お金も貯まったのでそろそろドレスアップします
「お金もかなり貯まったので、そろそろ15のドレスアップをしようと思ってるんです。」
煎餅屋岩木で陸斗と、昼食を買いに来た芳文を交えて雑談をする中でまどかはそう宣言した。
「ほう、どんな?」
芳文が眼鏡のレンズを光らせ、興味深そうに聞く。
「そうですね・・・手始めに追加メーターの新調とフルエアロ化をして、その後に電飾とバイナルを貼ろうかと・・・」
「後半欧米寄りになったな。」
「映画に出てた15がカッコ良くて・・・」
陸斗のツッコミにまどかが顔をほころばせる。
「買うメーカーとかは決めてんの?」
「バイナルとかはまだ決めてないんですが、エアロとメーターはここのにしようと思ってます。」
そう言ってまどかは、スマホに表示されたエアロとメーターを見せる。
「あー・・・このエアロか・・・」
エアロを見た陸斗が口ごもる。
「朝木ちゃん、こんなメーター使っちゃダメだよ。」
そして、ストレートに言う芳文。
「え?え?どういうことですか?」
二人の反応にまどかは困惑する。
「このエアロ・・・薄すぎて街乗りの走行風で割れたって話を聞いたことがある。」
「このメーターも不具合が多くて有名なやつだよ。」
「え?えー・・・リーズナブルでデザインも良かったから色々一気に出来ると思ったのに・・・」
難色を示した理由を聞いたまどかは、目に見えて落胆した。
「こういう安い物にはそれなりの理由がある。」
「・・・あ、あとバケットも買います。これはちゃんとしたメーカーのやつです。」
そう言ってまどかは、有名ブランドのバケットシートが表示されたスマホを見せる。
「・・・これ今着けてんのと同じだよな?ナビシートもバケットにすんの?」
とスマホを覗き込む陸斗。
「え?今使ってるの陸斗さんから貸りてるやつですよ?」
「ん?・・・ああ、そうだ。俺のだ。」
陸斗は一瞬、怪訝な顔をするも少し考えて納得した。
「忘れてたんですか・・・?」
「ああ。忘れてた。・・・欲しいんなら安くするよ?」
「え!?おいくらですか?」
陸斗の提案にまどかが目を丸くする。
「じゃあ、三万でいいや。」
「そんな安してもらって良いんですか?」
「いいよ。中古で状態も微妙だから。・・・てか、逆にいいのか?」
陸斗の言う通り、まどかのS15についているバケットシートはブランドこそ一流だが、かなりの使用感が出ている。
「いえ、むしろありがたいです。じゃあ、お言葉に甘えて・・・確か三万円ならあったはず・・・」
そう言ってまどかは腰につけていたウエストポーチから財布を取り出した。
「・・・こほん。あのう、仕事中だってこと忘れてない。」
いつの間にか陸斗の背後にいた岩木がわざとらしく咳ばらいをし、笑顔で圧力を掛ける。
「おわぁ!すいません。」
驚いて身体をびくつかせる陸斗。
「あ、やば。長居しすぎた!じゃ、陸斗。また!」
そして、芳文はバタバタと慌ただしく店を出ていった。
「これ、代金の三万円です。」
恒例のファミレスミーティングで、まどかはシート代を陸斗に差し出した。
「ほい、確かに」
陸斗は紙幣を受け取ると簡単に数えて財布に押し込んだ。
「・・・それで結局、ドレスアップはどうするの?」
二人のやり取りを見ていた芳文がまどかに聞く。
「追加メーターだけにしときます。ちゃんとしたメーカーの」
「うん、それが一番いいと思うよ。」
苦笑いするまどかに、芳文が微笑みを浮かべてそう言った。
「あ。・・・えーと、陸斗さん。」
会計時。支払いの列に並ぶまどかが財布の中を見て声を漏らすと、目の前の陸斗に声を掛けた。
「ん?何?」
「お金貸してもらえません?」
振り返った陸斗に申し訳なさそうに言う。
「・・・まさか、シート代しか持ってきてなかったのか?」
「面目ない・・・」
「しょうがない。今日は俺の奢りでいいや。」
陸斗は鼻を鳴らすと、レジでまどかの分の代金もまとめて支払った。
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、パッケージと説明書は後部座席に積んであるから」
「ありがとうございます。」
一週間後。七原自動車で紅葉からS15のキーを受け取ったまどかは礼を言って愛車に乗り込んだ。
「さて・・・」
先日、自分の物になったバケットシートに身を預けたまどかは一呼吸置いてキーを刺し込み、エンジンを始動させた。
インパネ中央に搭載されたブースト、水温、油温、油圧の四つの新しい追加メーターが起動し、黒をバックに文字盤が赤く浮かび上がる。
「うーん・・・いいね。・・・よし。」
ニューメーターにテンションを上げたまどかはスマホを取り出し、どこかに電話を掛け出した。
「ん?」
自室でコーヒーを飲みながらテレビゲームしている陸斗に、傍らのテーブルの上にあるスマホがまどかからの着信を告げた。
「どうした?」
「陸斗さん、ご飯行きません?」
「飯?いいよ。」
突然の誘いに面食らいつつも陸斗は承諾した。
「じゃあ、迎えにいきますね。」
十分ほどしてまどかのS15は陸斗の住むアパートに到着した。
「・・・メーター変えたのか?」
ナビシートに乗り込んだ陸斗がおニューのメーターに気づく。
「わかります?やっぱちゃんとしたメーカーのやつはいいですね。」
上機嫌のまどかはニヤニヤしながら答える。
「そりゃそうだ。品質が違う。・・・これを見せたかったのか?」
「いざ着けてみたら、これを一人で見るのも勿体ないと思って・・・」
「何言ってんだか・・・」
照れくさそうなまどかに、陸斗は苦笑いで返す。
そして、S15はH市の飲食店に向けて走り出した。




