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第9話社会人の本気の課金

「先にどっかの課が応戦してるとは聞いてたけど、まさか空たちだったとはな!いや、どうやら一足遅かったようだ。怪我はしてないか?」


「心配いらないわ、全員無傷よ。」


一兄に状況確認の報告をしている間、茨と照は目を丸くしてこちらを見ている。


「此度の件は、随分と厄介なことになりそうだな……街中で零徒化とは……。そこの青年部のお嬢さんが一部始終見てたってらしいが……詳しく話を聞かせていただきたい。」


「わ、私!?えっと、琴吹照って言います。ここに居合わせたのは……」


照は言葉に詰まる。その先を言ってしまえば、多分しばらく、隊服の袖を通す事ができなくなるから。


「もう、一兄ったら。照はてっぺん組のアルバイトの子なんだけど、バイト初日にこんな事があって、今とんでもないくらい疲れてるのよ。あたしが話聞いて後日!早急に!報告するから!今日のところは帰らせるのが、上司の勤めじゃない?」


「ぇ……」


突然聞かされた見覚えのない嘘に、驚きの声を飲み込んだ照。

一兄が困ったように頭を抱える。


「あのなー空、青年部をアルバイトで雇う場合は、色々申請しないといけねぇ書類があるんだけど、ちゃんとそれ出したのか?それがねぇと、お前が処分食らっちまうぜ。」


きっと一兄は何かしら勘づいているのでしょうね。だけど……


「わかってるわ。始末書でも報告書でも、そんなの後で何枚でも書いてあげるから。それよりもあたし達の部隊は……」


照と茨の手を、思いっきり引っ張って走り出す。というよりその場から逃げ出す!


「疲れたら筆じゃなくて休息を取るのがルールなのよっ」





全力で走り続け、八課支部まで戻ってきた。


(はあ……やっちゃったわぁ……これ。上に確実に怒られるわ。冷静に考えるとやばいわこれ……)


隊長を名乗ってる身として、これはちょっと幼い行動だったと反省。天井を仰ぐ。


「ハア、ハア、……空は……なんで息切れてねえんだ……」


「こんな距離……全力で走ったの……初めて……」


照と茨はその場に座り込む。

現実から逃げたいあまり、2人に無理をさせ過ぎてしまったようだ。


しばらくして、二人の荒々しい息遣いも静かになる。

最初に口を開いたのは照。


「ごめんなさい……手、怪我させちゃった。あと、私の為に嘘もつかせた……今からでも戻って、ちゃんと本当のこと話すから!」


立ち上がって出ていこうとする照。


「まあまあ落ち着いて。手はほら、あんな怪我はすぐ治るわ。あたし傷の治り早いから。」


念の為両手を見せる。茨が目を丸くする。


「いや早すぎだろ。手品でも使ったのか。……ああ、いや。照、確かにアルバイトってのは、あの時は嘘だったが、今ならお前さんの返事次第で嘘じゃなくなるぜ?」


「どういうこと……?」


茨が懐から紙切れを取り出して照に突き出す。


「お前さんの居所調べるために買った情報料、10万円の借用書だ。言っただろ?返して貰うって。返し方は2通り。我がてっぺん組でアルバイトして返すか、それとも……親父さんに払ってもらうか。どっちを選ぶ?」


「父さんだけはダメっ!……ううん、私もっと強くなるから、ここで働かせてください!」


思いっきり頭を下げる照。


「ここで断られたらどうしようかと思ってたわ。ようこそ、てっぺん組へ」


「ありがとう。でもどうして、今日知り合ったばかりの私にここまでしてくれるの……?」


それは俺も聞きたいと、茨もこちらを見つめてくる。


「そうね……。」


思い出すのは、

仲間を失った茨の後ろ姿。

隊員になりたいと、必死に戦う照。


それら全てに、遠い、遠いーー

昔の景色が、今でもはっきりと浮かび上がる。


プルルル、プルルルーー


答えを言う前に、着信音が響く。

電話の主は……


「うげっ、竜兄さんだわ……。ちょっと2人でゲームでもしててちょうだい。長くなるからこれは……。……あーもしもし?…………う"、それはごめんなさい反省してます」


部屋を出ていく空を見送り、残された茨と照。


「じゃあ、歓迎会ってことで。あいつの言う通りゲームでもしよう。俺もここにきてから空に勧められてハマったんだけど、『リストラさむらい』っていうゲーム。」


「この流れで本当にゲームするの!?反省会とか報告会じゃなくて?今日の出来事って、結構重大事件だと思うんだけど!」


「そんなのやりながら出来るじゃねえか。」


「…………。」


淡々と返されて、スっとコントローラーを渡された照は、茨に解説してもらいながらプレイすることになった。


この時の照はまだ知らない。

まさかこのくだらないゲームが自分たちを繋ぐことになるなんて。


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