決着
リュクサの変化は、口調や態度に止まらなかった。
体の周りに光を纏い、粒子の流れに髪をなびかせ、ただそこに立っている、否、君臨している。
「貴様はあの時、俺の魔力だから利用したのか?」
「そんなわけあるかよ!?」
「ならば、誰の魔力であっても、使えれば利用したと?尚悪いな」
「お前、ほんとに何者なんだよ!?」
シノブの声は、もう悲鳴に近かった。
人を刺したのに、そのことを責められず、なぜマリの件ばかり口にするのかがわからない。
ノエルのことを、大切だとは思わないのだろうか。
「大切かどうかなど、貴様の知ったことではない」
「っ!?お前、僕の心まで…!?」
「隠したければ、去れ。今なら見逃そう」
一体これはどういうことなんだと、シノブは脳内の記憶に手を伸ばすが、届かない。
リュクサの記憶にたどり着く前に、マリの笑顔ばかりが蘇って、涙が溢れてくる。
だから結局、何も言えなくなった。
ただ嗚咽を堪え、しゃくり上げるだけの存在になり果ててしまった。
リュクサはそんなシノブを一瞥した後、彼を静かに床の上に下ろした。
「教えろよ、デスルーラー?マリの魂は、ちゃんと天国へ…」
聞こうとしたけれど、やめた。
リュクサの視線が相変わらず鋭く、口を開けば今度は何を言われるかわかったものではない。
シノブは汚れてしまった服を叩きつつ、リュクサを指差した。
「いつか見てろよ!俺はお前の上に立つ!必ずだ!」
「どうやって?」
「それはこれから考える!俺の幸せはな、お前の死とともにある!覚えとけ!」
それきりシノブは去って行った。
彼の去り行く姿を見送ると、リュクサは床に膝をついたままのノエルを気遣った。
「ノエル、大丈夫か?」
「ええ、もう魔力で塞ぎましたから」
ノエルは自身も特級魔術師になったことで、自身の傷を自分で癒せるようになった。
厳密に言えば魔術師協会に所属していないので、「自称特級」なわけだが、この際細かいことはいいだろう。
ノエルもリュクサも禁術に足を踏み入れた時点で、天国には行けない魂なのだから。
「ノエル」
「はい?」
「俺は決めた」
「何をでしょう?」
リュクサは光の粒子を帯びたままの状態で、ノエルを真っすぐに見据える。
「もう、守られてばかりの弱い俺を封印しようと決めた」
「では、守る側になると?」
「当然だ。俺の大事な専属医を傷つけさせるわけにはいかない」
ノエルはようやく立ち上がり、光に包まれるリュクサを優しく抱きしめた。
すると瞬く間に光はリュクサの体内に吸収されていく。
「どうしたんだ、ノエル?」
「少し驚いているのです。あなたの中での私が、これほどにも大きい存在だとは、正直思いませんでした」
「あなたは、恩人で、専属医…そして、ソウルメイトだ」
ソウルメイトという新しい立ち位置までもらえて、ノエルとしても嬉しい限りだ。
「あなたは元々そういう性格なのですよ、リュクサ。今までつらかったですね…魔力も、本当のあなたも隠しながら生きてきて…」
もしかしたら、少し傲慢なところは父に似ているのかもしれず、ノエルの前で本性を出せばそこを指摘されるのではと思っていた。
だが、彼はそうしなかった。
ありのままのリュクサを受け入れ、「そのままでいい」と言ってくれている。
こんな存在を、「ソウルメイト」以外のどんな言葉で表現したらいいのか、誰かに教えてほしいくらいだ。
ノエルの傍にいたいというので、リュクサを自室に連れて来たノエル。
しかし、いざ連れて来てみると、リュクサはベッドの真ん中に陣取って寝息を立てていた。
こうしてみると、まだ少し子供のような面差しが残っているなと思える。
「あなたは私をソウルメイトだと言いましたが、私にとってのあなたも同じですよ、リュクサ」
そう呟いてソファの上で眠ろうと移動しかけた時、唐突に手首を掴まれた。
「もう一度言ってくれ、ノエル」
「聞いていたのですか?てっきり寝ているものかと…」
「いいから、言ってくれ。嫌な夜だと思っていたが、今少し感動している」
やれやれと、ノエルは苦笑した。
本来のリュクサになっても、泣き虫なところは変わらないようだ。
「あなたは私の大切な存在だと言ったのです」
「ありがとう、ノエル。俺に友達ができたのは、初めてだ」
その言葉は、シノブが持っていた短剣よりも深く、ノエルの心を刺し貫いた。




