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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第2章 恋する花子さん

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幕間 不幸な俺の日常 1/2

初めて話した同級生と夜の学校探検に。そこで出会った奇妙な学校の怪談。誰が一体正気なの?【全11話のSAN値を削る恋愛譚】

 電車で辻切(つじき)中央駅に向かっている。

 2つの地上線と1つの地下鉄が接続している最寄りのターミナル駅だ。夕暮れの中をがたごとと電車は進む。ぼんやりと見た外はなだらかに黒土が続き、夕方が柔らかくその凹凸を目立たせる。


 新学期早々、買ったばかりのスマホが壊れた。ふと画面を開こうと思ったら電源が切れている。それが昨日から3度。もちろん充電は欠かしていない。

 昼休みに診断アプリを試してカスタマーセンタに確認した結果、事務的な声でバッテリーの初期不良のようです、と言われた。そのまま今日の夕方に予約を入れた。

 郵送でも対応できるそうだが、その間携帯が使えないと困る。

 俺の周りにはLIME魔がいる。未読スルーは許されない。だから30分ほどかけてでも電車で辻切中央まで行って交換してくるほうがいいだろう。


 それにしても初期不良は防ぎようがないな。いつものことすぎて最早ため息も出ない。

 俺は運が悪いんだ。

 俺は藤友晴希(ふじともはるき)という。

 新谷坂(にやさか)高校の1年だ。

 新谷坂に引っ越してきた直後の4月。

 この学校が始まってまだ3日目の日もいつもどおり運が悪かった。


 そう思って先ほどから南に向いた車窓から夕陽が差し込む電車に揺られている。

 それでさきほどからオレンジ色に照らされた自分の手のひらをぼんやり見つめているのは向かいの席の小学生くらいの男子にずっとにらまれているからだ。顔に見覚えはない。

 そもそも引っ越して3日だ。このあたりにまだ知り合いはいない。俺が電車に乗った後、2つ前の駅から乗ってきたから例えばぶつかって因縁をつけられたというわけでもなさそうだ。

 とりあえずなるべく顔を合わさないようしよう。

 どうせ次がようやく辻切中央だ。

 手のひらにさっと影がさす。

 顔を上げると向かいに座っていた男子が目の前に立っていた。

 拳を硬く握りしめ、今にも俺を刺し殺さんとばかりの憎悪を込めた眼で俺をにらみつけている。

 少年特有のよく通る少し高い声。


「姉さんを返せ」

「は?」

「あんたが先月姉さんを殴ったんだろ!」

「まて、俺は今月引っ越してきたばかりだ」


 ちょうど電車が辻切中央につき、ドアが開いた瞬間その腕を引っ張って電車から引きずり下ろす。

 抵抗されたがそんなことは知ったこっちゃない。俺を見る車内の視線がやばかった。ターミナル駅に向かう夕方の車内はおおよその席は埋まっていて隣の車両も見える程度にはぽつぽつ立っている人もいるという絶妙な視認性を有していた。そして当然のように車内の視線は俺たちに釘付けだった。

 変なうわさにならないだろうな。いや、なるんだろうな。

 畜生。胃が痛い。

 電車から降りた途端、俺の腕は振り払われた。


「何すんだよ」

「それはこっちのセリフだ。俺はこの4月に引っ越してきて新谷坂の寮に住んでる。先月なら俺じゃない」

「あ……。ごめんなさいっ」


 上がる息を落ち着けながら学生証を示す。1年と寮生いう表示を指で示す。

 表示に気づいた少年はしばらく呆然として、急に元気を失い小さくなった。

 酷い言いがかりだ、全く。にらまれているのに気付いた時点でとっとと引き返したほうが良かっただろうか。いや、どのみちすでに手遅れか。


 帰宅時間でざわつくのホームのベンチに腰を落ち着ける。時間の余裕を持って出てよかった。電車を待つ人の列を眺めながら、事情を聞く。知らない間にわけのわからない噂をばらまかれるのが一番困るからな。

 問題が発生したときの鉄則は芽が小さいうちに摘め、だ。


 彼は今年小学校5年生で中学2年のお姉さんがいる。

 そのお姉さんが先月中頃、家の近くで誰かに襲われて今も意識不明らしい。それでお姉さんが殴られたところをその友人が見ていた。犯人の特徴は新谷坂の制服を着て身長175センチ程度、中肉中背、左の額に傷がある。

 よく気付いたな。俺は傷を髪で隠しているのに。


 ともあれ俺が新谷坂の制服を着るようになったのはこの4月からだ。無関係なのは自明の理。他から難癖をつけられても客観的に無罪を証明できるだろう。幸運だ。逃げ道があることにほっと胸を撫で下ろす。

