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この騒ぎのあと。誰かが上に報告したのだろう。エルフリーデは父の執務室に呼び出された。
父に事情を説明すると、固い顔をした父マリウスは、「令嬢のことはさておき、」と、娘の顔を渋い顔で見た。
「……つまりお前は……殿下が授けてくださった縁談の席に、団服(※血塗れ)でいったのか……」
「はい」
「……そして、具合が悪くなった侯爵のご嫡男を抱え上げた……」
「アクスル卿が苦しんでおいででしたので、はやく医官に診せたほうがよいかと」
「………………」
娘から昨日の話を聞いた父は、重苦しい顔で数秒沈黙。そしてため息を吐き、すまないと口にする。
「わたしがついていってやれなかったせいだな……殿下のお申し出があまりに急で、任務を外れられず、悪いことをした……」
「……すみません」
父があまりにも、自分を憐れむような目で言うもので。さすがのエルフリーデも、どうやらこれは自分がかなりのやらかしをしたらしいと察した。
ちなみに父は、昨日は団営を不在にしていた。
王太子から縁談の話が舞い込むのとほぼ同時に、国王の依頼で任務に出ることになり、帰着したのは昨晩遅く。
縁談の話は、アクスル・クヴァントの命にかかわりがあると言われ、父は『娘が承知するなら』とそれを受けた。
しかし、彼には他に団営を離れなければならない任務があったため、娘宛に手紙を書き、それを王太子らが任務地にいたエルフリーデに届けるという形で縁談は運んだ。
いろいろと性急すぎて、父も目が行き届かなかったのである。
「やはりディレクが言うように、ドレスがよかったのですか」
「いや……まあ……そうだな……せめて外出着はなかったか? 年明けに兄から贈られたものがあっただろう?」
あれはどうした? と、言われると、エルフリーデは、はて? という顔で記憶を探っている。
「ああ……そういえばございましたね。部屋に飾ってありましたが、急ぎでしたし、すっかり忘れておりました」
「…………」
言って彼女は、気まずそうに頬を掻いている。
どうやらエルフリーデの頭の中には、はなからそれを着るという考えがなかったらしい。父はため息。
だが、まあそれはもういいと彼は首を振る。おそらく、今回の問題はそこではない。
彼の娘はとてもいい娘だが、世間的に見れば女性らしくはない。他の令嬢たちが花嫁修業としてたしなむようなことはほとんどやらず、男ばかりの家族の中で、末の娘というよりは、末弟のようにして育ってきた。
父から見れば、彼女はなんでも進んで働こうとするけなげな娘だが、同世代の令嬢たちの中にまじってしまえば、その性質は、奥ゆかしくなく、わきまえを知らぬとそしられる。
(……侯爵家の嫡男を、抱き上げたか……)
目の前で病人が出て、ほうっておくような娘ではない。きっと進んでやったのだろう。それは人としては褒められるべきことだが……しかし、そこは縁談の席。
楚々として可憐な令嬢たちがよしとされる昨今で、その娘の豪快さは相手の目にどう受け止められたかと考えると……父は頭が痛い。
自慢の娘がひとからあれこれ言われるのは、やはり親としてはつらかった。
(……やはりどこか良家にでも預けて令嬢らしく育てるべきだったか……?)
そんな苦悩する父の顔を見て、普段はあまり表情を変えることのないエルフリーデが珍しく気落ちした目で彼を見る。
「不甲斐ない娘で申し訳ありません。縁談というものが未知すぎて、勝手がまったくわかりませんでした。少しでもお役に立とうと動いたつもりでしたが……やはりお姫様抱っこはありませんでしたか……」
「……、……、アクスル・クヴァント卿を……お姫様抱っこ……してしまったか……」




