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「……どういうことですか……?」
「理由はまだわかりません。ただ、呪いはあなたを恐れているようだ」
そう告げた老爺は食い入るようにエルフリーデを見ている。真面目な表情ではあるが、珍しい事象に出会って興味が尽きぬという目をして、彼女の全身を確かめるように彼女の周りをくるくるとまわる。
これにはさすがのエルフリーデも戸惑った。
彼は呪いをまるで生き物のように言うが、呪いが誰かを恐れるなんて、そんなことがあるのだろうか……?
疑問が湧くが……ただ、エルフリーデは日ごろから、騎士団内でも女のくせに乱暴すぎるとか、怪力過ぎるとかなんとか言って恐れられることが多い。
(そもそも……アクスル卿もわたしを怖がっている……)
もしや、そういった宿主の感情も、呪いに何か影響を与えているのだろうかと、思ったエルフリーデの表情は非常に複雑そう。
(……まあ、それが呪いから彼を守るのならばいいが……それにしても、わたしは……呪いにまで恐れられるのか……)
もしや自分の前世は猛虎とか、魔王とかなのか。
エルフリーデはつい解呪士に問う。
「……その、それはつまり……宿主であるアクスル卿が、わたしを恐れているから……でしょうか……?」
落胆したように訊ねるエルフリーデに、解呪士は首をひねる。
「さぁて……それはわかりませんが。もしかしたら、この呪いの異形は、あなたと何か関係があるのかもしれませんな」
と、その言葉を聞いて兄グリゴアが、眉間に心外そうなシワをよせた。
「あ? なんだ⁉ あんたまさか、この呪いをエルがかけたと疑っているのか⁉」
「兄上……落ち着け。解呪士殿、わたしは誓って呪いには関与していません。お疑いになられるのでしたら、お調べいただいて結構ですよ」
エルフリーデは憤慨する兄をなだめながら、真っすぐに解呪士を見て、後ろ暗いところは何もありませんと断言。
しかし解呪士は首を振る。
「いえ、疑っているのではありません。ただ、あなたが呪いを怯ませたのは事実。それが、あなたが《神託の花嫁》であるからなのか、呪いと関りがあるからなのかは分かりませんが……ともかく、あなたが呪いを抑え込む力をお持ちなのは確かのようだということです」
「え……? あ……」
老爺に指で後ろを示されて。エルフリーデがふりかえると、そこに横たるアクスルのまぶたが薄く割れるところだった。
寝台の上から、琥珀の瞳がぼんやりと彼女を見ていた。エルフリーデは嬉しくなって思わず破顔。
「お目覚めですか? アクスル卿」
枕元に膝をかがめて顔をのぞきこむと、アクスルの目は熱のためか少し潤んでいた。
「お加減はいかがですか……? 何かお持ちしましょうか?」
できるだけ静かに問うと、思いがけないことに、アクスルの手が彼女のほうへ持ち上がった。エルフリーデは少し戸惑ったけれど、なんとなく、求められたような……呼ばれたような気がしてその手を取った。
すると彼の顔がほんのすこし和らいだ。上気した顔が、ホッと安らいだ表情をのぞかせて、その顔が……とても可愛らしくて。エルフリーデはふいに心臓がドキリと跳ねる。
けれども、やはり彼はまだまだ夢と現の境。
布団の中から彼女をぼんやりと見つめている顔には、先日のような怯えや、彼女に対する恐怖も嫌悪もなく、ただひたすらにおだやかだった。
エルフリーデは、アクスルに、こんなに柔らかい視線を向けられたのは初めてのこと。こんな時に不適切だと感じつつも、やはり少し嬉しかった。
アクスルはぼんやりしながらも、一心に彼女の手を握っている。病のためだろう。やや握力の落ちているらしい手で、一生懸命に腕を伸ばす姿が……なんともいじらしく。思わずエルフリーデは目じりを下げて、その手を両手で包み込んだ。
(……なんだろう……)
彼女は少々呆然とする。
(なんだか……ものすごく……愛しい、のだが……)




