表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/56

第39話 悪役令嬢の問題1

 そうしてヒューバートが店から出て行くと、待ちかねたというようにリリアがはしゃいだ様子でやって来た。


「すごいわね! まさかヒューバート様に言い寄られるなんて!」


「……言い寄られる? ああ、確かにそうよね」


「最近のベリンダはすごいわね! この前、サミュエル様にも晩餐に誘われていたし、クリフ様は頻繁にベリンダの家に来るそうじゃない」


「ええ、自分でも信じられないくらいにね。……あの、悪けれど今日はもう帰ってもいいかしら? いろいろと混乱して」


「そうよね、無理もないわ。早く帰って休んだらいいわ! でも、誰を選ぶか決めたら私にきっと教えてね!」


 友達の好奇心丸出しの発言に苦笑いを漏らしつつ、その日は屋敷へと戻ろうとリリアの店を出た。

 しかし、なんとなくそのまま屋敷に帰って脳天気な両親と弟に出迎えられるのは、と思ってしばらく街を歩いてから帰ることにした。


 花冠祭りの準備はちゃくちゃくと進んでいた。

 街の通りには花やリボンで飾り付けがなされ、いつもは通りにある露店も一時撤去されていた。

 もうすぐ祭りなのだと、街は浮き足だった空気に満ちていた。そんなときには犯罪も増えるのだろうか、兵士が頻繁に街を見回っている。


 祭りは二日の日程で、二日目の最後に花冠の女王が発表されるのだった。

 ベリンダが以前はなぜ花冠の女王に選ばれたかといえば。


「あら、ベリンダちゃん最近見なかったわね。元気?」


「今日は安い魚が入っているよ。寄ってかないか?」


「ベリンダお姉ちゃん、また遊んでね」


 こうして、街を歩けば気軽に声をかけられる、そんな明るく親しげな娘だからだ。町人の投票が多く集まった。

 ベリンダに転生してから、町人との接触などほとんどなかったが、今までに積み上げたものがあるのだろう。それを無に帰すのはなかなか難しい。


(まあ、でも。アンディ王子の千票は既に失ったからなんとかなるかな……って、今はそれどころじゃない、ヒューバート様の件よ!)


 ベリンダバッドエンドコースに入るのはなかなか難しいようであれば、いっそヒューバートエンドに持っていくか、という考えもある。

 でもしかし、彼のことが本気で好きであればあるほど、そんな安易にと考えてしまうのだ。

 そうしてあれこれ考えながら歩いていると、ふと街中では見覚えのない者たちがいることに気付いた。


 あれは、セシリーとその従者ではないだろうか。

 取り巻き達の姿は今日はない。

 一体なにをしているのだろう、と元セシリーなのに分からない。街中に出るイベントなんてあったっけ、と思いつつその動向を見つめる。


 なんだか、街の人たちに盛んに声を掛けている。

 しかし、声を掛けられた側は、なんだかよく分からないが服装からして高貴な人に突然話しかけられ、どう反応していいのかよく分からない、という迷惑顔をしている。

 どうしてそんなことをセシリーがしているのか。


 もしかしてあれは花冠の女王となるための票集めであろうか。いや、まさかあのセシリーが、と思うのだが、そういえば、と思いつく。

 コーベット家の使用人に、もし花冠祭りで票を集めたいのならば庶民に人気にならないといけない、と言われたことがあった。

 そのときにセシリーだった自分は、だからって祭りまでの短い期間で街人の心を掴むなんてできないし、きっと票集めだと気付かれて逆効果だと思ったのでなにもしなかったが……今のセシリーは素直に使用人の言葉に従ったのだ。


(け……健気!)


 思わず口を手で覆い、泣きそうになってしまう。

 そうして、いくら街人に怪訝な顔をされても諦めずに話しかけ続けている姿に胸が痛くなる。あのプライドが高いセシリーがそうまでして、と思うのだが。


(そうまでしないと、自分の身の破滅だって知っているのよね)


 サザーランド家ではセシリーになんとしても花冠の女王となって王子と結婚しろ、と重圧をかけ続けている。事実、無慈悲な父はセシリーが花冠の女王にならないと、彼女を見捨てて、もう自分の娘ではないと言い放ち、遠く外国へと送ってしまうのだ。


 と、いうのも、実はセシリーの父はセシリーが自分の娘ではないのではないか、という疑いをもっているのだ。

 自分の娘だったらそれなりの身分にある人に見初められて結婚するだろうがそんな気配はないし、こうなったら王子の花嫁の座を、と望むが、それがかなわなかったとき、やはり自分の娘ではないのだ、という気持ちが膨らんで、すこしでもこの不義の娘を自分の目が届かないところへやろうと企むのだ。


(なんとかしてあげたい……)


 自分の手など借りてもセシリーが喜ぶはずがないと知っていたが、それでもなにもせずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