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Echo 10 『 お兄ちゃんのバカッ!!!! 』

サントラ イメージソングはこちらからどうぞ

https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356


対応番号 : 17



「それではと言っては何ですが、屋敷(やしき)までおいでくださいませ」

 彼女が乗っていた高級車の後部(こうぶ)座席(ざせき)に案内されると、綾華(あやか)は大丈夫だと頷(うなず)いた。


「では遠慮(えんりょ)なく…」

 そう言って俺たちは車に乗り込(こ)んだ。


「辻ノ(つじの)先輩は乗らないんですか?」


「…いや、今回は遠慮(えんりょ)しておく。神社の片付(かたづ)けもあるのでね」


「そうか」


「由記(ゆうき)。その……なんだ。お前は命の恩人(おんじん)だ。だからこれからは私を下の名前で呼ぶといい」


「えっと……綾華(あやか)……先輩?」


 綾華(あやか)は少しだけ不満(ふまん)な様子で恥(は)ずかしそうに視線を逸(そ)らし、耳の裏まで赤く染めてうつむいた。

「……あぁ、そう呼ぶといい」


 俺は彼女に別(わか)れを告(つ)げ、柔(やわ)らかな革(かわ)の座席の感触(かんしょく)を背中(せなか)に感じながら、宝生院(ほうしょういん)の車で屋敷(やしき)へと向かった。




 ———


 ——— 車内にて




「それでは改(あらた)めまして」

 宝生院(ほうしょういん) 早七(さな)が、流れるような動作で言葉を切り出した。


「初めまして。そしておかえりなさい、“ゆうき”くん」


 出会った瞬間から肌(はだ)を刺(さ)していた奇妙(きみょう)な既視感(きしかん)。改(あらた)めて彼女の顔を覗(のぞ)き込(こ)むと、吸(す)い込(こ)まれるようなその瞳(ひとみ)の色が、俺自身のそれと鏡写(かがみうつ)しのように全く同じであることに気づき、背筋(せすじ)に微(かす)かな痺(しび)れが走った。


「…俺のお姉さん、ということか?」


「そうよ、そしてあなたがまだ執行者(しっこうしゃ)だった時、私は『運の女神』なんて呼ばれていたのよ」

 彼女は一瞬(いっしゅん)だけ、遠い地平を見るような物寂(ものさび)しげな眼差(まなざ)しを浮(う)かべ、「まぁ、もう昔のことだけれど」と吐息混(といきま)じりに呟(つぶや)いた。


「その…」


「あぁ、早七(さな)でいいですわよ」


「…早七(さな)は、どうしてそんなに若いんだ?」


「あぁこれ?そうね、まずはあなたのことについて少し話さないといけませんわね」

 彼女は、記憶の澱(よどみ)を掬(すく)い上げるように、ぽつりぽつりと語(かた)り始めた。


「あなたが海に沈められた時、私たちも黙(だま)っているはずも無かった。あなたを死刑にした人たちは、あなたの力だけを欲して何もかも抽出(ちゅうしゅつ)した。そしてあなたは抜(ぬ)け殻(がら)になってしまった。」

「でも私たちの協力者が内部に侵入(しんにゅう)して、あなたの力の源を一部奪取(だっしゅ)することに成功した。それをみんなで分け合うことで、老化を遅らせている」


「遅らせるだけなのか?」


「えぇ、一番いい方法はあなたの体液を直接身体の中に流し込(こ)むこと。それで若返りをするの。皮肉よね、人間の欲望のためにあなたが狙われるのは必然だって」

 早七は、慈(いつく)しみの色と深い悲しみが混(ま)ざり合った瞳(ひとみ)でこちらを見た。家族を守ろうと、細い指先で懸命(けんめい)に運命を繋(つな)ぎ止めてきた必死(ひっし)さが、その表情から滲(にじ)み出ていた。


