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Echo 11 『 正義の執行者 』

サントラ イメージソングはこちらからどうぞ

https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356


対応番号 : 18



「アノマリー事件によって世界中が混乱(こんらん)に陥(おちい)った時、世界は暗闇(くらやみ)に覆(おお)われ太陽が見えず、経済活動も何もかもが崩(くず)れてしまった」

「そんな中、世界統一政府が樹立(じゅりつ)されて、我々八咫烏(やたがらす)財団(ざいだん)とエリュシオン財閥(ざいばつ)によって混乱(こんらん)を鎮(しず)めることに成功したの」


 彩福(あやね)は助けてと言わんばかりに、こちらを見る。早七(さな)を怒(おこ)らせるのはマズい。俺がそう合図(あいず)すると、観念(かんねん)したように心を無(む)にしていた。


「でも彼らは恐(おそ)れるようになった。自分たちを超(こ)える存在(そんざい)によって、書(か)き換(か)えられてしまうことに、恐怖心(きょうふしん)を覚(おぼ)えたの」

「だから彼らは魔女狩(まじょが)りを行った。『我々(われわれ)に従(したが)わない者(もの)たちは、テロリストであり、世界(せかい)人民(じんみん)に対する反逆者(はんぎゃくしゃ)』ってレッテルを貼(は)り付(つ)けてね」

「教育改革(洗脳工作)も実行したわ。これまで通りの聖書に基づく人類の進化を流布(るふ)して、終末(ラグナロク)が訪(おとず)れるから信仰(しんこう)しなさいと言って恐怖心(きょうふしん)を煽(あお)った」


 俺は彩福(あやね)が欠伸(あくび)するのを黙(だま)って見(み)ていたが、流石(さすが)に彩福(あやね)は眠(ねむ)そうだ。こちらに寄(よ)り掛(か)かる頭を肩(かた)に乗(の)せるが、くっつく度(たび)に眼(め)を醒(さ)ましバツが悪(わる)そうに視線を逸(そ)らす。


「『時の振り子』ってのもSCPの一種(いっしゅ)で、人間の恐怖心(きょうふしん)を燃料(ねんりょう)に『運命のオートマタ(はぐるま)』を動かそうと躍起(やっき)になってる」

「あの人たちは聖書に書かれている終末(ラグナロク)を実現(じつげん)しようとする原理(げんり)主義者(しゅぎしゃ)たちなの。そのために私たちを生(い)き永(なが)らえさせているというのもある」


「でもそれなら戦争(せんそう)だったり、混乱(こんらん)でかき乱(みだ)している状態を維持(いじ)する方が彼らにとって都合(つごう)が良いんじゃないか?」


「確(たし)かにそれも一理(いちり)あるわ。でもね、その中であなたが立ち上がって『|正義の執行者《Justice Served》』になったの」


「俺が…『|正義の執行者《Justice Served》』に…?」

 さっきまでの眠気(ねむけ)はどこへやら、彩福(あやね)が驚(おどろ)いた目でこちらを見る。


「だから世界政府は二度目の出現(しゅつげん)を恐(おそ)れているの。もう二度と現(あらわ)れないように封印(ふういん)したつもりだったのでしょうけど」


「じゃあ、なんで弾圧(だんあつ)をしないんだ?」


「そんなことをしたら、奴(やつ)らからしたら大義名分(たいぎめいぶん)を信者(しんじゃ)たちに与(あた)えてしまうじゃない。だから二度と立ち上がれないように過去のあなたを死んだことにして、人々の共通(きょうつう)認識(にんしき)からあなたを消そうとした」

「人間ってね、トラウマの恐怖(きょうふ)や欲望(よくぼう)が一定量貯(た)まるとそれが現実化してしまうのよ。彼らが恐(おそ)れているのは自分たちにとって不都合な異分子(いぶんし)を記憶(きおく)から排除(はいじょ)できなかった時」


 彩福(あやね)の頭がパンクしそうだ。そんな素振(そぶ)りをして見せたが早七(さな)の話は止(と)まらない。俺はもう既(すで)に諦(あきら)めている。


「だから彼らは核兵器(かくへいき)を未(いま)だに持っているけど、あれは単(たん)に脅(おど)すためだけに使われている。核兵器(かくへいき)なんて使用しても、私たち人間はアノマリー(異象)と融合(ゆうごう)してしまって生死の境(さかい)が曖昧(あいまい)になってしまった。死んでも誰かの恐怖心(きょうふしん)によって喚起(かんき)されると再(ふたた)び蘇(よみがえ)るの」

