ゲテモノ 後編
「後どれくらい?」
高速道路のサービスエリア内にあるファーストフード店で、やや疲れた顔の芳文が陸斗に聞く。
「一周だ。」
「ようやくか・・・長かった~。」
芳文が伸びをする。
この日、陸斗と芳文はSAの慣らし運転の為、朝から高速道路を周回していた。外はすっかり日も落ちて闇に染まっている。
ファーストフード店で夕食を済ませた二人が駐車場に戻ると、SAを眺める一人の若い男がいた。
SAの隣には、白いZ32型フェアレディZが停まっている。周りに車が居ないところを見ると、Z32はこの男の物だろう。
「それ、僕たちの車ですけど?」
芳文が男に声を掛ける。
「ああ、失礼。いやあ、良いですね。元ロータリー乗りなので、つい見ちゃいましたよ。」
男がフレンドリーに応える。
「前のFCは?」
陸斗が男に聞く。
陸斗はその男に見覚えがあった。
その男は、F漁港で耕耘機とバトルをしていた、FC使いのシュウゾーだった。
「エンジンブローとその他諸々の理由で手放しました・・・。」
「ロータリー率がまた下がっちまった・・・。」
「陸斗の知り合い?」
「いや、F港で走ってるのを見たってだけだ。」
「フッ。そうか・・・、あのバトルを見ていたのか・・・。だが、俺はあの耕耘機にリベンジを果たす。この闇のZでな!」
シュウゾーがポーズを取りながら宣言する。
「そのZがS30じゃなくて良かったね。」
やや引き気味に芳文が言う。
「というか、ロータリーに戻れ。」
「ロータリーは維持費が・・・。」
「おいおい、今やロータリー乗りの減少は社会問題だ・・・」
「あー、陸斗。そろそろ行こうか。」
話が長くなる事を悟った芳文が陸斗を止める。
「え?ああ、わかった。・・・じゃあ、俺たちは行くから。」
「お気をつけて~。」
シュウゾーと別れ、陸斗と芳文は再び慣らし運転に出発した。
「はーい。おつかれー。」
閉店時間が過ぎ、工場以外の照明が落とされた、七原自動車で紅葉が出迎える。
「うーす。」
陸斗が返事をし、SAのキーを紅葉に渡す。
「それじゃあ、明日、ジュンヤファクトリーでセッティングよろしく。」
「結構予定詰めますね。」
SAの点検を終えた芳文が言う。
「まあ、予定が立て込んでるからね。とにかく、今日はお疲れ様。帰ってゆっくり休んでよ。」
「はい、終わったよ。」
翌日。ジュンヤファクトリーにて、ジュンヤがECUのセッティング結果が記載された用紙を持ってくる。
「ありがとうございます。・・・三一二馬力・・・割と出てるな。」
受け取った用紙を見た陸斗が呟く。
「もっと狙えそうな気もするけど・・・。」
用紙を横から覗き込む芳文が言う。
「確かにまだ上を狙えるけど、古い車だからね。来週が楽しみだ。クックック・・・。」
そう言ってジュンヤが怪しく笑う。
「来週、何かあるんですか?」
「え?愛知のミニサーキットで、このSAとうちで作った珍車の性能テストをやるんだけど・・・聞いてない?」
「いえ、全く。芳文、何か聞いてる?」
「いや?・・・まあ、あの社長だから・・・。」
「ああ・・・。」
「どうだった!?」
翌週。愛知のミニサーキットにて、コースを数周走行し、ピットインしたSAに乗る陸斗に芳文が聞く。
「良いね。全体的に安定してて、すげぇ乗り易い。」
「ホント?」
「ああ。今度はお前が乗ってみろよ。」
陸斗が下車し、マットブラックのフルフェイスヘルメットを脱ぐ。
「よーし。」
芳文が白いフルフェイスヘルメットを被り、SAに乗り込む。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「壊すなよ?」
SAの屋根に手を掛け、ニヤニヤしながら陸斗が言う。
「うるさい!」
そう言うと、芳文は窓を閉め、コースに出ていく。
「さて、性能を見せて貰おうか。」
コースに出て一周目を軽く流した芳文は、最終コーナーを抜けると、二周目の全開走行に向けてストレートでアクセルを一気に踏み込んだ。
「・・・凄いな。これ。」
滑らかな加速に驚く芳文。
そして、そのままSAは第一コーナーに突入する。