 それに少年の家は住宅街で特に用事がなければ立ち寄るような場所ではないように思われた。行った覚えもないし、今のところ行く用事もない。だから間違えられてトラブルになる可能性も少なさそうか。

 それに条件がこれだけなら俺とは似ても似つかない奴の可能性はある。

 むしろこれだけの条件でよく俺に声かけてきたな。小学生恐るべし。


 そもそも自宅近くで襲われたのであれば寮生ではなく地元民じゃないだろうか。けれどもその友人とやらも初めてみた顔だったそうだ。情報がなく警察もお手上げだな。

 そうか、じゃあな、と別れるには何となく後味が悪い。

 だが俺にできることは何もない。


「学校でそんな奴を見かけたら連絡するよ。まぁ期待はするな」


 連絡先をどうするかと思っていたらスマホを持っていたので登録する。俺のスマホの電池はなんとか保っている。

 その後、携帯ショップには時間通りに辿り着けたが何故か予約がされておらず無駄に時間が経過する。念のため、予備に外付けバッテリーも2本買っておこう。金ですむことなら出費に躊躇いはない。金がないな。

 帰りがけに酔っ払いに絡まれたのを走って逃げ、電車が事故で遅れて寮に帰り着いたのは夕食時間が終わった後だった。そう思ったから途中のコンビニで弁当を買ってきた。金がない。新学期は何かと金がかかる。

 今日もいつも通り運が悪かった。


 翌朝。教室に入る前に担任に呼び止められた。

 朝のざわつく職員室で少し言いづらそうにきり出される。案の定、昨日の電車の件だ。電車で話を聞いていた誰かが学校に通報したらしい。まあ制服着てたしな。

 少年のお姉さんが襲われたのは先月。そもそも俺は入学していないし制服を持ってもいないと主張すると担任は首をひねりながらも納得する。


「まあ藤友はそんなことをするタイプじゃなさそうだもんな。何かの間違いだろう」


 いざという時に疑われないよう素行にはかなり注意している。きちんと挨拶もしてゴミが落ちているのに気づけば拾う。こういう普段の積み重ねは意外と印象に残るものだ。

 ついでに間違えられたのは心外だとアピールしながら他に該当しそうな人物がこの学校にいないか聞く。けれどもやはり制服と背格好、額の傷だけでは該当人物はいなさそうだ。

 礼をして職員室を出て教室に向かう。おそらく教室にもこのうわさが流れているんだろう。けれどもこっちはなんとでもなる。

 ガラリと教室の扉を開けると一瞬視線が集まり、ヒソヒソとしたざわめきと視線を感じる。

 坂崎安離(さかざきあんり)を見つけて大きめの声で話しかける。


「アンリ、なんでかわからんが先月この近所に住んでる中学生の女の子を殴ったって疑われてるんだよ」

「えっ、ハルくんそんなことしないでしょ」

「しないよ」

「だよねー」


 なんとなく、教室内の空気が緩和された気がする。これで一安心だ。

 アンリは俺の幼なじみ兼同級生で俺と同じく今年から新谷坂高校に入学した。アンリは一見小動物のようなかわいさがあってにこにこと愛想もいい。学校に入ってまだ4日目だがアンリはすでに教室でも人気者で、既にアンリの言うことをみんな信じるようになっている。

 これでしばらく不要な外出を避けて寮にこもれば大丈夫か。ああでもバイト入れないと金が厳しいな。


「そういえばその女の子殴った奴、この学校の制服着てて俺と同じくらいの背格好、それから額の左に傷があるらしい」

「えっ。ハルくんに似てる人がいるんだ、おもしろーい」

「それで犯人を見かけたら教えてほしいって言われてるからアンリも見たら教えてくれ」

「わかったー」


 それにしても情報は本当に乏しい。だあこれで放っておいてもアンリのもとに情報は集まるだろう。

 アンリは灰茶色の髪をくるくる弄りながら、早速同級生のもとにパタパタと走った。

 まもなくチャイムが鳴り、午前の授業が始まる。

 教室の窓からは鮮やかな黄緑色の葉の中にまだ少しだけ朱色を残した大きな桜の木が見える。今週末にはすっかり緑になるだろうか。空は薄い青色が広がり筋雲がたなびく。ぼんやりと見ていると、どこかからフィチフィチというひばりの鳴き声が聞こえる。

 授業中は誰も話しかけてこないし変なことも滅多に起こらない。平穏を少しばかり感じられる貴重な時間だ。

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