「いつだって無意識の中の恐怖心(きょうふしん)は彼らの敵。恐怖(きょうふ)が敵であり続ける限(かぎ)り、私たちは死なない」


「そいつらはなんて言うんだ?」


「彼らはこう自称(じしょう)してるわ。『バベルの塔(とう)』正式名称はSCP-K2747」

「彼ら自身もアノマリー化しているわ。彼らは自分たちを『ユーバーメンシュ』と呼んでる」

「そして彼らが目指している『運命のオートマタ(はぐるま)』が導(みちび)く結末、それは『アビゲイル ソドム(劫火浄土)』計画」


「うーん…うちにはさっぱり分からないよ…」

 彩福(あやね)はとうとうショートしてしまった。俺には話に着(つ)いて行(い)くので精一杯(せいいっぱい)だ。そんな彩福(あやね)を置いてけぼりにしたまま、早七(さな)は話を続けた。


「…太陽の劫火(ごうか)で地上を焼き尽(つ)くし、生き残った者たちが神人『ゴットメンシュ』に成(な)る儀式(ぎしき)よ」

「そうして恐怖(きょうふ)が存在しない地上が実現(じつげん)し楽園(らくえん)が訪(おとず)れるって筋書(すじが)き…恐怖(きょうふ)なんて自分の中にしか存在しないってのに馬鹿(ばか)げた話よね」


「早七(さな)はそれをどこで聞いたんだ?」

 俺はそんな話を信じられなかった。まるでどっかの黙示録(もくしろく)かのような話だ。


「情報は確(たし)かよ。『バベルの塔』にスパイとして侵入(しんにゅう)しているメンバーがいるのよ。誰とまでは言えないけど、きっとあなたたちはすぐに出会えるはずよ」


 俺の頭は情報(じょうほう)過多(かた)で、こめかみがズキズキと痛(いた)んだ。隣(となり)に座(すわ)っていた彩福(あやね)はすでに、赤ベコのように頭を上下(じょうげ)にしてうたた寝(ね)していた。


「そしてその『バベルの塔』の中に、甘奈(あまな)の反応が微(かす)かにあったの」


 自分の耳を疑(うたが)った。どうして?


 俺は困惑(こんわく)した表情(ひょうじょう)を見せると、彼女は落(お)ち着(つ)いた様子(ようす)で答えた。

「あなたの『精霊(せいれい)』デバイス、そして天を貫(つらぬ)く『ユグドラシル』。それが答えよ」


 そういえば…俺は綾華(あやか)と戦闘(せんとう)した時に、我(われ)を忘(わす)れて力が暴走(ぼうそう)したんだった。

(あの時より前から、ずっと俺を監視(かんし)していたとでもいうのか...)


「…つまり甘奈(あまな)を取(と)り戻(もど)すには『バベルの塔』に侵入(しんにゅう)しなきゃいけないって話か」


「そう、それが彼らの『運命のオートマタ(はぐるま)』を止(と)める鍵(かぎ)になるかもしれない」

 早七(さな)は決意(けつい)の眼差(まなざ)しで、俺をしっかり見据(みす)える。


「そうと決まればどうにかしなきゃいけないな…」

 しかし俺たちで何とかなる話なのか?俺が悩(なや)んでいるのを見た早七(さな)は、少し柔(やわ)らかな目に戻(もど)ったと思うとゆっくりと立ち上がり、後ろの戸棚(とだな)から何かを取り出した。


