紙の裏に書置きをして靴箱に戻した。


『17時半に校舎西側の保健室の裏で』 

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