「…俺を引き上げたのも、早七のおかげなのか?」


「私たちが引き上げた、と言うべきね。私はあなたの家族だから、ずっと目を付けられていたの。だから取引をしたの」


「取引?」


「まぁ内容なんて気にしなくていいわ。それより…」

 彼女は俺の瞳(ひとみ)をじっと覗(のぞ)き込(こ)み、恍惚(こうこつ)とした、熱を帯(お)びた表情で膝(ひざ)の上に跨(またが)ってきた。


「弟君(おとうとくん)、おかえり♪」

「あぁ、私の可愛い弟、帰ってくるのをずっと心待ちにしてたのよ」

 彼女は強引(ごういん)に俺の口を塞(ふさ)ぎ、湿潤(しつじゅん)な舌を執拗(しつよう)に絡(から)ませた。ヌチュリという粘着音(ねんちゃくおと)が車内に響(ひび)き、鼻腔(びくう)を彼女の甘い香(かお)りが満(み)たす。


「よーしよし、偉(えら)かったねぇ。お姉(ねえ)ちゃんが辛(つら)かった分も甘(あま)やかしてあげますからね~」

「あぁ心配しなくていいわよ。防音(ぼうおん)ばっちりで運転席に伝わらないから~」

 露(あらわ)わになった瑞々(みずみず)しい肌(はだ)の感触(かんしょく)が胸(むね)に押(お)し付(つ)けられ、脳内(のうない)が真っ白に塗(ぬ)り潰(つぶ)されていく。


 身体(からだ)が言うことを聞かない。むしろ彼女のリードに導(みちび)かれるように、指先から力が抜け、ドロドロに溶(と)かされるままだった。脈動(みゃくどう)する粘膜(ねんまく)が、一滴(いってき)も余(あま)さず吸(す)い尽(つ)くそうとするように熱くまとわりつく。視界から青い火花が消えるのと同時に、脳内に押し寄せていた猛烈(もうれつ)な波が、ゆっくりと引いていくのを感じた。


「はぁ…ごちそうさまでした」

 彼女はウェットティッシュで口周りを拭(ふ)くと、俺の顔を見て満足そうに微笑(ほほえ)んだ。


「そろそろ着きますよお嬢様(じょうさま)」

 素榛(すばる)が車を停(と)め、ドアを開く。そこは、静謐(せいひつ)な空気が肌(はだ)に触(ふ)れる、詫(わ)び寂(さ)びの効いた古き良き邸宅(ていたく)だった。


「こちらにどうぞ」

 華緋(はるひ)が扉(とびら)を開け、俺は奥(おく)の部屋に通(とお)された。




 ———


 ——— 宝生院邸にて




 昔ながらの畳(たたみ)。仄(ほの)かに香(かお)る陽(ひ)だまりに照(て)らされたイ草(ぐさ)の、青く乾(かわ)いた匂(にお)い。足裏で感じる畳(たたみ)の凹凸(でこぼこ)は滑(なめ)らかで、毎日丁寧(ていねい)な手入(てい)れがされているのが、肌越(はだご)しに伝(つた)わってくる。正坐(せいざ)で組もうとすると、早七(さな)は胡坐(あぐら)でいいと言ってくれたため足を楽にさせて座(すわ)った。


 風通しがよく襖(ふすま)を開(あ)けた先には、和モダンな日本(にほん)庭園(ていえん)が広がる。冷(つめ)たそうな水玉(みずたま)模様(もよう)の飛(と)び石、規則(きそく)正しく敷(し)き詰(つ)められた白川(しらかわ)御影(みかげ)砂利(じゃり)。その中心に、うねるような威圧感(いあつかん)を持って鎮座(ちんざ)する三波石(さんばせき)。素榛(すばる)が点(た)ててくれた抹茶(まっちゃ)の深い苦(にが)みと熱(あつ)さが、じんわりと五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡る。


「さて...まずは現状(げんじょう)知っておかなければならないことについて、情報を共有いたしますわ。陽大(ひなた)」

 呼びかけに応じ、空気がわずかに爆(は)ぜるような気配(けはい)と共(とも)に影(かげ)が現(あらわ)れた。


「お呼びになりましたか?」


「最近の動向(どうこう)について目立ったところはありましたか?」


「特にありません!引き続き監視(かんし)しますっ!」

 ドロンと、煙(けむり)のような質感(しつかん)だけを残(のこ)して跡形(あとかた)もなく消(き)えた。


 俺は目をまんまるにして驚(おどろ)いていると、彼女はクスリと笑った。

「彼女はクノーでしてよ。あなたの先輩にあたる人ってところかしら」


(ふむ...同じ学校の先輩もいるのか...)

