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5-4

 

 そ、そうか……と。エルフリーデよりは、その御仁の冷徹な人となりを知る父は一層つらそうな表情。その顔を見て、エルフリーデは申し訳ない。


「それで父上、王太子殿下はなんと……? 侯爵家は断ってきましたか」


 心配そうなエルフリーデに、父は難しい顔で首を振る。


「いや……」


 娘の話を聞くと、そうなってもおかしくはないと思うのだが……。


「王太子殿下は、頼むから縁談を受けてほしいとおっしゃっていた。おそらく、それだけアクスル卿の呪いは深刻なのだろう。侯爵家のほうは……まあ、殿下の意向に沿うつもりのようだな……」

「……そうですか……」


 父の言葉を聞いたエルフリーデはわずかに目を細める。

 父の歯切れの悪さから察するに、どうやら侯爵家のほう……というか、アクスル・クヴァントは、この婚姻に、まだ納得していないのではないかと感じた。


(……相当な剣幕でいらしたからな……)


 昼間のことを思い出したエルフリーデは、少し肩を落とす。

 彼にはよほど嫌われてしまったらしいが、王太子も侯爵家も縁談をなかったことにするつもりがないのならば、きっとこの婚姻は成る。

 しかし、当のアクスル・クヴァントがあんなに嫌がっているのに、無理にそれを成立させてもいいのだろうか。

 もとより上に従うつもりでいた彼女には、断るつもりはないのだが……。もし、彼のことを考えるのなら、自分も断ってやったほうがいいのかもしれない。


(しかし……それでは彼の呪いはどうなる……?)


 王太子が、自分のような、結婚に向かぬ女に助けを求めるくらいである。彼らはとても困っているはずだ。

 昼間、自分に必死の顔で頼み込んできた王太子の顔を思い出すと、やはり臣下家の者としては、ここで断ってしまうのは心苦しい。


(これは困った……)


 エルフリーデはため息。まさに、あちらを立てればこちらが立たずというやつである。

 いっそのこと、アクスル・クヴァントに、これは政略結婚なのだから、呪いが解けるまでだけ我慢してくださいと言いに行くべきか。

 そのあと離縁をしたいのならば、応じましょうと言うべきか? しかし、王太子からたまわった婚姻はそう簡単に解消できるのだろうか? 家族に迷惑がかかるということはないのだろうか……などと考えていると。エルフリーデは非常にモヤモヤしてしまった。そしてふと思う。


(……これはもういっそ、わたしがアクスル卿に好かれる努力をしたほうが早いのでは……?)


 エルフリーデは、元来率直な性格である。

 いつまでも悩んでいるのは性に合わず、なんでもすっきり真正直に行きたい。

 と、難しい顔をして考え込む娘に、マリウスが問う。


「エルフリーデ。殿下や侯爵家はさておきだ。それよりも、お前の気持ちはどうなんだ?」


 不意に問われ、エルフリーデはキョトンとする。


「わたし、ですか?」

「ああ。お前はこの縁談を、国と家族のためならと、アクスル卿の顔すら知らぬまま承諾した。しかし、今日、お前はお相手を見たはずだ。実際にお会いしてどう思った? 気持ちに変化は?」


 その問いには、父の娘に対する心配な気持ちがにじみ出ていた。

 父からすると、どうにもエルフリーデは聞き分けがよすぎる。

 現在バルヒェット家では、女主人を欠いていることもあって、娘の細やかなところまでを案じてやれる者がいない。

 彼もできればそばにいていろいろとやってやりたいが、騎士団の職務も忙しく、あまりかまってやれない。

 おまけに忙しいのは娘自身も、他の息子たちも同様。皆、自分の人生に忙しい時期で、一家は、家族団らんの時間ですらそうそう取れないのが現状であった。

 ましてやバルヒェット家は男ばかりの家族。

 自分たちのガサツな育て方のせいで、めっぽう強く、豪快な性格となった彼女が、こたびのことで傷ついてやしないかと、父はとても不安だった。

 そんな父の気持ちを、エルフリーデもひしひしと感じた。


(……いかん。父上がとても心配しておいでだ……)


 慌てたエルフリーデは、その焦りはおくびも顔に出さず。父にゆったりと微笑。


「父上、どうかご安心を。この件はアクスル卿ともよく話し合ってみようと思います。あちらもお命の危険があるのに、この事態はいささか変です。何か誤解があったのやも。自分で解決いたしますから、父上は心配なさらないでください」

「しかし……」

「これしきのこと、己で解決できます」

「そ、そうか?」

「はい。おまかせを」


 エルフリーデは、まだ心配そうな父にしっかりと請け負う。

 自分の失敗で、忙しい父を煩わせたくはない。


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