3-4
しかし兄たちは、まるで飼い猫を無理やり愛でているようなようすで、彼女の髪をかきまぜ続ける。
これはいつものことなのだが。いつものことだからこそ、エルフリーデは憮然。
可愛がってくれている(?)のは有難いが、いつまでも子供のように扱われるのは些かうっとうしい。
兄たちも、からかい半分、可愛がり半分で、あえてやっているのだろうから、ある意味、ディルクなどよりもよほど面倒である。
エルフリーデは眉間にしわをよせて、真面目に考えてしまう。
「……果たしてこれは、愛情なのか? 髪が乱れて迷惑極まりないのだが」
「そう言うなって。で? 何やってんだお前、この犬は?」
兄たちは、もうエルフリーデをなでることに飽きたのか。今度は彼女が抱いている子犬を見ていた。
こげ茶の身体に、頭にだけ黒ぶち模様がある子犬は、黒いキラキラした瞳で兄たちを見ている。しっぽはめいっぱい振られていた。
「ああ……。魔物の討伐に行ったとき村の子供から託された。村で飼っていたら、この子が殺されてしまうと」
「はあ?」
妹の不穏な言葉に、兄たちは眉間に怪訝なしわ。
彼女は本日の顔合わせの直前まで、王都近郊のある村で魔物の討伐に駆り出されていた。
その村は、ここひと月ほど魔物の被害に悩まされていた。
村を襲った魔物たちは、実体のない怨霊のような姿で、多くが農民である村人たちではとても手に負えず、騎士団に討伐の依頼が来たというわけである。
エルフリーデは、静かなまなざしで事情を説明する。
「その少女は……森でこの野犬の仔が一匹でいるのを見つけて、親に内緒で可愛がっていたんだな。しかし、村では魔物の被害が出た。討伐は終えたが、村人たちは魔物と野犬を同一視し、憎んでいる」
魔物の多くは獣の姿をしていた。おそらく野犬の姿がそれを連想させて厭われたのだろう。親に森に捨ててこいと言われた少女は、とてもそれができず、村を救ったエルフリーデたちに助けを求めたのである。
「今回討伐した魔物たちは、皆姿が定まらない幽鬼のようなものが多くそれらは実態がなかった。村人たちにも野犬とは別物だと話をしたが……納得はしてもらえなかったんだ」
この世界には、さまざまな異形が存在するが、それらの多くは魔界から湧いて出たと言われている。
人々は、その異形を総称して《魔物》と呼び、強く恐れている。
沈んだ口調の説明に、兄たちもため息。
「なるほどなぁ……」
少女にはかわいそうだが、魔物の被害で村には怪我人も多く出た。村人たちが怖がる気持ちも分からないでもない。
「それで……父上から許可は得たのか?」
「父上は任務中でまだご帰宅ではない。代わりに副団長に許可を取った。きちんと世話ができるならと」
エルフリーデが答えると、動物好きのマイルズがニカッと八重歯を見せて笑う。
「しょうがねぇなぁ! じゃ、俺たちで面倒見てやるか!」
「む」
三兄は嬉しそうに子犬をエルフリーデから取り上げた。子犬は新しい遊び相手の出現に大歓喜。幼い身体をプルプルさせてマイルズの顔をなめている。
「あははは! かわいいなこいつ、名前は?」
「……少女はまだつけていなかったそうだ、が……おい、わたしが託されたんだぞ……」
返せ……と。子犬を取り上げられたエルフリーデは不満そうだ、が、マイルズはケロリとして渡さない。
「だってお前、もうすぐ嫁ぐんだろ?」
「ぅ……、……、……そうだった」
「ほぉらみろ! だったら俺の子になったほうがいいよなー♡ えーっとじゃあ名前は……頭の上が黒いから、シュバルツでいいかな♡ シュバルツたん♡ じゃあまずは一緒にお風呂にはいろう!」
「…………や、やっぱり返せ……わたしが……わたしがきちんと面倒を見ると副団長と約束したんだ……」
名前もわたしがつけるんだぞ! と。一応主張してみたが。
結局子犬はシュバルツと呼ばれるようになってしまった……。
こういったとき、大人数の家では末っ子の立場は弱い。特にバルヒェット家は、末のエルフリーデを女扱いしていないからよけいであった。




