7-4
彼女のある言葉が聞き捨てならなかった。
(彼女は今……わたしが彼女を嫌っていると……そう言ったのか⁉)
呆然とそれを聞いていたアクスルの顔に、驚愕が広がった。
本当に今更なことに。
アクスルは、エルフリーデがそんな勘違いをしていることに、今やっと気がついた。
そしてハッとする。自分の行動が、確かに彼女にそう思わせてもしかたのないものだったと。
(し……しま──……っ⁉)
アクスルの顔面からはさらに血の気が失われ、もはや青白いほど。
敬愛してやまない彼女を、自分の呪いを解くなどという手前勝手な都合で、道具のように扱い、結婚させるなどもってのほか。
人生において大切な選択となる婚姻を、そんなことで強要させるなど、絶対に許せない……! ……と、彼は頑なに考えていたのだが……。
まさかその拒絶が、彼女にそんなふうに受け取られているなどまったく考え及んでいなかった。
つまり自分は『呪死するより、彼女を娶るほうがはるかに嫌だ』と、主張していると、彼女に受け取られているのである。
これには──アクスルは戦慄。
いや、これがもし、彼がいつも通りに冷静であったなら、普通に分かったはずのこと。
けれども彼は、つまりそんなことすら分からぬほどに、冷静ではなかったのである。
アクスルは、今にもエルフリーデにすがりつきたい心持ち。
(っち、違います! 違うんですエルフリーデ様!)
しかし、訴えたい言葉は喉から出ていかない。
アクスルは、苦痛に顔を歪め、飛びつくように再びペンと紙を手にした。
──が。
(⁉ な、なんと書けば……いいんだ⁉)
情けないことに、頭が真っ白だった。
まさかここで、『あなたはわたしの推しです! 何よりも、誰よりも愛しております! 忠誠は王太子に誓っていますが、愛はすべてあなたのものです!』……なぁんて重すぎる気持ちを、素直に書くわけにもいかなかった。
それは、自分の彼女への偏愛を、彼女自身に告白する行為である。
恥ずかしすぎて──できなかった。
そんな大胆な告白をとっさに軽々できるほど、彼は素直ではなかったし、そうするには、彼はあまりにも、偏屈で、プライドが高かった……。
『ぐ……』
結果、残念男子アクスルが紙に書けたのは、その苦悶の音だけ。その若干しわになってしまった紙に書かれた歪んだ文字に、エルフリーデは、いったい何事かと瞬いている。
「“ぐ”? アクスル卿? どうなさったのですか? “ぐ”とは?」
ペンを折れそうなほどの力で握りしめ、ブルブルしながら青い顔をしている男に問うが、苦しげに噛み締められた口からは、一向に答えは返ってこなかった。




