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エルフリーデが王太子を見る瞳は、居たたまれないほどに真っすぐである。
その視線を受けた王太子は、たじろいで後ろに数歩後退。
「ま……いや! ちょ、ちょっと待ってくれエルフリーデ嬢!」
彼女の一片の曇りもない真顔には、王太子が慌てる。
この事態に対するエルフリーデの受け止めは、多少驚いているようすは見られるものの、どちらかというと淡泊である。当然だ。これは、まごうことなき政略結婚なのだから。
さらに言えば、この縁談は、アクスルの主君王太子が、自分たちの都合のために取り持ったもの。エルフリーデにはアクスルに対する想いはない。
だからこそ王太子は慌てた。このまま《神託の花嫁》たる彼女に、縁談を断られては一大事なのである。
「す、すまないエルフリーデ嬢! わ、わたしもこんな事態になるとは……アクスルはなぜ……いや、とにかくすまない!」
アントンはオロオロと謝るが、それに対してすらエルフリーデは感情を見せない。
「いえ。謝らないでください殿下。おそらくこれは、わたくしが不甲斐ないせいです。きっとアクスル卿は、わたくしがお気に召さなかったのでしょう」
「い、いやそんなはずは……。お、お願いだから、早まって縁談を断ったりしないでくれ! 神託の条件にあう令嬢は……もう貴殿しかいないんだ!」
「しかし」
エルフリーデは、自分にすがりつかんばかりの王太子に、冷静な顔で何かを見せる。
──先ほどアクスル・クヴァントが書き捨てていった紙であった。
両手で恭しく差し出された紙に、荒々しい文字で書きなぐられた動揺も露わな文章。
そこには間違いなく、『彼女だけは絶対に無理!』と書かれている……。
「うっ……」
「アクスル卿のご意思が」
冷静にその文字を見せられたアントンは、ふくよかな身体を揺らして怯む。まるでニンニクを突き付けられた吸血鬼のような顔である。が、彼は引き下がらなかった。
「い、いいや! しかしもうこれしか我々には手段が……あやつの呪いを解いてやれる希望がないんだ!」
お願いだから、助けておくれっ、と。再び高貴なお方にさめざめ泣きながら哀願されては。エルフリーデの凛々しい顔にも、さすがに困惑がにじむ。




