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Echo 28 『 孤独の旅 』

サントラ イメージソングはこちらからどうぞ

https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356


対応番号 : 48 / 49






「それじゃあ、彩八(あや)は浮かばれないわね」




 鼓膜(こまく)を震わせる、(りん)とした冷たい声が後方から響く。


「『エターナル ヘル』!!!」


 耳の奥がキィンと不快(ふかい)に鳴り響くような、強力な波導がK1452から発せられる。その苛烈(かれつ)な精神侵食に耐え切れなくなったかのように、俺たちを(しば)っていた触手が、次々と(はじ)けるように飛び引いていく。


「『エターナル ヘヴン』!!」


 間髪(かんぱつ)入れず(つむ)がれた彼女の詠唱(えいしょう)と共に、全身の血管に一気に熱い血が(めぐ)るような温かい感覚が走り、(うば)われていた力の分だけ、みるみるうちに身体に(みなぎ)ってくる。俺は激しく()き込みながら、すかさず後ろを振り返った。あの悪魔のようなマスクを(かぶ)り、ひんやりとした外骨格の硬質な金属で全身を包んだ章乃(あやの)が、泰然(たいぜん)とそこに立っていた。


「き、貴様…裏切ったなッッッッ…!!?」

 K1452はカッと見開いて彼女を凝視(ぎょうし)し、その(ひとみ)のレンズに憎悪の血を走らせた。


「妹の最期のビデオメッセージを受け取ったの」

 彼女は動じることなく、カツン、カツンと(かわ)いた音を床に鳴らして歩みを進め、俺の肩にずっしりとした金属の硬い手を置いた。


「かつての主人であるこの人に就くことにしたの」

 その重みが、これ以上ない信頼として伝わってくる。


 K1452は怒りに狂い、(あご)のパーツを(ゆが)ませながら、金属音をガリガリと摩擦(まさつ)させて全身を震わせていた。

「血迷ったか……一人増えようが同じことだッッッッッ!!!」


 K1452の禍々(まがまが)しい翼がワナワナと震えだし、周囲の空気がパチパチと紫電(しでん)(はじ)かせ、強烈(きょうれつ)電撃(でんげき)の嵐が吹き荒れ始める。



「それじゃあ、共闘しましょうか」

「あぁ助かる」



 肌を刺すような逆風の中、俺たちは一瞬だけ視線を交わした。章乃(あやの)の言葉を合図に、一同はK1452の殲滅(せんめつ)作戦を開始した。






「今度こそ、仕留める!!」

 弥来(みく)は手のひらの汗を剣の柄で(ぬぐ)い、覚悟を決めて光の剣を上に(かか)げる。ジリジリと金属の摩擦(まさつ)で火花の散る嫌な臭いと、金切り声のような音が空間を満たし、弥来(みく)を狙って無数の触手が(するど)く突き出される。


「させるかぁ!!」

 侑里(ゆうり)がずっしりとした(やり)の重みを感じながら、電光(でんこう)石火(せっか)の踏み込みでその触手を一網打尽(いちもうだじん)に引き裂いた。(やり)は空を切って正確に彼女の手元へクルクルと戻る。


「『アブソリュート(Absolute) ゼロ(Zero)』!!!」

 引き(しぼ)られた章乃(あやの)詠唱(えいしょう)と共に、絶対零度の冷気が爆発した。K1452の足元を瞬時に(こお)り付かせ、圧倒的な機動力が目に見えて(にぶ)っていく。


「グガガガガガガガガガガガ!!!!小癪(こしゃく)なぁっアッ!!!?」

 その一瞬の(すき)、俺は乱れる呼吸を速やかに整え、渾身(こんしん)の詠唱を放つ。


「『カオス(Chaos) インバーテッド(Inverted)』!!!」

 奴の機械駆動の制御が完全に崩壊し、内部から爆発的な激しい振動が床を通じてこちらにまで伝わってくる。


「今のうちだっ!!」

「分かってるよっ!!!」

 乃豊(のとよ)が流れるように続いて詠唱(えいしょう)すると、弥来(みく)(かか)げる光の剣が一気に数倍へと膨張(ぼうちょう)し、顔の皮膚が焦げるほどの圧倒的な熱量を放ち始めた。


「グギャギシィギリシィビギャデュラララララララララララ!!!!!」

 追い詰められた怪物は、歯軋(はぎし)りするような不快な金属音を立て、狂ったようにその翼から無数の鋭利(えいり)鉄羽(てつは)を嵐の(ごと)く射出された。全方位への死の雨が(おそ)い掛かってくる。


「『ダブルインパクト』!!!」

 だが、章乃(あやの)が放った凄絶(せいぜつ)な衝撃波が、大気をビリビリと震わせて鉄羽(てつは)を迎え撃つ。(せま)(やいば)は空間でピたりと静止し、次の瞬間、ガラガラと(かわ)いた音を立てて地面に崩れ落ちた。


 完全に無防備となった敵の眼前、侑里(ゆうり)が美しい軌跡(きせき)で六芒星を(そら)(えが)き、全身全霊の力を込めてその槍を投げ放った。


「『ゲイ(Gáe) ボルグ(Bolg)』!!!!!!」


 (あか)い閃光となった槍は、肉と装甲を(すさ)まじい勢いで(えぐ)(にぶ)い音を立て、K1452の胸中央にある(かく)を見事に穿(うが)ち抜いた。装甲が(はじ)け飛び、脈打つ心臓部が完全に()き出しになる。


