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8-1 第四騎士団のエルフリーデ




 第四騎士団の団舎に、「えー⁉」と、絶叫のような声が響き渡った。

 そこには信じられないと不満に思う気持ちが大いに込められていた。


「エル様、あんなに素敵だったのに⁉ その男、本当に大丈夫なんですかぁ⁉ 絶対目がおかしいわ!」

「いや……面目ない」


 ここは団舎の調理場。エルフリーデは他の職員らにまざって、団員たちのつかった食器類を洗っている。

 彼女はこの第四騎士団の団舎に世話にはなっているが、騎士ではない。

 彼女がここで寝起きするようになったのは、その昔、妻を亡くした父マリウスが、息子たちと共に彼女を団舎に連れてくるようになったのがきっかけである。

 そうしてここで手伝いなどをしながら世話になるうちに、彼女もいつの間にか兄たちと共に訓練に加わるようになった。

 持ち前の不屈さもあって、彼女はめきめきと才能を開花させ、武術に熱中し、上にもその強さを認められるようにはなったのだが……。

 しかし現在までに、この国には女性騎士が誕生していない。

 これまでは彼女ほど傑出した女性がおらず、どうやら上も彼女の扱いを協議中のようだ。

 ゆえに、もしその道が開かれるのなら、エルフリーデも父たちと同じように騎士になりたいと思ってきた。……だが、現状では彼女の扱いは従騎士。

 ゆえに彼女は団長の娘、子爵家の娘ではあるものの、こうやって日々調理や洗濯、掃除などの仕事も担う。

 父が子爵に叙されたのは、彼女が騎士団に来たあとのこと。

 そのころには、彼女にとって、騎士団はもはや家のようなものとなっていて、その運営維持のための仕事は、当たり前に手伝うべきことだった。

 今夜も慣れた手つきで食器類を洗うエルフリーデの周りには、同じく忙しそうに片付けや、明日の食事の仕込みに勤しむ人々が。

 声を上げたのはアンナという中年女性で、ベテラン職員の一人だった。

 今回、エルフリーデが外出着を選んでもらった一人でもある。

 アンナは不満そうに食器を磨いている。


「エル様のスカート姿なんて、子供の時以来だったのに! なんて物の価値の分からない男かしら!」

「いや……」


 それは、アクスル卿には分かりようもないのでは? と、エルフリーデは思ったが。もちろんその男が、そのレア度を重々承知したうえで……ということは、この場にいた誰にもわかりようがない。


「いったいどこがお気に召さなかったんだろうねぇ? 派手過ぎなくて、上品で。エル嬢ちゃんによく似合っていたと思うけどねぇ」


 アンナの隣で野菜を切っていた婦人も不思議そうに首を傾けている。団職員のベテラン勢にとっては、幼い頃からここで育ってきたエルフリーデは、我が子も同然。自然、彼女の嫁ぎ先のことは彼女たちも気にしている。


「王太子殿下の補佐官で、すごく真面目で厳しい人だときいたから、品がいいほうがいいと思ったのに……え? もっと色気があったほうがよかった?」

「色気、ですか……不得意分野です」


 きっぱりと言うエルフリーデに、婦人たちは(エルフリーデらしいな)と、苦笑。

 そんな彼女たちに、エルフリーデは困ったようすで打ち明ける。


「それで、また相談にのってほしいのですが……どうしたら、アクスル卿に好かれることができますか?」

「……」

「……うーん」


 率直に訊ねてくる顔には、切実さがにじみでていた。婦人たちは面白いやら可愛いやらで。ついむずがゆそうな顔を見合わせる。


「わたしなら、その顔で好きと言われたら二つ返事だけどねぇ」

「そうよねぇ……ほんと、いったい何が気に入らないっていうのよ!」


 と、彼女らの後ろでかまどの掃除をしていた若い男性料理人が言う。


「もしかしたら、強い女が好きじゃない、とかじゃないっすか? エル様は、戦ってるときは鬼気迫る顔ですげー怖いっす」

「む」※エルフリーデ


 これも親しいがゆえだが、平然と言った若者に、アンナたちが慌てる。


「ちょっ……! あんたねぇ! なんてこと言うの! あれは“凛々しい”よ!」

「そんなこと言ったらエル嬢ちゃんにはどうしようもないじゃないか……」

「あ、すんません」


 婦人たちにたしなめられた若者はひょいっと頭を下げて、さっさとどこかへ行ってしまった。


「ご、ごめんねエル様! あいつったら……!」


 アンナは、食器を洗う手を止めて沈黙しているエルフリーデに、とても申し訳なさそうな顔。

 しかし、彼女の受け止めはゆるやかであった。


「いえ大丈夫です。彼の言う通りかもしれません。確かに、わたしが暴力的にうつった可能性はあります」


 先日の顔合わせの時、逃げようとした彼を強引に引き留めたことは記憶に新しい。おまけに恰好は血塗れ。


(……やはり、怖がられているのか……)


 そう確信したエルフリーデは、しかし落ち込まなかった。己の改善点を見つけたような気がして、逆に希望がわいた。

 エルフリーデは、そばで心配そうにしている女性陣に、にっこりと微笑む。


「皆さんありがとう。なんだか少しやるべきことが見えた気がいたします」




お読みいただきありがとうございます。

明日から毎日三回更新を、昼と夜の二回更新にいたします。

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