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第41話 悪役令嬢の問題3

「セシリーは花冠の女王を目指しているのよね?」


 彼女は回りくどい言い様を好まない。

 だからいきなり本題に入った。


「ええ、そうよ。もちろんじゃない。というか、今回の花冠の女王は私以外にないけれど」


「私もそう思うわ」


「でもね、ちょっと困った噂があるのよ」


 セシリーはカップの取っ手を優雅につまみ上げるように持っていたが、それをソーサーに戻した。


「アンディ王子のダンスを断った娘がなんだか注目されていて、そちらに票が流れるのではないか、とね。その娘は城下町でも人気がある娘で、王子の誘いを断るなんてよくやった、との声も上がっているだとか」


(そっちに振られたかっ!)


 この世界の、ベリンダをなんとかハッピーエンドへと持っていこうという圧にはつくづくうんざざりする。


「私は花冠の女王になどなりたくないんです!」


「あら? なにを言うの? 花冠の娘にはエントリーしているのに」


「それには事情がありまして」


「アンディ王子の花嫁になるという事情ではないの?」


 さすが悪役令嬢だ、という冷たい言い方におののきそうになるが、ここははっきり言っておいた方がいいだろうと声を張る。


「違います。私はヒューバート様が好きなんです」


 一瞬の沈黙。

 セシリーは目をぱちくりとさせた後、ようやく、といったふうに語り出した。


「は? あのガーフィールド家の堅物が好きなの?」


「ええ、そうですね」


「……。変わった趣味の人もいるのね。でもまあ、そうね。分からなくもないわ。私は彼のどこがいいか全く分からないけれど、私の友人に彼に憧れているという娘はいたわ」


「だから、アンディ王子と結婚したいなんてまるで思っていないわ。……ああ、でも、アンディ王子と結婚したら頻繁にヒューバート様のお姿を見かけることがあるかもしれませんし、それはそれでおいしい……」


「あなた、王子をそんな踏み台のように」


 それは咎めるような響きではなく、むしろ愉快に感じているような含みがあった。


「花冠の娘にエントリーしたのは事情があるのです。実はうちの父が……」


 そうしてベリンダの父が偽物の冠を渡してしまったことを話した。

 セシリーがこのような事情を話されて、他に漏らすような人ではないと知っている。


「そう、だったのね。そんな理由が。でも、素直に話して交換すればいいのに」


「私もそう勧めたのだけれど、どう話しても無駄で」


「間違いを犯したのなら、早めに謝罪した方がいいのにね。あとから露見したら大変なことになるわ」


「本当にね」


 やはり、というべきか。

 セシリーとはとても話が合う。昔の友達に再会したような気持ちだ。


「あの……私が注目されているって本当に? いえ、父の事情があるので花冠の女王になれたら冠をすり替えるのが容易で助かるんだけれど、でもアンディ王子の花嫁となるのは望んでいないのよ」


「それは難しいわね。現状で、花冠の女王となったのに王子との結婚を拒むことは不敬罪に問われるかもしれないわ」


「ということで、私はあなたを応援したいの」


 ベリンダはテーブルの上から手を伸ばし、セシリーの手に自分の手を重ねた。


「そうしたら、冠を本物と入れ替えることに協力してくれる?」


「そんな。まるで犯罪の片棒を担ぐみたいで嫌だけれど。でもまあ、私も偽物の冠をいただくなんてごめんだから、協力するもはやぶさかではないわ」


「そうしたらあなたは望みのままにアンディ王子と結婚できるし、私は冠を入れ替えられるし。両方に利があると思うの」


「うーん、そうねぇ」


 セシリーは瞳を巡らせ、ちょっと迷っているような仕草を見せた。


「あなたの応援で私が花冠の女王になれるとは思わないけれど」


「そうね、確かに微力かもしれないわね」


「でも、先ほどのように街人たちに私のことをアピールしてもらうのは悪くないわ。なににしろ、城下町の人とは馴染みが薄くて」


「分かったわ。票集めのためって思われないように、上手くやるわ」


「票集め……そういうわけでは……と言っても通じないわよね。ええ、お願いするわ。私、どうしても花冠の女王になりたいの。この際、侯爵令嬢としてのプライドがどうとか言っていられないくらいに、ね」


 かなり追い詰められているのだろうか。

 気持ちはよく分かる。かつて自分もそうだったから。


 そうして、その日はセシリーと共に街を歩いた。

 あんまりわざとらしくセシリーをアピールすることはせず、ただ友達の侯爵令嬢が街のことに興味があるから案内をしているんだと言って歩いた。

 人々はまず、名もない子爵の娘と仲良くしているセシリーを意外だと思ったようで目を瞠り、それから、城下町のことに興味があるということに好意を感じてくれた……と願っている。


「……ありがとう。おかげで、ちょっとは私の顔を覚えてもらえたと思うわ」


 少し照れくさそうに言うセシリーがかわいらしいと感じてしまう。

 そのかわいらしさに参ってしまう男性が絶対にいると思うんだけれど、とセシリーの幸運を願った。


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