↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
46/96

14-2


 しばし、しげしげと弟子の顔を見ていたランセルが、ところで、と切り出した。その顔には、何やら小さな呆れが。


「エルフリーデよ……。お前、そろそろ道場に置いたままの荷を持って帰りなさい」

「あ、そうでした……」


 ランセルに、忘れているだろうと言われ。アクスルのことを思い出しニヨニヨしていたエルフリーデが、はたと我に返る。

 師は、渋い顔で腕組みし、ため息。


「お前が来ぬ間に、また《黒女神崇拝会》とかいう者たちから貢物が届いたぞ。道場が狭くなって叶わん。早くなんとかしてくれ」

「おや……また……? 申し訳ありません」


 すぐに運び出します、とエルフリーデは頬を掻く。

 実は、もう何年も前から、彼女には、不思議な後援者たちがいる。

 その人々は、どうやらいろんなところで──武芸の大会や、城下での職務中などに彼女の応援をしてくれているらしい。

 さらには、ときおりこうして道場や、騎士団営に贈り物が届くのだが……エルフリーデは、いまだに、彼、もしくは彼女たちの身元を知らない。

 大会などでは、応援席に同じ顔を見かけることもあり、(彼らか?)と、思ったりもするものの……。

 その人々は、いつも何故か厳重に人相を隠している。

 目深にフードや帽子をかぶり、仮面や口元を布で覆っていたり……。その風体の怪しさが、エルフリーデにちょっと警戒させる要因でもあるのだが……。

 とはいえ、彼女は謎の後援者たちに感謝を伝えたい。なんだかよくわからない支援ではあるが、応援してくれているのは確かなようなのである。

 だが、彼らは、彼女が『もしや……』と近づこうとすると、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまう。もちろんそれが、悪漢などであればエルフリーデは追って行って捕まえることはできるのだが……彼らは犯罪者ではない。取り押さえて尋問するわけにもいかない。いつも、戸惑いつつその後ろ姿を唖然と見送るばかりである。

 おまけに、道場に届く贈り物のほうも、《黒女神崇拝会》とは書いてあるが、いつも無記名。

 それでも、荷物には毎回『お体に気を付けて』とか『ご健勝をお祈りいたします』などといったメッセージが添えてある。

 ゆえに、エルフリーデは、おそらく、彼らはとても恥ずかしがり屋な人々なのだな……と、受け止めることにしている。

 エルフリーデはしみじみ。


「まったく奇特な方々です。わたしのような一介の従騎士に注目してくださるなど……。ところで師匠、黒女神とはいったいなんのことなのでしょうね? 何やらとても物騒な感じがいたしますが、邪教などということではありませんよね?」と、首を傾ける弟子は、どうやらそれが自分のことだとは露ほども思っていないようす。

 なんとなく、そういうことなのだろうな……と察しているランセルではあったが、ひとまずは沈黙。自分がそんな邪教の教祖みたいな扱いで、誰かに崇められているなんてことは少々気味が悪くもあるだろう。

 ちなみにだが、そのちょっと気味の悪い後援会のほかにも、エルフリーデには《空色戦女神様を応援する会》なるものもある。どうやらこちらは彼女の瞳にちなんで会の名がつけられたらしい。

 ただしこちらは、騎士団営の婦人たちによる集まりなので害はない。

 だが、これらの二つの組織は、ときどき張り合ってはたびたび諍いを起こしている。差し入れ合戦もその一つで、これにはランセルが困っている。

 なぜなのか、《黒女神》のほうは、団営ではなく道場に荷物を送ってくる。まあ、それはおそらく、《空色戦女神》のほうが、騎士団の団営を活動拠点にしていること。エルフリーデが、週二で師の面倒を見はじめたゆえの支援なのだろうが。どうにも、量が多い。


「……腐らないうちに持って帰りなさい……」

「ああ……今回は食料なのですか……。分かりました。とにかく今日は早めに仕事を切り上げて道場に参ります」


 本当は、再びアクスルを見舞いに行きたかったが、脚の悪い師匠の家に、それをいつまでも放置できない。


(……アクスル卿のお見舞いは……また明日にするか)


 なんだかとてもがっかりした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。