「あなたちだけでは難(むずか)しいでしょうから、人員(じんいん)は手配(てはい)します。伝手(つて)はありましてよ」

 早七(さな)は、脈動(みゃくどう)する生々(なまなま)しい「目玉」を掌(てのひら)に出す。


「聞いてたでしょ。案内(あんない)してちょうだい」

 目玉がぱちくりと瞬(まばた)き、湿(しめ)った声で喋(しゃべ)り出(だ)した。


「なぁに?ようやく出番(でばん)ってわけ?ま、いいんだけど」

「それはそうと、あなたの弟かなりモテてるじゃないの。私にも貸しなさいよ」


「あなた、妹さんの方ではなくて?」


「いっけなーい、ごめんね?早七(さな)ちゃん、妹がせっかちなばかりに」


「今度奢(おご)ってくれたら、許(ゆる)すのもやぶさかではなくてよ?」


 どうやらかなり親密(しんみつ)な仲(なか)らしい、そんな印象(いんしょう)を受(う)けた。


「さすが早七(さな)ちゃん!弟君を迎(むか)えに行(い)くから待(ま)っててね~☆」

「ちょっと、私の話も聞きなさいよ」


 早七(さな)がその目玉を指先でぐいと押すと、電源(でんげん)が切れたように瞼(まぶた)が閉(と)じた。


「…かなり騒(さわ)がしい方(かた)たちのようですね」


「彼女たち、顔は広いから沢山(たくさん)の人脈(じんみゃく)を持っているのよ」

 早七(さな)は俺に力の見せ所を披露(ひろう)したかのように、得意(とくい)げにウィンクしてみせた。


「今回はあくまで情報(じょうほう)収集(しゅうしゅう)だから、気を楽にしていいわよ」


 俺は先ほどの甘娜(かんな)との戦闘(せんとう)を思い出していた。

(あんなのを毎回相手にしていたら、こっちが疲弊(ひへい)してしまうぞ…)

 あんな戦闘(せんとう)をこれからも遭遇(そうぐう)しなきゃいけないのかと思うと、高校生の自分にはかなり重荷(おもに)のように思えて仕方(しかた)なかった。


「迎(むか)えは明日だから、今日は早く寝なさいな」

 俺はぐったりしている彩福(あやね)の肩(かた)を回して背負(せお)い、寝室(しんしつ)に向かった。


「寝室(しんしつ)はこちらです」

 素榛(すばる)に案内された部屋は、いかにも百貨店であつらえた木綿(もめん)の匂(にお)いがする布団(ふとん)が敷(し)かれていた。自然と奥(おく)の盛(も)り上(あ)がっている布団(ふとん)に視線が止(と)まり、何かが中(なか)でモゴモゴ動いている。


「既(すで)に妹さんは寝(ね)ていますよ」


「あぁそうか…まぁ泣いたり気分が滅入(めい)ったりで体力使いますからね…ははは」

 そう思って俺は少しだけ顔を覗(のぞ)こうとしたら


「あ、いけません」

 布団の中から華緋(はるひ)の声が聞こえた。

 そこには未夏(みか)と華緋(はるひ)が重(かさ)なって寝ている姿(すがた)があった。未夏(みか)は困惑(こんわく)した顔でこちらを見上げ、華緋(はるひ)は顔を赤らめ待(ま)ってましたとばかりに立ち上がる。


「えぇと…これはどういう?」


「…あなたは命の恩人(おんじん)です。ですので今日から私のご主人様です」

 華緋(はるひ)が俺の手を、両手で縋(すが)りつくように握(にぎ)りしめてきた。


「どうかあなたの逞(たくま)しい身体(からだ)で、私を好きなようにしてくださいませ」

 暴力的(ぼうりょくてき)なまでに整(ととの)った肢体(したい)を前に、理性(りせい)が激(はげ)しく火花を散らす。


(いけない、さっきの長い話で眠(ねむ)くなって、脳(のう)の処理(しょり)が追い付かない!!)


 俺の視線が、重力を持ったような柔(やわ)らかい膨(ふく)らみに釘付(くぎづ)けになったその時、素榛(すばる)が華緋(はるひ)の頭をパシリと叩(たた)いた。

「こら華緋(はるひ)、それ以上ご主人様を困らせたらいけません」


「うぅ…姉さまがそう言うのなら」

 彼女はしぶしぶと立ち去った。


 華緋(はるひ)が部屋から退散(たいさん)すると、素榛(すばる)は冷(ひ)ややかながら誘(さそ)うような眼差(まなざ)しで俺を見た。

「つきましてはご主人様、まずはあなたがどれだけ精神的(せいしんてき)に強いかを確(たし)かめるために私と"つき合って"くださいませんか」


「えっと…」

 姉妹(しまい)揃(そろ)って放(はな)たれる、熟(う)れた果実のような香(かお)りと圧迫感(あっぱくかん)に俺は頭がクラクラしそうになった。


 俺の理性(りせい)が焼き切れそうなところを、後ろから彩福(あやね)が羽交(はが)い締(じ)めにし、マシュマロのような胸(むね)を背中(せなか)に押(お)し付(つ)けてくる。

「ダメだよ~、私と毎日寝てたんだから私と寝ないと~」

(さっきまで寝てたじゃないかっ!?り、理性(りせい)が飛(と)びそうだ...)