 俺はふと疑問に思ったことを話した。


「早七(さな)の財団(ざいだん)って、俺の学校を運営(うんえい)してるの?」


「そうよ、あの学校にあなたを入れたのも私の手筈(てはず)なのよ」


「ってことは、あの生徒会長も?」


「えぇ、彼女は陽大(ひなた)の妹ですね。彼女の手腕(しゅわん)にはとても感心しているんですよ」


(全て彼女の計算通りってことか...)

 俺には以前から聞きたかったことがある。


「甘奈(あまな)は今どこにいるんだ?ここ最近見かけないんだが」

 早七(さな)の柔(やわ)らかな笑(え)みが消(き)え、空気がピリリと引き締(し)まるような真剣(しんけん)な面持(おもも)ちに変(か)わった。


(まさか...)俺は固唾(かたず)を飲んだ。




「彼女なら無事(ぶじ)よ…今のところはね…」


 俺は少しだけ安心した。

「場所は?どこなんだ?」


「それが実は分かってないの、妹さんを別の場所で預(あず)かってて彼女ずっとうなされているのよね」

 胃の腑(ふ)を冷(つめ)たい手で掴(つか)まれるような、気味(きみ)の悪い感覚。それでも彼女たちを救(すく)わねばならないという決意(けつい)が、腹(はら)の底(そこ)で固(かた)まった。


「…それだと俺の妹の安否(あんぴ)が心配だな…」


「それについてはご安心ください。彼女は当家(とうけ)にも出入りできるように許可(きょか)しましたので、いつでも来(こ)れますよ」


「しかし…かなり距離(きょり)があるじゃないか」


「少しだけあなたの能力(のうりょく)を借りるわよ」

 そう言うと彼女は指をパチンと鳴らした。すると、俺の身体(からだ)から透明(とうめい)な熱気のような「何か」が抜(ぬ)け出(だ)し、みるみるうちに実体(じったい)を持って、一人の女子高生の姿として目の前に顕現(けんげん)した。


「う、うわぁぁあああ!!!!なんだこれは!?」


「まぁそう驚(おどろ)かないでね。彼女まだ眠ってるから。華緋(はるひ)、彼女を起こしてあげなさい」

 そう言うと華緋(はるひ)は、そのギャルっぽい見た目の女子高生を起こしてあげた。


「んみゃぁ…まだ寝たいんだけどぉ…うちなんで起こされてんの?」

 彼女は目をこすり周囲を見渡(みわた)すと、早七(さな)たちが放(はな)つ威圧感(いあつかん)に圧倒(あっとう)され、瞳(ひとみ)を潤(うる)ませた。


「うぅ、うちもう帰ってもいいすか?」


「ダメですよSCP-S759、もとい七本(ななもと) 彩福(あやね)さん」


「うげっ、なんで私の名前知ってるし!?」

 彼女は勘弁(かんべん)してくれという顔で「堪忍(かんにん)つかぁさい」と言いながら俺に懇願(こんがん)してきた。いや、俺も今初(はじ)めて知ったから驚(おどろ)いているんだが。


「紹介(しょうかい)しましょう、彼女はロード(Lord)の本体とも言える中核(ちゅうかく)の存在ですわね」


「なんで早七(さな)が知っているんだ…?」


「それは…」

 彼女は頬(ほほ)を朱(しゅ)に染め、モジモジと指先を動かした。

「…乙女(おとめ)の秘密(ひみつ)ってことにしていただけませんかしら?」


 えぇ…そんなことある?


 そう思っていると彩福(あやね)は、こちらを見て不服(ふふく)そうに言った。

「乙女(おとめ)の秘密(ひみつ)を暴(あば)こうとするだなんて最低な男っすね」


(いや、そんなこと俺に言われても困るんだが!?!?)