「今よっ!!」

 侑里(ゆうり)が喉を引き()くような、懸命(けんめい)の掛け声を響かせる。




「『エクス、カリバァアアーーーーーーーーーーーーーーー』!!!!!!!」




 弥来(みく)が叫び、光の剣を一閃(いっせん)。視界のすべてを真っ白に染め上げる巨大な光の柱が一点に集中し、荒れ狂う熱波と共に、K1452の怪物を完全に飲み込み、消滅させていった。

「アァ"…!!! ァァア"ア"ア"ア"!!ア"ア"ア""ア"ア"!!!ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!」






 断末魔(だんまつま)が空間に反響し、やがて光の収束とともに、跡形(あとかた)もなくK1452が消え去った。激しい耳鳴りの向こうから、奇跡(きせき)のような沈黙が世界を包む。




「か、勝ったぞ……やったぞ!!!」

 一瞬遅れて、せきを切ったような大歓声(だいかんせい)が起きる。弥来(みく)は汗と涙で濡れた身体のまま乃豊(のとよ)に強く抱きつき、侑里(ゆうり)は張り詰めていた緊張の糸が切れたように、(ひざ)の力が抜けてその場にへたり込んだ。


「よくやりましたね」

 カツン、と足音を響かせ、章乃(あやの)が俺の前に歩み寄ってきた。そして、ゴツゴツとした金属の外骨格に包まれた(こぶし)を、そっと突き出してくる。俺もまた、残った力を振り(しぼ)って自分の(こぶし)をぶつけ、硬く確かな衝撃を()わし合わせた。


「あんたのおかげだ。助かったよ」


 乱れた息のまま()げると、章乃(あやの)はいやいやと小さく首を振った。

「私だけじゃあ、立ち向かえなかったよ。無謀(むぼう)だったかもしれないけれど、立ち向かったあなたたちがいたおかげ」

 マスクの奥にある章乃(あやの)の瞳と、俺の瞳。互いの目の中に残る熱い戦いの光を見つめ合い、俺たちはかつての、そしてこれからの確かな(きずな)を確かめ合うように、深く微笑(ほほえ)んだ。









ドゥゥウウウウウウウィィィイイン!!!!

ドゥゥウウウウウウウィィィイイン!!!!


 耳つんざくアラーム音が鼓膜(こまく)(はげ)しく突き刺してきた。

「乗員はただちに避難してください。繰り返します。乗員はただちに避難してください。繰り返します……」


 侑里(ゆうり)はハッとした顔で、床を強く()って(あわ)てて俺のところに走ってきた。

「急いで!!上部の衛星区が分離されようとしている!!」


「早く急行しよう!!」

 俺たちは侑里(ゆうり)の先導で、立ち入り禁止区を飛び越え、奥の通路の先にある扉をこじ開けた。




 上を見上げると、既に分離されてしまった先端部が、真空の虚空(こくう)へ向かって静かに月へ進んでいた。


「間に合わなかったのか……」

「いや、まだ手はある」

 章乃(あやの)(そば)にあった、冷たい光沢を放つポッドを指さす。


「これ脱出用じゃないの!?」

 侑里(ゆうり)(あせ)りで上気した声を投げかけるが、章乃(あやの)は素早く作業に入った。


「少し調整すれば、十分あれに届くはずだ」

 章乃(あやの)は、火花を散らす導線を(はじ)きながら手際(てぎわ)よく配線を調整する。


「でもこれって、一人用よ!!」

 侑里(ゆうり)の心配そうな声を聞いたが、俺の心は始めから決まっていた。


「俺が行く」

「無茶よ!!あんた一人でどうにかなると思ってんの!?」

 侑里(ゆうり)は俺の胸ぐらをつかむように声を(あら)げるが、俺の心臓は静かに脈打っていた。


「大丈夫、みんなのおかげでここまで来れたんだ。あとは俺に任せておけ」



 自分の頭の中でも、かなり無茶だとは分かっていた。

 それでも、やらなくちゃいけない時がある。



「俺以外は、みんな家族の元に戻ってくれ」


「妹が、あんたのことが好きだって……ちゃんと伝えてって言われたから」

 弥来(みく)嗚咽(おえつ)しながら、ボタボタと涙を床にこぼす。


「心配すんなよ。元通りに戻したら、きっとまた会えるさ」

「ほんと?」

「あぁ、きっとそうさ」


 喉の奥が苦くなるような気休めの言葉だってのは分かってて、胸が痛む。でも、今の俺にはこの言葉しか、みんなに(のこ)せなかった。



「準備は出来たわよ、いい?」



 (せま)いポッドに(すべ)り込むと、俺はガラス越しにみんなの不安そうな顔を見た。


「あんたが死んだら、容赦(ようしゃ)しないんだからね!!」

 侑里(ゆうり)は爪が食い込むほど(こぶし)を握り、泣きそうな顔を(こら)えて俺に叱責(しっせき)した。


「それは…勘弁(かんべん)してほしいかな……」

「私の加護(かご)が続くように、祈ってるから」

 乃豊(のとよ)はポッドの冷たいガラス越しに、祈るように両手を合わせる。


「あぁ、きっと大丈夫だ」

 俺はみんなに向かって、汗ばんだ親指を立ててサムズアップした。


「それじゃあ切り離すわよ、ご武運を」

 ドシュウッという激しい排気音と共にポッドが射出される。

 あの『ユグドラシル』が、窓の向こうでどんどん遠くなっていく。











「あんな約束しちゃったけど、やるしかないよな」




 俺は腹を決め宇宙服を点検する。月に向かっている衛星区の内部にガツンと激突(げきとつ)し、侵入したのを確認した。ポッドのハッチを押し開け、人工的な乾燥した空気が満ちる荘厳(そうごん)な通路を進み、装飾であしらわれた重厚な扉をこじ開ける。


挿絵(By みてみん)

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