「お?・・・んん!?」
第二コーナーを抜け、ルームミラーをチラ見した芳文が、驚いて二度見する。
ミラーには、右ウインカーを出す軽トラのキャリイが大きく映っていた。
勿論、見間違いではない。この軽トラ、一見何の変鉄もない普通の軽トラに見えるが、中身はジュンヤファクトリーでカスタムされた珍車である。
ちなみにドライバーは耕耘機と同様、熊之助だ。
「軽トラなどに負けるかぁ!!」
アクセルを煽り、軽トラを引き離す。
「おいおい、あいつ何やってんだ?」
ピットの外れにある喫煙所で、煙草を吸う陸斗が、キャリイとデッドヒートを繰り広げるSAを見て呟く。
「まあ、あのキャリイなら苦戦するのも無理ないね。」
一緒に煙草を吸っていたジュンヤが、煙を吐きながら言う。
「いったいどんなカスタムをしたんですか?」
「いや、それはちょっと・・・あ、そういえば、今日はこの前来た娘来てないの?」
ジュンヤが口ごもり、話題を変える。
「ああ、まどかなら今日はバイトですよ。」
「あー、それは残念。・・・お、二台とも戻ってきた。」
見ると、SAとキャリイがハザードランプを点滅させながら、ピットインしていた。
「だいぶ煽られてたな。」
SAから降りた芳文に陸斗が言う。
「あの軽トラ絶対おかしいよ。」
「はーい。今度は私が乗りますよー。」
そう言って紅葉がSAに乗り込み、窓から顔を出す。
「じゃあ、ジュンヤさーん。負けた方が人数分のジャンボフランクを奢るってことで、よろしくー。」
「はいよ!」
ジュンヤは片手を上げて答えると、フルフェイスヘルメットを被り、傍らに停められた異様に車高の低いジムニーに乗り込んだ。
そして、SAとジムニーがピットを出ていく。
「まったく・・・ゲテモノ揃いだ。」
陸斗がため息混じりにそう呟く。
一周目の最終コーナーを抜けると、バトルスタートと言わんばかりに、SAとジムニーが横並びになり、一気に加速する。
そして、第一コーナー手前でジムニーがブレーキングをするが、SAはノーブレーキで突っ込んで行き、慣性ドリフトで第一、第二コーナーを走り抜ける。
「すご・・・ッ!」
「なんだよ?あれ・・・。」
「慣性ドリフト・・・。」
驚きのあまり、ピットで固まる熊之助、陸斗、芳文の三人。
「参ったな・・・全く隙がない・・・。」
一定の間隔を保ちながらSAの後方を走るジュンヤが、ため息混じりに呟く。
「だいぶ腕を上げたな。紅葉ちゃん。・・・でも、正攻法以外の手を防げるかな?」
ジュンヤが怪しい微笑みを浮かべる。
「さてさて、ジュンヤさんは何を仕掛けてくるかな?それとも、ネタ切れ?」
バトルも終盤に差し掛かり、いつもと変わらぬ口調で、紅葉が独り言を言う。
後方ではやはり、一定の距離を保ってジムニーが追走している。
そして、最終コーナーに接近すると、紅葉はブレーキを踏み、コーナリングに備える。
「ここだ!」
SAの減速を確認すると、ジュンヤは減速せずにジムニーの鼻先をイン側にねじ込み、SAの前に出る。
そして、オーバースピードでコーナーに突入した、ジムニーのタイヤを、イン側のゼブラに引っかけ、某車漫画のようなコーナリングで、最終コーナーを抜けてSAに大差で勝利した。
「いやー、負けちゃったー。」
走行が終わり、駐車場に戻ると、紅葉は普段と変わらない口調でそう言った。
「お疲れ様です。良いバトルを見させていただきました。」
走行後のクーリングの為、SAのボンネットを開けた芳文が、労いの言葉を掛ける。
「それにしても、漫画みたいな抜き方でしたね。」
陸斗がバトルを振り返る。
「DVDでレーサーが実際にやってたのを真似たんだよ。」
ジュンヤが缶ジュースを飲みながら言う。
「実際にあるテクニックなのか・・・。」
「車には良くないから、あんまりやんない方が良いけど・・・。じゃあ、紅葉ちゃん、ジャンボフランクよろしく。」
「はいよー。芳文くーん、お金貸して?」
そう言って紅葉が芳文に手を出す。
「陸斗君、お金貸して?」
そして、芳文が陸斗に手を出す。
「断る。」
そして、この日を持って、陸斗の七原自動車でのバイトは終わったのであった。