 そんな理不尽(りふじん)をよそ目に、早七(さな)は話を続けた。

「実は彼女、元々は普通の女子高生だったんですけど、誤(あやま)って能力を発動してあなたの中にずっといたんですよ」

「それであなたと同調(どうちょう)していくうちに、あなたの能力そのものになっていったんです」


「えっとつまり…?」

 俺は彩福(あやね)を見ると、少しバツの悪そうな顔をして話した。


「えぇと…実は…『パラサイト(parasite) プロトコル(protocol)』ってのを発動しちゃいまして…」


(???なんだその能力は)


 華緋(はるひ)が解説(かいせつ)を挟(はさ)んだ。

「つまり彼女は誰かの同意(どうい)を経(へ)ることなく、宿主(やどぬし)に寄生(きせい)して栄養分(えいようぶん)を吸(す)い続(つづ)けることに特化(とっか)した能力の持ち主です」


「えーっとつまり…居候(いそうろう)?」

 俺は彩福(あやね)を見ると、どこからともなく取り出した鳩(はと)のお菓子(かし)を投(な)げつけてきた。


「誰があんたの寄生虫(きせいちゅう)ですか!!!ウチだって役に立ってたし!!!」

 ポカポカと、猫(ねこ)のパンチのような感触(かんしょく)で殴(なぐ)ってくる彩福(あやね)を宥(なだ)めるべく、早七(さな)に目配(めくば)せすると鶴(つる)の一声(ひとこえ)を放(はな)った。


「彩福(あやね)さん、彼の妹をここに連れてこられますか?」


「えぇ…めんどっちぃし…」


「今ならこのお屋敷(やしき)でゲームやお菓子(かし)三昧(ざんまい)で過(す)ごせるように、手配(てはい)してもよろしくてよ」


「やります!!やりますっ!!いえ、ぜひやらせてくださいっ!!」


「ふふ、聞(き)き分(わ)けの良(よ)い子ですわね」

 現金(げんきん)なやつだ。尻尾(しっぽ)を振(ふ)る子犬のように従順(じゅうじゅん)になった。


「はぁ…俺が主人なんだけどな」


 そう言うと彩福(あやね)は口を尖(とが)らせキャンキャン吠(ほ)え始めた。

「うるさい!都合(つごう)のいい時だけ呼(よ)び出(だ)す奴(やつ)とは大違(おおちが)いなんだよ!」


「では早速(さっそく)やっていただけるかしら」


「もちろんです姉御(あねご)!!!」


「早七(さな)と呼(よ)んでも構(かま)いませんわよ」


(まったく、これじゃあどっちが主人なんだか…)


 彼女はロード(Lord)の力を使い、時空間(じくうかん)を繋(つな)げ始(はじ)めると歪(ゆが)んだ扉(とびら)が出現(しゅつげん)した。

 ぬるりと人の肌(はだ)が見えたと思ったその時、確(たし)かに俺の妹の姿(すがた)が見え始めた。


「…!!未夏(みか)!!」

 俺はその手を掴(つか)んだ。手繰(たぐ)り寄(よ)せた彼女の身体(からだ)から、懐(なつ)かしく確(たし)かな体温(たいおん)が伝(つた)わってくる。


「…お兄ちゃん…?」


「俺だよ、未夏(みか)。待(ま)たせてすまない」

 俺はそう言うと未夏(みか)を抱(だ)きしめると、未夏(みか)はボロボロと泣(な)き始めた。


「昨日(きのう)夕方(ゆうがた)戻(もど)らなかったの、ホントに心配(しんぱい)したんだからね!!!バカッ!!バカお兄ちゃん!!」

 胸(むね)に響(ひび)く、彼女の小(ちい)さな拳(こぶし)の痛烈(つうれつ)な衝撃(しょうげき)。俺は彼女が泣(な)き止(や)むまで、その重(おも)みをしっかりと受(う)け止(と)めた。


