5-2
あんたじゃないのよ! と、高らかな宣言されたエルフリーデは、パチパチと瞳を瞬かせた。
これはいささか意外な展開。……が。
その瞬間、周りにいた騎士団の男たちの間に、ん? という不可解そうな空気が流れた。
しかし、胸を張ってエルフリーデを睨むことに一生懸命な令嬢は、気がついていない。
「わたしはね! アクスル様の従妹よ! あの方のことならなんでも知っているの。わたし以外にあの方の妻が務まるわけないわ!」
「はあ、さようですか……」
エルフリーデは、令嬢の剣幕には驚いたが、さりとて彼女の言う通りにするつもりもなくて。ただ冷静に返す。
「そうですねぇ、そのような苦情は、王太子殿下にお願いできますか? お決めになるのは殿下です」
と、令嬢は彼女の冷静な顔を憎々しげに見る。
「あんたが辞退すればいいだけよ。なんでわたしが」
フンッと鼻を鳴らす令嬢は、ようするに、王太子には物申すことができないらしい。……というか、その王太子を守るアクスルが怖いのかもしれない。そんなことを考えていると、その間に令嬢はつらつらと語りはじめる。
「わたしはね、アクスル様とはとても仲がいいの。だって幼い頃から交流がある高貴な娘はわたしだけなんだもの。あの方の妻はわたししかいないわ。《神託の花嫁》の条件だって、まさにわたしのことじゃない!」
「……あのー……ちょっといいっすか?」と、ここで三兄マイルズ。
急な横やりに、令嬢は不快そうな顔だが、マイルズは構わず指摘。
「俺の目には、お嬢さんの目は青色に見えるんですけど?」
多分、三兄も、妹をけなされて気分が悪かったのだろう。しらっとした顔で言うと、周囲からも、そうだよなぁという同調の空気が流れてくる。
マイルズが言う通り、そこでエルフリーデに向かってふんぞり返っている娘の瞳は、冴え冴えと青かった。美しい色だが……空色と言うには、いささか濃い。
と、指摘された令嬢の顔がカッと赤くなる。
「違うわよ! あんた目がおかしいんじゃないの⁉ これはどう見たって空色よ!」
令嬢が言い張ると、皆の目がエルフリーデのほうへ。どうやら、皆、彼女の瞳の色と見比べているらしい。
そのなんとも言えない視線の集中を、エルフリーデは(やめなさい)と、うっとうしそうに手で追い払いながら視線で叱る。
彼女に言わせれば、こんなところで『濃い』『濃くない』『青い』『青くない』を議論してもなんの意味もない。令嬢に恥をかかせてしまうばかりである。
エルフリーデはリシェルに向きなおると、丁寧に目礼。
「お嬢様の気持ちは承知しました。しかし、この件に関しましては、わたくしめには決定権がございません。やはり、父君にでもお頼みになって、王太子殿下に直接お申入れになるべきかと存じます」
そう淡々と進言すると、令嬢は忌々しそうに彼女を睨み上げる。
「そう……引き下がる気はないということね……」
「……いえ、そうではなく……」
「今に見てなさい! わたしのほうがアクスル様にふさわしいと思い知らせてやるから!」
令嬢はそう言い残し、鼻息荒く去って行った。エルフリーデは、眉尻を下げて困惑をのぞかせる。
「あ……行ってしまわれた……わたしの説明がまずかったのか……? 別に引き下がらないとかそういうつもりではなかったのだが……」
正直なところ、エルフリーデは同世代の女性の生態がよくわらかない。
粗野な男たちとばかり接する生活が長く、そちらの知識はからきしないもので。もしや彼女に、何か気に障る言い方をしてしまっただろうかと気に病んだ。
と、隣にいたマイルズが、いやいやと手を振る。
「あれはないだろ……。なんなんだあの女、ちょっと高慢すぎやしねぇか? ……お前、なんか大変なことに巻き込まれたなぁ……令嬢って、みんなあんななのか? 意味わかんなくて魔物より怖ぇ……」
「……やめなさい」
エルフリーデは、なんだかとても頭が痛くなってきた。




