共鳴する魂
『あなた一人で抱え込むには、限界があるのですよ』
リュクサが魂の共有を受け入れたのは、ノエルからのこの言葉があったからだ。
今まで、リュクサにそんなことを言う人間はいなかった。
兄のアステルでさえも、弟が抱える闇の深さまでは、理解していないだろう。
「生きた人間の魂を、生きた人間の魂と交換するなんて…あってはならないことだ」
リュクサは至極当然の掟を口にし、自身のてのひらに、金色に輝く自分の魂を取り出した。
「わかっています。私はきっと地獄へ落ちるのでしょう。が、それも悪くありません」
「ノエル…?」
「きっと、あなただって落ちる先は地獄です。違いますか?」
リュクサは短く「そうだな」と答え、金色の魂をノエルの胸元に近づけた。
すると、真綿を思わせる金の光の半分だけが消え、彼の胸の中に吸い込まれるように消えていく。
一方で、今度はリュクサの手の上にノエルの魂が乗った。
それを半分だけ胸の内に取り込み、もう半分をノエルの胸の中に戻してやる。
「リュクサ!」
グラリと体を傾けるリュクサを、ノエルが抱きとめる。
「大丈夫だ、ノエル…気分はどうだ?」
すると、ノエルはリュクサの体を離し、自分はカーペットの上に仰向けになってしまう。
「これは…思う以上に過酷なものですね」
かなり覚悟を決めていたつもりだが、どうやらノエルはリュクサの闇の半分も理解していなかったようだ。
今、ノエルの脳内には、リュクサの魂に刻まれていた、様々な記憶が流れ込んできている。
その情報量はすさまじく、吐き気を覚えるほどだ。
「ノエル、あなたの記憶も、俺の中に入ってきた」
「見られて困るものでもありませんから、構いません」
すると、リュクサも疲れたと言いながら、ノエルの隣に寝転がった。
もう術をかけ終えているので、後は互いの魂が定着するのを待つだけだ。
ここから先どうなるのかは、リュクサですらもわかっていない。
「ノエル、なぜこんな危険なことをしようと思った?」
「あなたは半分壊れかけていましたから。私は患者のメンタル面まで気にする専属医なのですよ」
それを聞き、リュクサは苦笑する。
「生まれて初めて…孤独から解放された気がする」
「それは何よりです」
「あなたが何より大切だと、実感してもいる」
「私達は、互いのパズルを完成させるための、ピースのような存在なのかもしれませんね」
ノエルがそう言って、リュクサの髪に手をかけようとした瞬間だった。
いつかエスタリアのホテルで見たような、膨大な光の粒子が視界を占領し、周囲を金色に染め上げていく。
「共鳴…したのか!?」
リュクサはガバっとその場に起き上がり、自分達を包む光の光量に目を見張る。
こんなに濃厚でまばゆい光を見るのは、初めてだった。
そして、ノエルもその場に起き上がる。
「ああ、やはりこうなりましたか…予想はしていましたが」
ノエルは瞳を金色に染めており、リュクサは言葉を失った。
「どうやら、私も特級魔術師になってしまったようですよ、リュクサ」
「そんな…どうして…?」
何の犠牲も払うことなく、魂の交換などできるはずもなかった。
何かをすれば必ず代償を払うことになる。
マリの件でそのことを嫌というほど実感したばかりなのに、また間違えてしまった。
「すまない、ノエル…あなたが、まさか特級魔術師になるなんて…」
「私は、魔術師試験を受けるつもりも、魔術師協会に登録する気もありません」
「な、なぜ…?」
「私を何より大切だと言ってくれたあなたの傍を、離れると思いますか?」
あくまでも自分は専属医なのだと言い張るノエル。
リュクサはそのことを、許そうと思った。
特級魔術師として生きる第二の人生もあるだろうに、ノエルはそれを良しとしていない。
なら、リュクサにできるのは、彼の意志を尊重することだけだ。
一方で、リュクサもノエルの魂から医学の知識を少しばかり与えられた。
だから、わかる。
こうして二人で集中力を高めていくと、マリの命がもういくばくもないことが、手に取るようによくわかる。
同時に、シノブがどれほどの絶望を味わっているのかも伝わってきた。
「リュクサ、今回の件は、不幸な事故でした。悪い要因ばかりが重なり、結果としてとんでもない悲劇を生んでしまったのです」
「わかって…わかってるけど、こんな結末は…本当に正しいのか?」
涙に咽ぶリュクサを、ノエルはそっと抱き締める。
魂を共鳴させた今、リュクサの悲しみはノエルのものでもある。
抉られた心の傷が新たな涙を誘うまで、さして時間はかからなかった。




