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メイドカフェ

 「いらっしゃいませ。ご主人様。」

 「いやぁ、いいですね。」

 入店を笑顔で迎えるメイドに葵が顔をほころばせる。

 「葵君、ぶっちゃけもう帰りたい。」

 「まだ一歩入っただけですよ!?」

 凍りついた表情の陸斗に、葵が驚愕の表情を見せる。

 「いや無理。葵君、あとは任せた。」

 優待券を葵に手渡し、陸斗は踵を返す。

 「待ってください。ここまで来てそれはないでしょう。」

 葵が襟首をつかみ、陸斗をひき止める。

 「勘弁してくださいよ。葵さん。」

 「いや、キャラ崩壊してますよ。」

 「どうなさいました?ご主人様。」

 背後から声を掛けられ、振り返った二人は言葉を失った。

 そこには可愛らしいメイド服に身を包んだまどかが立っていた。

 「・・・こちらの旦那様がすぐに出掛けると言って聞かないんです。」

 そう言って葵はまどかにアイコンタクトをする。

 「それはいけません。ご主人様はお疲れでしょうから、こちらでゆっくりお休みください。」

 そして、まどかと葵は陸斗の両脇を固め、席まで連行していく。

 「え!?お、おい!」


 「陸斗さん、とりあえず落ち着きましょう。」

 葵が完全に固まっている陸斗に水を差し出す。

 「お、おう。」

 陸斗はぎこちなくコップを受け取り、水を一口飲む。

 「ふー・・・どうもこういう店は苦手だ。」

 息を吐いて肩の力を抜いた陸斗がぼやく。

 「普段どういう店に行ってるんです?」

 メニューを見ていた葵が顔を上げる。

 「ん?ファミレスとか牛丼屋とか・・・あとはたまに個人経営の喫茶店。」

 「いたって健全ですね。」

 予想通りといったふうに葵が言う。

 「葵君はどうなの?」

 「僕も似たようなもんですよ。」

 「何になさいますか?ご主人様。」

 長い黒髪を両サイドでまとめたツインテールのメイドが注文を取りに来た。胸には「りん」と書かれたハート型の名札が付いている。

 「じゃあ、僕はハンバーグセットとホットミルクで。」

 「えーと・・・じゃあ、オムライスとカプチーノ。」

 葵から渡されたメニューをめくり、目についた料理を注文する。 

 「かしこまりました。カプチーノには何をお描きしますか?」

 「・・・?ああ、そうか・・・・」

 陸斗は一瞬困惑するも、すぐにコーヒーアートのことを理解して呟く。

 「・・・じゃあ、あそこにいる赤毛のメイドの似顔絵で。」

 特に描くものが思いつかなかった陸斗は何も考えずにそう告げる。

 ちなみに赤毛のメイドとはまどかのことだ。

 「かしこまりましたー。」

 りんは笑顔でそう言うと奥に下がっていった。

 「・・・。」

 「陸斗さんってああいう感じの娘が好みなんですか?」

 りんを凝視していた陸斗に葵が聞く。

 「いや、あのメイドどっかで見た気がすんだよ。」


 「お待たせしました。カプチーノとホットミルクでございます。」

 「なあ、まどか。」

 飲み物を持ってきたまどかに陸斗が声を掛ける。

 「何です?」

 まどかが素に戻って答える。

 「あのメイドどっかで見たような気がするんだけど・・・」

 別のテーブルで注文を取るりんを目で示す。

 「あれ凛子さんですよ?」

 「ん?誰それ?」

 聞きなれない名前に陸斗の頭に?マークが浮かぶ。

 「いやほら、三波モーターランドでカプチーノに乗ってた・・・」

 「ああ!」

 まどかの説明で陸斗の記憶が瞬時に蘇る。

 烏丸凛子。三波モーターランドをホームコースとするカプチーノ使いだ。

 「髪型が違うからピンと来なかった・・・」

 陸斗達と会ったとき、凛子は長い髪を下ろしていた。

 「では、ごゆっくり。」

 そして、まどかはお辞儀をしてテーブルを離れた。

 「すごいですね。それ。」

 「ん?」

 「コーヒーアートですよ。」

 葵に言われ、運ばれてきたカップに目を落とすと、カプチーノの泡にまどかをデフォルメした可愛らしい絵が描かれていた。

 「おお、すげぇな。これ。」

 コーヒーアートの出来栄えに思わず声を漏らした陸斗は、スマホを取り出して写真を撮った。


 「ご主人様、お料理をお持ちしました。」

 まどかが湯気の上がる熱々のハンバーグとオムライスを運んできた。

 「それではご主人様。ケチャップで文字をお入れしますね。」

 陸斗の前にオムライスを置いたまどかが笑顔で言う。

 「えー、マジで・・・?」

 「何を書きますか?」

 「I LOVE RE。」

 だるそうな顔をしていた陸斗だったがです、まどかの問いにキリリと答える。

 「そこははっきり言うんスね。」

 まどかはすらすらとケチャップでオムライスに文字を書き始める。

 「おい、こら。」

 書き上がった文字を前に陸斗はじっとりとした目でまどかを睨む。

 まどかはI LOVE S15と書いていた。

 「すみません、陸斗さん。自分の気持ちに嘘はつけませんでした・・・」



 「いってらっしゃいませ。ご主人様。」

 「いやぁ、楽しかったですね。」

 「うん、楽しかった。二度とここには帰らないけど。」

 焦点の合ってない目で陸斗が言葉を垂れ流す。

 「・・・大丈夫ですか?」

 「死ぬほど疲れた・・・」



 「よっしゃ、復活!」

 数週間後。七原自動車の駐車場にて、新しいエンジンの載ったS15の前でまどかがガッツポーズを取る。

 「中々良い個体が入ったから慣らし後のセッティングも期待できるよ。」

 紅葉が親指を立てる。

 「り・く・とさん。」

 傍らで煙草を吸っている陸斗に、満面の笑みで呼び掛ける。

 「・・・何ですか?」

 面倒くさそうに陸斗が反応する。

 「慣らし運転に付き合ってください。」

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