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昨日のようすからいって、彼女がこの婚姻に前向き……というか、臣下家の娘として、王太子の命には従いましょうというスタンスであるのは明らかで。それも彼女らしいとは思うのだが……なぜですか⁉ と、アクスルは絶望に打ち震える。
(っエルフリーデ様! 忠義で潔いところも素敵ですが……もっとご自分の幸せについて真剣に考えてください! あなたは心から愛し合った男と結婚するべきでしょう⁉)
アクスルは苦悩のあまり顔を歪めてうなだれた。
(彼女に、呪われた男(※自分)との政略結婚など……させるわけにはいかない!)
そう決意する顔は、まるで親の敵に復讐でも誓うかのよう。
……そんな彼のまわりでは。
幾人かの補佐官たちが、恐々として彼を見ないふりで仕事中。
この男は偏愛のあまりすっかり忘れているが……ここは、王城の補佐官室。本日は平日。広い室内には、彼のほかにも大勢の人間がいるのである。
……と、そのとき。
そんな人目をはばからず大げさに苦悩中の男に、平然と近よっていく猛者がいた。
その者は、アクスルの机から真正面にある受付できちんと手続きをすませていたが、いつもなら必ず入室者を厳しいまなざしでチェックする男は、本日はその接近にすら気がつかなかった。
アクスルは執務机の上で、この危機(婚姻)をどう回避するかに思考を巡らせ忙しい。
(……とはいえあの方の名誉を傷つけてはならない。エルフリーデ様側から縁談を断っていただくべく、わたしはろくでもない男だという噂を流し……いや、しかし王太子殿下の名声も傷つけるようなことになってはいけないか……。できればバルヒェット家と殿下の間にも溝ができない穏便なかたちで……そのためには……、……、……)
ああして、こうしてと……黙々と思考に沈んだ男は。呪いを受けて口がきけなくなって以降、すっかり頼り切りの筆談用のメモ帳に、縁談回避策をつらつらと書き連ねていく。……と……。
それからいくらか時が経ったころのことだった。
いくつかの戦略を詳細に書き終え、よしこれならばと彼が顔を上げたとき。ふいに、静かな声がかけられる。
「……アクスル卿、もしやこれは、わたしに向けた画策ですか?」
(……ん?)
計画書を熱心に読み返していたアクスルは、その声を耳にして目を点にする。
訊ねてくる声はとても落ち着いてはいたが、小さな驚きがこめられていた。
聞き覚えのある声に驚いて頭を上げると、そこには実に興味深そうに、彼と、彼が書き連ねた紙片の山を眺めている人物が。
その人は、ポカンとしている彼を見て瞳を爽やかにやわらげた。
「おや、やっと気がついてくださった。ごきげんよう、アクスル卿。以降お加減はいかがですか?」
(っ⁉ ⁉)
凛々しい顔で微笑まれて、アクスル・クヴァントは、再びその場で声なき絶叫を上げた。




