3-2
とはいえ、と、エルフリーデ。
彼女は、本日の昼食時に行われた顔合わせを思い出し、難しい顔。
自分たちにどんな事情があろうとも、本日のことが大失敗だったことには間違いない。
今回は、急な要請で身支度をする暇もなかったことが一番の敗因だが、それでなくとも、彼女には、はなから縁談に着飾って行こうという頭がなかったので、おそらく時間に余裕があったとしても、きっと結果はあまり変わらなかった。
「……つまり、わたしという存在そのものが、不適切であったのだな……」
エルフリーデがため息をつくと、腕の中の子犬がくぅんと鳴く。
なんだか、縁談相手のアクスル・クヴァントに、とても申し訳ない気持ちになった。
ただ、彼女は縁談を受けたのは初めてのこと。
勝手も分からなかったし、それに唯一、付き添いができた四兄も四兄で、みじんも縁談のことを知らない状態だった。
そんな兄妹が、『『???』』状態で揃って呼び出され、とにかく何でもいいから来てくれと言われ、真にうけたのが間違いだった。
王太子に命令に従いさえすればいいと思って、堂々と王城を血まみれで闊歩してきたが、まさかそれで相手を怖がらせてしまうとは思わなかった。
エルフリーデはうっすら消沈。
「……うちの家族は全員、多少の傷なら血を流していても、鍛錬や食事を優先させるようなやつらばかりだからな……アクスル卿が血を怖がるなんて……思いもしなかった……!」
「……お前……血で汚れた服で王城にいったのか……」
なんかバレているが、エルフリーデは気にしていない。
深々と後悔のため息を吐く彼女に、同僚男ディレクは、ハッと鼻を鳴らす。
「お前んとこのガサツな家と、高貴な侯爵家様を一緒にするなよ。侯爵家の坊ちゃんも気の毒にな……神託なんてもんのせいで、お前みたいな男女を娶らなくちゃいけねぇとは……だいたいお前が《神託の花嫁》って柄か?」
くつくつと笑われ、エルフリーデは(まあそうかもしれない)と、思った。
彼女自身でも、自分が誰かと結婚して妻になるという姿がまったく想像できない。
これまでは、ただ一心に武芸にのめり込んできた。
彼女の父は第四騎士団を預かってはいるものの、職務に忠実で、野心のあるひとではない。
国を守るという役目をまっとうできればいいという考えの父は、一人娘を政略結婚で嫁がせようなどという頭もなかっただろう。
だからエルフリーデ自身の結婚観も漠然としていて、それよりも、ただ、父と同じく国を守るために自分の力を生かせればいいと思っていた。
世の中では、貴族の家の娘はどこかに嫁いで当たり前という風潮があるが、エルフリーデはあまりそういった道に魅力を感じない。
それよりも、思う存分槍を振りまわしているほうが楽しかった。
けれども、もちろん当主である父がそれを望めば従うつもりではある。
彼女も、バルヒェット家の一員。家族を守るため必要ならば、喜んでそのいしずえとなる覚悟があった。
だから今回、王太子にクヴァント家の嫡男との縁談を命じられた時も、特に異論はなかった。
それはなにやら込み入った事情のありそうな縁談で。他の任務地にいた父は、わざわざ早馬で手紙をよこしてくれて『お前が嫌なら断る』と断言してくれた、が……。
あまり婚姻というもの自体にピンと来ていなかったこともあって、当人は逆にさほど悩まなかった。
騎士団などにいると、国王一家は天も同然。主君家に請われて断るという考えがそもそもなかったのかもしれない。
王太子殿下のお役に立てるなら、と、思ったのである。




