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その報せは、すぐに密偵によって第三王子のもとへ届けられた。
「……《神託の花嫁》が、城を出た?」
「はい、何やら、大慌てで出ていきました。兄も一緒です」
「……何かをつかまれたのか?」
「それはわかりません。ただ、これは好機です」
今なら、と、意味ありげに低く言われ、第三王子は考えるそぶり。
瞳の色は、狡猾に何かを測っているようだった。
「……確かに……あの目障りな女がいなければ、アクスル・クヴァントの守りには隙があるな……」
ここ数日、アクスルが倒れて以降、第三王子たちはずっと彼らの行動をうかがっていた。
しかし、アクスルのそばには常にエルフリーデがいた。
その強さは第三王子も調査して知っている。彼女と、その兄、そしてアクスルの従者ロリーが連携して倒れたアクスルを守っていて、とても付け入る隙がなかったのである。
けれども、その内のふたりが王城を出たのなら、アクスルのそばにいるのはロリーだけ。もちろん他にも王太子が配置した衛兵などはいるが、バルヒェット家兄妹の不在は大きかった。
「……よし。……例の解呪士は? 弱みをつかんだか?」
ひそめた声で訊ねると、配下は深く頷き、王子に耳打ち。
「娘夫婦を探し出して人質にしてあります。孫はまだ小さい。言う通りに動くでしょう」
その答えに、第三王子は満足そうに笑う。
「素晴らしい、まさに渡りに船! こんな時にわざわざアクスルのそばを離れてくれるなど……まるで天がわたしに味方しているようじゃないか⁉」
好機を前にして第三王子は有頂天になった。やはり自分は天に選ばれた人間なのだ。それも当然だと思った。国王の三人の息子の中では、自分が一番優秀だ。
のんきな性格の王太子など、切れ者のアクスル・クヴァントさえいなければ恐るるにたりない。
勝ち誇ったように高笑いし、第三王子は配下に命じる。
「よし、すぐに解呪士に命じろ。アクスルに毒を盛らせ、やつが死んだら、それも呪いのせいだと証言させるんだ! それと……王城から出ていった《神託の花嫁》も、ここに戻ってこられないように刺客を送るのを忘れるな。そうしておいて、《神託の花嫁》は、先日の失態の罰を受けるのが嫌で逃げ出したといいふらせば、すべては不甲斐ない《神託の花嫁》のせいということにできる」
そうなれば、《神託の花嫁》を選んだ王太子も責任を追及されるだろうし、彼に神託を頼るよう促した王妃も同罪。
彼は国王の側妃の息子。王妃が責められれば、彼の母も大いに喜んでくれるはず。
第三王子はにやりと笑って配下に命じる。
「派閥の者たちに、できるだけこの件で騒ぎたてるように伝えておけ。大臣たちにも徹底的に追及させるんだ!」
そうなれば、きっと王太子は大いに慌てる。騒ぎが大きくなれば大きくなるだけ彼らには有利なのである。
騎士団に戻ったエルフリーデは、“あるもの”を抱えて団営を出た。
久しぶりの団営にも、取って返すようにアクスルのもとに戻ろうとする彼女の後ろには、王城からついてきたレオンの姿もある。
彼が言っていた通り、騎士団はよほど忙しいらしく、ほとんどの団員が出払っていて、残っていたのは事務方や働き手の職員たちだけ。
ガランとした団営を見たエルフリーデは、父や兄、同僚たちのことも気になりはしたが……。とにかく今は、アクスルを救うことを第一に考えることに。
そんな彼女の腕の中には、抱えるほどの箱。その中身をチラリと覗き込みて彼女は緊張の面持ち。
(……この読みが……当たっているといいが……)
昔から戦闘に対しての勘はいいほうだ。しかし、今回ばかりは愛しい命がかかっているとあって、さすがの彼女にも迷いが生じる。アクスルの命が刻一刻と削られていく今、時間の無駄な消費は許されない。
エルフリーデは、箱を抱く腕にぐっと力をこめて、王城を目指す足を急がせた。
あたりは夕刻の空。沈みゆく夕日を追うようにして、彼女たちは町を駆けていた。
市場を抜けて、広場を通り、人通りの少ない道へさしかかったときのことだった。角度が低くなった太陽の光が届かぬ暗がりから、突然彼女に向かって鋭利な光が襲い掛かった。
「エル!」
背後から兄の鋭い叫び。咄嗟に身構えた彼女に飛び掛かってきたのは、山のような大男。その野太い腕が、ためらいなく彼女の頭に大剣を振り下ろしていた。