「お兄(にい)ちゃん」


 その声で俺はハッとした。

 妹の前でなんて破廉恥(はれんち)な真似(まね)を...俺は土下座(どげざ)して深々(ふかぶか)と頭を下(さ)げた。

「スマンっ!!悪(わる)かった!!できることなら何でもするから!!」


「んーん、お兄ちゃんが元気でいてくれるなら別にいいかなって」


 先ほどとは打って変わって、やけに静(しず)かになった。俺の心の中では、焦(あせ)りから安堵感(あんどかん)に変わると同時に、ざわつく不安が増幅(ぞうふく)し心配にならざるをえなかった。


「お兄ちゃん色んな所で人気者だし、私の知らないところであんなことやこんなことしてるんでしょ?」


 …事実(じじつ)ではあるけども。俺はその言葉に何も言い返(かえ)せなかった。


「お兄ちゃんのことは好き…でもそれでお兄ちゃんを縛(しば)り付(つ)けたくないっていうか」

「私、応援(おうえん)することしかできないけど、見守(みまも)ってるから…」


 未夏(みか)は背中(せなか)を向け、小さく丸まった。その震(ふる)えるような気配(けはい)が、胸にチクリと刺(さ)さる。


「あ~、ちゃんと慰(なぐさ)めた方(ほう)がいいよ~?お兄(にい)ちゃんなんだから」


「い、言われなくったって分かってるよ」


「ご主人様、そういうのは言う前から行動で示すものですよ」


 うぅ、正論でしかない。

 俺は上着を布団(ふとん)の上から被(かぶ)せ、耳元でおやすみと言った。

「俺は一人で寝るから大丈夫だよ…その…女性が多いとあまり落ち着かないし」


「ではもう一室(いっしつ)用意いたしますね」

 素榛(すばる)と華緋(はるひ)が、手際(てぎわ)よく冷(つめ)たいシーツを広(ひろ)げ、布団(ふとん)を整(ととの)えてくれた。


「えー…うちの子と嫌いになったん?」

 何を期待(きたい)してるのか知らないが、彩福(あやね)は襖(ふすま)から顔を半分こちらを覗(のぞ)き込(こ)んで様子(ようす)を窺(うかが)っている。


「いいからほっといてくれ!! 俺はそんなにビビリでもお化(ば)けが怖(こわ)いわけでもねぇよ!!」


「は~ん…さては思春期(ししゅんき)だな?」

 彩福(あやね)は眉毛(まゆげ)を動かし、ニヤニヤが止(と)まらない。


「華緋(はるひ)!! こいつを連(つ)れて行(い)ってくれ!!」


「ご主人様のご命令とあらばなんなりと」

 華緋(はるひ)はバタバタと暴(あば)れて逃(のが)れようとピーチクパーチク文句(もんく)を言う彩福(あやね)を、早業(はやわざ)で布団(ふとん)に包(くる)んで引(ひ)き摺(ず)って行(い)った。


(これでようやく一人で落ち着いて寝れる…)

「それじゃあおやすみ」


「「おやすみなさいませ、ご主人様」」

 素榛(すばる)と華緋(はるひ)が俺の安全を確認し、溢(あふ)れ出(で)る期待(きたい)を嚙(か)みころすかのように襖(ふすま)を閉(し)める。


 俺は明日(あした)への不安を抱(かか)えながら、天井(てんじょう)を見つめた。静寂(せいじゃく)が耳に染み込み、意識が重(おも)い闇(やみ)の底(そこ)へと溶(と)けていく。深い、深い眠(ねむ)りが俺を包(つつ)み込(こ)んだ。


挿絵(By みてみん)

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