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デスルーラーII ソウルメイト  作者: kiriko


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約束

シノブがノクティス家を訪れてから数日後、必死の看病の甲斐あって、マリは肺炎に至ることなく熱を下げた。

ここのところほとんど徹夜でマリの傍にいたシノブは、とりあえず危機を回避できたことに、安堵の息を漏らす。


「あいつら…本当にマリを見捨てやがった…!」


もしかしたら、ノエルが来てくれるのではと淡い期待を抱いていたのに、見事裏切られてしまった。


「専属医ってのが何だか知らないが、あいつは医師として腐り切ってる…!」


金髪に三つ編みのノエルの姿を思い出し、シノブは毒づいた。


「シノブ、どうかした…?暗い顔、してるよ?」


か細いマリの声が聞こえると、シノブは顔面に笑みを張り付けた。


「ああ、何でもないよ、マリ。心配させてごめん」

「いつもあなたを心配させてるから、お互い様よ」


マリはゆっくりとベッドの上に起き上がり、そのまま座った。

そして目を閉じ、今しがた見ていた夢を瞼の裏で再現する。

詳しいことはあまり思い出せないが、マリは確かに純白のウェディングドレスを纏っていた。

病気でやせ細っている自分ではなく、健康で少しぽっちゃりしていた自分だった。


「シノブ?」

「うん?」

「私ね、夢を見ていたの、真っ白いドレスを着て、あなたが来るのを待っていたの」


マリの夢には、シノブは登場していなかった。

けれど、自分が誰を待っているのかなんて、聞かずともわかりきったことだ。

マリの手を取るのは、シノブしかありえない。

だってマリの夢は、ずっと彼の傍で生きることなのだから。


「真っ白い、か。それってウェディングドレスだよな?着てみたいか?」

「それは、もちろん…着たくない人なんて、いないんじゃないかな?」

「じゃあ、着るか?」

「え…?」


シノブはマリの驚いたような顔を見つめ、傍らに置いていた水晶を目線に掲げて見せた。

それは照明の光を帯びてキラキラと光っており、マリは一瞬目を細める。


「マリ、俺はソウルヒーラーとしてもう一度やり直す。ここのところ、ずっと休んでいたからな」

「この水晶は、商売繁盛のお守りのようなもの?」

「そういうことだ。こういうのを使って、客を癒せたらいいんだけどな」


シノブが数日前骨董屋で買い求めた水晶は、今のところカウンセリングルーム内の装飾品になる予定だ。


「その水晶であなたの心が前を向くなら、それが一番だと思う」

「ただのカッコつけだって、笑わないのか?」

「ソウルヒーラーはあなたの夢よ、笑ったりしないわ」


デスルーラーが死した魂に裁定を下す存在であるのに対し、ソウルヒーラーは生きた人間の魂を癒す存在だ。

つまり、カウンセリングを受けにきた客に、安らぎを与えるのが仕事である。

死した魂には介入できないし、魔力を使ってカウンセリングを行うわけでもない。

実際は手相を見ながら、客が欲しいと願う一言を与えるのが目的だ。


「ありがとな、マリ。お前は俺の唯一無二の理解者だ」

「それはそうよ…だって、私は…」


そこまで言いかけて、口を噤んだ。

「あなたの妻になるんですもの」と言ってしまって、本当にいいのだろうか。

マリは自分の命がそう長くないことを、知っている。

誰に宣告されたわけでもなく、マリ自身が本能的に察しているのだ。

シノブの必死の看病を嘲笑うかのように、病状は日々悪い方向へと進行している。

そのことが、手に取るようによくわかる。


「マリ、まだ具合が悪いんじゃないのか?寝ていた方が…」


顔を覗き込まれると、マリは自分の思考に蓋をした。

自分はまだ生きているのに、死なんて考えをそう簡単に持つべきじゃない。

この世界には、生きたくてもそうできない人が多いと聞く。

だから、最後の最後まで病と向き合わなくては。


「そうよ、だって…私は生きてる…諦めてはいけないわ」


少しばかり俯くと、シノブの小指が視界に入り、弾かれたように顔を上げた。


「約束だよ、マリ」

「え、どんな約束…?」


すると、シノブは照れたように少しだけ俯き、やがてにっこりと笑った。


「お前には、最高のウェディングドレスを着せてやる」

「シノブ…?」

「だからさ、もっと元気出そうぜ。俺は俺にできることを必ずやってみせる。お前も病気なんかに負けるなよ」


マリはしばし瞼を伏せたが、やがてシノブに笑みを返した。


「わかったわ、シノブ。私、絶対に病気を克服する。指切りよ?」


そう言って、シノブの小指に自分のそれを絡めるのであった。


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