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彼らはエルフリーデの影となって応援することを目的としているため、基本的には名乗り合わない。
まあ、それでも、長い付き合いである。彼らがアクスルの身元を知っているように、それぞれなんとなく互いの素性は知っていた。
と、一人の男が甲高い声を上げ、アクスルに指を突き付けた。
「会長‼ こんなやつが、我らの黒女神様の夫になるなどいいのでしょうか⁉ なんて羨まし……いえ! 掟破りです! なんとしても阻止すべきでは⁉」
すると別の者も勢いに乗って続く。
「そもそも我々は、エルフリーデ様にはふさわしい夫を探そうと議論していたではないか……いや、百歩譲って、お前がこれまで以上にあの方につくすのならば、これまでのお前の活動(推し活)を鑑みれば、許せなくもないが……結婚が決まってすぐに根も葉もない悪評をまとわせるとは……」
許せん、と、口の中で苦々しくつぶやかれ、アクスルは返す言葉もない。
(うぅ……)
うなだれた彼にも、それが、自分の身内の仕業であると分かっているが……あの女のぺらぺらとあまりにも軽すぎる口を封じるのは、かなり難儀なのである。
これまでも、女性たちのネットワーク伝いに、あることないこと噂を流されて来たアクスルは、その厄介さを重々承知。ただ、いくら対処しても、悪意のある噂話ほど、世間にはあっという間に広まってしまうものなのである。
と、ここで会長と呼ばれた黒仮面が地団太。
「どうしてあんな素晴らしい方に、悪評が立つ⁉ 威圧的だと⁉ バカな! あの鋭い眼光こそが彼女の魅力ではないか! あの瞳と強さに憧れて、騎士を志そうという若者も急上昇中だったんだぞ⁉ あの方は、この国の軍の人員確保にすら貢献しているというのに……ああくそ! そのようなことを言った無知の輩には、全員下剤を盛ってやりたい!」
「……会長、それはちょっと……職を失いますよ……」
「ううぅっ、わかっている!」
悔しげな男に、隣の男が不安そうに言う。
「会長……まずいですよ。もしこんな事態が……エルフリーデ様の前途に泥を塗ったものの身内が、我々の一員だと《空色》どもにバレたら……大変なことになります」
キンキン声の男の指摘に、黒仮面は苦悩の表情。まわりの者たちも焦ったようすで騒めきはじめる。
「それは防がねば……あいつらは本当に細かいことにやかましいからな……『エル様に迷惑かけるなら解散しろ!』だの、『わたしたちゃ、エル様の胃袋もつかんでるんだからね! 敬いなさい!』だの……『寝言だって聞いたことあるし!』だの……っ羨ましいぃぃっ!」
ひがみ全開の仮面たちは、奇声を上げて嫉妬を全開。同じく床の上のアクスルも、背中を丸めてブルブルしているが……これはどうやら悔しさに耐えている。
ここだけの話。彼ら《黒女神崇拝会》は、ライバル組織《空色戦女神様を応援する会》に、日々マウントをとられている。
と、悔しがる面々に向かって、アクスルが再び紙を差し出す。
恭しい表情には、大きな決意があった。
『この件は、わたしがしっかり片を付けるとお約束します。噂を流した者には必ず復讐し、結婚の件も、涙をのんで、お断りする所存です! あの方の一生を、わたしの呪いを解くための犠牲になど、絶対にできません!』
その文章を読んで、いくらか正気に戻ったらしい黒仮面は、ひたりとアクスルを見下ろす。
「……十一番よ、お前の気持ちは分かった。しかし、それは絶対に、エルフリーデ様を悲しませることのないようにせねばならぬのだぞ?」
分かっているか? と、厳しく訊ねられたアクスルは、床の上で背筋を伸ばし、強いまなざしでしかと頷いた。
そんな青年が部屋をあとにすると、黙り込んでいた会長に、キンキン声の男が訊ねる。
「……本当に、やつだけに任せて大丈夫でしょうか……エルフリーデ様への思慕が、やつに掟を忘れさせるのでは……?」
その懐疑的な視線には、わずかな嫉妬が覗く。彼の懸念を聞いた会長は問う。
「……例の“候補者”はどうした? もうあの方に接触させたのか?」
「仕込んであります。おそらく今日にも顔を合わせることでしょう」
会員の言葉に、黒仮面は安堵の息。
「あの者も……呪いの件は気の毒だとは思うが……エルフリーデ様に愛のない結婚はさせられん。あの方には、ぜひ幸せになっていただかねば。……うまくいくといいのだが……」
……何やら盛大なるお節介が暗躍しそうな気配である……。




