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「う、嘘だろう……お前……今まで風邪なんか一度もひいたことねぇのに⁉」
彼ら兄妹は非常に丈夫だ。特に、長兄グリゴアと四男のレオン、そしてエルフリーデは、生まれてこのかた鼻水ひとつ垂らしたことがない。……ケンカして、鼻血は何度も出したことがあるが、病の類はとにかく縁がなかった。
そんな自分の頑健さを分かっている娘は、とても不思議そうに首をひねっている。
「お前、こないだ団員が、熱い中の訓練で大勢暑気あたりになったときも平然としていただろう⁉ マイルズたちが腹を下したときもだ!」
「ええ。兄上も」
騎士団をどんなはやり病が襲っても、自分と一緒に平然と過ごしてきたはずの妹の異変は、兄には衝撃。その顔は、まるで頭を鈍器でガツンッと殴られたかのように愕然としている。
「た、大変だ……大変だぞ……天変地異だ……どうすれば……もしかして……ものすごい大病なんじゃねぇのか⁉」
うろたえはじめた長兄グリゴアは、今にも『医者だ!』などと叫んで駆けだして行ってしまいそうだった。体力自慢の長兄が一度パニックになると、それはもう闘牛を止めるがごとし。大変なことになることが分かっているエルフリーデは、赤い顔のまま兄を落ち着かせようと彼の腕をつかむ。
「落ち着け。わたしは平気だ。とにかく静かに。こちらはよそのお邸だぞ」
と、そのときだった。
何かが近づいてくる気配に気がついて、エルフリーデが廊下の先へ視線を送る。
すると、廊下の奥から何やら仰々しい一行が。
使用人が十名程度。女中と、男性使用人もいる。その先頭をのしのしと歩いてくるのは、栗色の髪の婦人。エプロン姿でないことから、一瞬ガヴァネス(女性家庭教師)かと思ったが……。それにしては身なりも華美で、宝飾品を身に着けている。
その婦人らは、彼女と兄のところまでやってくると、まずは二人をジロジロと見る。上から下まで値踏みするような視線には、あまりいい気分はしなかった。
女性は気取った調子で言った。
「困りますわ、バルヒェット家のお二方。いったい誰の許可を得てここにいらっしゃるの?」
「……あなたは?」
エルフリーデが向きなおって問うと、彼女は豊満な胸を張って答える。
「わたくしは、侯爵様にこの邸を任されているカトリーナ。何の御用か知りませんが、この邸を訪問なさるのならば、わたくしを通していただかないと!」
侯爵の愛人カトリーナは、あごをあげて二人を見る。その顔には、明らかなる嘲笑がのぞく。
本日はお休みなので少し多めに更新。
ガサツ長兄とヒロインの真面目でとんちんかんなコンビが結構好きです。
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