第8話悪党には罰を、エルフには弓を
私は早く隊員になりたい。じゃなきゃ、虚楽で自由に行動できないから。あの時のように、もう、何もできない自分でいたくない。
「よう、新人。金は集まったか?お前は扱いやすくて助かるよ。」
「……今日の収穫はゼロ。」
集金袋を私の上司になるはずだった男の顔に投げつける。
「な、なんだと!?てめぇ!!まさか裏切るつもりか!!」
「裏切る?私がいつ詐欺グループの味方なんかになったって?笑わせないで。あなた達みたいな外道は、最初から私にとって、隊員になる為の大切な素材に過ぎないんだから。」
「結構稼いでた癖に、よくそんなこと言えるな!!チッ、てめぇら!裏切りだぁ!!やっちまうぞ!!」
男が奥にいる仲間を呼びつけて、私を取り囲む。
その時……
『やっと気づいたんだね。でもちょっと遅いかな?』
「誰っ!?」
頭に声だけが響く。取り囲んでいる男たちも聞こえているらしく辺りを見回している。
『こんにちは、照ちゃん。そんなに零徒と喧嘩したいなら、その願い叶えてあげるよ。ほら、河渕、仕事して。』
「御意。我ら天律院、報われない運命に救いを。」
突然ローブ姿の大柄な者が現れる。
「河渕」と呼ばれたその者は、地面に手を置く。すると、取り囲んでいた男たちの足元が歪な光に包まれた。
「この光は……虚楽の……!?」
眩しくて目が開けられない。
「うわぁぁぁっぁぁ!!!!」
男たちが叫び声をあげる。必死で目を開けると、
そこに詐欺グループはいなかった。
代わりにいたのは、零徒。
「なっ!なんでこんな所で零徒化……!!零徒は虚楽の中でしか発生しないはずじゃっ」
零徒は、死者が虚楽内で変異する存在。生きた人間が、しかも街中で零徒化した話なんて……そんなの聞いたことない。
考える間もなく、零徒たちは襲いかかってくる。必死に攻撃を防ぐだけで、反撃する隙がない。
キィィンーー
指の感覚が、消えた
「あっ」
気づいた時には刀が宙を舞っていた。
刀に手を伸ばす。
あと少しのところでーー
その刀を握ったのは私じゃなかった。
見覚えのある銀色の角ーー
緑色の隊服の袖がひらりと舞う。
「そろそろ選手交代といこうか?」
「タツノオトシゴのっ!?どうしてここがわかったの!?」
「借金してこーちゃんの特別なお友達にここ炙り出してもらったんだ。だが、まさか街中で零徒にお目にかかれるとは……想像以上に厄介なことになってんな。……ここは俺たちに任せてくれ。」
その時、背後でバタリと零徒が倒れ込こむ。その先にいたのは……
「もちろん、その借金10万円は後であんたに返して貰う!!だからまずは、この状況を何とかしないと。照は2階に上がって。……エルフはやっぱり弓、でしょう?」
「っ!!わかった!」
照は大きく頷いて階段をかけ登り、無我夢中で矢の雨を降らせる。エルフの『創造力』により、その矢が尽きることはない。
「グォォォォォオオオオオ!!!!!!!!!」
零徒たちは叫び、2階に目を向ける。
「おっと、足元に俺たちが居ることを忘れちゃいけねえ。」
「あたしたちに隙を見せてくれるなんて、特大サービス感謝ね。」
茨は零徒の足を次々と撃ち抜いていく。一体、また一体と体勢を崩れる。
その隙をあたしは見逃さない。
零徒の懐に飛び込み、急所を斬り伏せる。
ものの数分で綺麗に決着はついた。
「ふう、茨は無傷そうね。照は……」
ドタドタと急いで2階から降りてくる照。こちらに向かってくるかと思いきや、まさかの素通り。すれ違いざま、代わりにあたしの刀を奪っていく。
「ちょっと照?!」
照は何も言わず、部屋の隅に行き、刀を構える。
茨と目を見合わせて照に近寄る。と、刀の先には、詐欺グループと思われる生き残りが体を震わせて小さくなっていた。
「良かった、まだ生き残りがいたんだな。まあ行く先は刑務所だが。」
「照、そいつはまだちゃんと人間よ。刀、返して?」
照は黙ったまま。目が殺気立っている。今にも飛びかかってしまいそう。
こういう時冷静にさせる方法は……
「おい空っ」
あたしは素手で刀を鷲掴んだ。当然、血がぽたぽたと落ちる。
「もう大丈夫、怖くない。おかげで助かったわ。だからほら、その手はもう離しても良いのよ。こいつはあんたのおかげで命拾いしたの。」
照はハッとして目に涙を貯める。そしてようやく、その固く握られた手が解けた。
「うぅっ、ぐすっ……ごめんなさいっ私……隊員になろうと必死でっ……まもりたかったもの…見えなくなってたっ……これじゃあ隊員失格だ……」
「そんな泣かないでくれ照、空も!早く手当をっ」
照の目からボロボロ落ちる涙。空の手からぽたぽた落ちる血。それを交互に見てオロオロする茨。
その時、その場の空気を一瞬で吹き飛ばすような声が通り抜ける。
「誠刃隊だ!!!突入!!!」
バッと扉が開き、一斉に隊員がなだれ込んで来て、あたしたちを取り囲む。
「あ、まず」
急いで刀を鞘に収めて、血に染まった手を後ろに隠す。
入口から最後に入ってきたのは先程の声の主。
その姿を見て茨が思わず声を漏らす。
「誠刃隊隊長……!?」
彼は虚楽制圧部第一課誠刃隊隊長にして……
「ん?あれ、空?」
「……い、一兄」
あたしの義理の兄。天道一勝である。