「ほーん?これはもう出来ちゃってるって感じ?」

 彩福(あやね)がそう言って俺たちをからかった。少し驚(おどろ)いた顔で未夏(みか)が振(ふ)り返(かえ)ると俺に聞いてきた。


「お兄ちゃん、この人たち誰?」


「えっと…話せば色々長くなるんだけど。こっちが俺の姉の早七(さな)。こっちは…」

 俺が言い終(お)わらないうちに彩福(あやね)は割(わ)り込(こ)んできた。


「どうも~彼んとこに居候(いそうろう)してた彩福(あやね)って言いま~す。これからよろしくね!未夏(みか)ちゃん!」

(あ、やべこれは怒られるやつだ)


「お兄ちゃん…これってどういうつもり???」


「えっと、これには深いわけがあってだな…」

 未夏(みか)の手が、俺の頬(ほほ)を鋭(するど)くビンタした。パァンと乾(かわ)いた音(おと)が響(ひび)き、熱(あつ)い痛(いた)みが走(はし)る。


「お兄ちゃんのバカッ!!!!」


(はぁ、心配してくれるのは嬉(うれ)しいんだが、もう少し手心ってやつをだな…)

 俺は何も言(い)い返(かえ)さず、彼女の怒(いか)りが鎮(しず)むのを待(ま)つしかなかった。




 ———


 ——— しばらくして




「えっとつまり彩福(あやね)さんは、お兄ちゃんの中にずっといたってわけ?」


「まぁそうなるっしょ!あぁ大丈夫(だいじょうぶ)!!あんたの恥(は)ずかしい姿(すがた)は見てないからねっ!!」


 未夏(みか)は顔を真(ま)っ赤(か)にし、熱(ねつ)が出たように目を回して体育(たいいく)座(ずわ)りで顔を伏(ふ)せた。

「うぅ…穴があったら入りたいよ…」


 俺はそんな妹の肩(かた)をさすった。

「俺はもう気にしてないから…な?」


「…でも私が一番納得(なっとく)してないし…」

 未夏(みか)は悶々(もんもん)としていた。


「それでは早速(さっそく)だけど、素榛(すばる)、彩福(あやね)。こちらにいらして」

 早七(さな)は別室(べっしつ)に俺たちを招(まね)き入(い)れた。


「華緋(はるひ)、弟君の妹をお願いね」


「仰(おお)せのままにお嬢様(じょうさま)」


 俺たちは廊下(ろうか)を出て通路(つうろ)を突(つ)き進(すす)む。


「えっと、なんでうちが呼(よ)ばれたし」


「あなたがいないと話にならないからですわよ」


「ちぇ…ゲーム三昧(ざんまい)で毎日過ごせるかと思ったのに」


「何か文句でも?」


「い、いえ!!全くございませんっ!!」


「素榛(すばる)、あなたは入り口を守ってくださいな」


「承知(しょうち)いたしました」


 早七(さな)が俺たちを招(まね)き入(い)れたのは、装飾(そうしょく)を削(そ)ぎ落(お)とした、静謐(せいひつ)で狭(せま)い和室だった。


「えぇと、こういうのって詫(わ)び寂(さ)びってやつ?」


「そうね。ここには最低限しか置かないですから」

「座布団はご自分で持っていらしてよ」


 早七(さな)が持(も)ち出(だ)した座布団(ざぶとん)のところから彩福(あやね)の分(ぶん)までとり彼女に渡した。

 使い込(こ)まれた布(ぬの)の感触(かんしょく)を指(ゆび)に感じながら、俺たちは机(つくえ)も置かれていない畳(たたみ)の上で向(む)かい合った。


「これで一安心(ひとあんしん)ですわね」


「ふと疑問(ぎもん)に思ったんだけどさ」


「なんでしょうか」


「俺たちを恐れているのなら、なんで殲滅(せんめつ)をせずに監視(かんし)なんかしてるんだろう」


「それにはSCPの生態(せいたい)が関(かか)わっています」

 彼女は、重(おも)い真実(しんじつ)を一つ一つ置くように語(かた)り始めた。


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