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第40話 悪役令嬢の問題2

「あっ、セシリー。こんなところに居たの?」


 思い切ってセシリーのところへと駆け寄ると、彼女はぎょっとした表情をして動きを止めていた。急なことで反応できずにいるのだろう。


「おや、ベリンダちゃん。この方はベリンダちゃんの知り合いかい?」


 気のいい花屋のおばさんが話しかけてくれた。


「ええ、そうなの! この前、王宮の舞踏会に行ったときに不慣れな私にとても親切にしてくれたのよ」


「まあ、そうだったんだね」


 そんな会話を聞きつけたのか、ベリンダとセシリーの周りには街人たちが集まってきた。


「なんだ、ベリンダの知り合いか。てっきり高貴な人が俺たちをからかいに来たのかと思ったぜ」


「急に貴族様に『ごきげんよう、いい天気ね』なんて言われて戸惑っちまったけれど、ベリンダの知り合いだったら私らみたいな庶民にも、誰にもそうなんだろうね」


「素敵なドレスね。よく似合っているわ」


「ちょっと触ってみてもいい?」


 好奇心丸出しの若い町娘がふたりやって来て、セシリーにそう来た。彼女はどう答えるのかと思っていたら。


「……ちょっとだけならいいわよ」


「ありがとう!」


 そうしてふたりは遠慮がちにセシリーのドレスに触って、なんだか嬉しそうにしていた。

 なんだかんだと、町人たちは貴族とお近づきになる機会があればそれを受け入れたいと思っているのだ。ただ、貴族だからとこちらから積極的に近づいて行ったり、あんまりちやほやするのはどうか、というところだ。彼らにもプライドがあるから。


(これは、ベリンダになったから気付いたことかもしれないわね)


 そうして、若い娘たちを含めてしばらく立ち話をした。

 やはりセシリーは城下町の人々と触れ合いたい、と思ってここに来たらしく、ベリンダを通すことでそれが叶って満足そうであった。


「……どうして助けてくれたの?」


 町人たちの輪から離れたとき、しかし、不機嫌そうにそう聞かれた。


「助けた、というかあなたと話したいなと前々から思っていたから、これを利用しない手はないなと思っただけだけど」


「私ってば、あなたみたいのにも哀れをかけられるようになってしまったのね」


 俯いた表情がとても疲れ切ったものに見えたため、ベリンダはわざとらしく明るい声を出した。


「ええっと、庶民の暮らしぶりについて興味を持って街を歩いているのよね?」


「そう捉えてもらっても構わないわ」


「だったら、この近くに素敵なカフェがあるの。行かない?」


 するとセシリーは彼女の後ろにいる従者へと目を向けて、彼が頷いたのを見届けてから、


「いいわよ。でも、私があなたみたいな人とお茶をするなんて特別なんだから、その辺りを忘れないで」


「そこってアップルパイが絶品なのよ。サザーランド家の料理人にも負けていないと思うわ。そこ、友達が連れて行ってくれたんだけどもう一度行きたいと思っていたのでちょうどいいわ」


「ちょっと! 人の話を聞いているの?」


 抗議の言葉を聞き流しつつ、カフェに到着すると街の様子がよく見えるテラス席を希望し、そこに席を用意してもらった。

 多くのお客さんがいて、セシリーはそわそわしていたが、みんな自分たちの会話に夢中でこちらのことなど気にしていない。セシリーの従者たちは店から少し離れたところで待ってくれていた。テラス席なのでこちらの様子が窺えるからちょうどいいだろう。


「アップルパイと花の紅茶でいいですか?」


「花の紅茶? そんなものがあるの?」


「ええ。なんでも花冠祭りの前後限定で、乾燥させたローズマリーの花が入っているの。おいしかったわよ」


「では、それをいただこうかしら?」


 そうして運ばれてきたアップルパイと花の紅茶は、セシリーのお口にも合ったようだ。


(……というか、今セシリーの中には誰がいるのかしら? というか、この世界にも私以外に転生を繰り返している人がいるのかしら?)


 ちょっと探ってみようと思い、どう聞いたら自然な流れで、と考えたが、どう聞いても不自然にしかならなさそうだったのでそのままずばりと聞いてみた。


「あの、セシリーは前世の記憶とかってあったりする? 以前は別の誰かだったような気がするとか」


「急に私を呼び捨てなんて失礼ね。まあ、いいわ」


 そうして紅茶を一口飲んでから、余裕に満ちた態度で言う。


「前世なんて……そんな話を本の中で読んだ気がするけれど、あんなのはただの迷信よ、科学的ではないわ。一時的な記憶の混乱が引き起こすことじゃないかしら?」


 その言葉を聞いて、もしかして、ベリンダの魂がセシリーに入っているのではないかと疑っていたが、絶対に違うと思えた。

 もしあのぼんやりとしたベリンダだったが、こんないかにも難しい話し方はしない。


(じゃあ、これは本物のセシリーってことなのかしら?)


 その辺りのことはよく分からない。

 だが、これで自分が事情を明かして、なんとかセシリーにハッピーエンドを、なんて話しても無駄だということが判明した。正攻法でいくしかなさそうだ。

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