第3話 サービス残業なんてクソくらえ
「ーーぁぁぁああああ!!!!」
手近にあったものを掴み、思い切り振り抜く。
が、手に掴んだのは点滴スタンドだった。
ギィィンン!!
渾身の力を込めた一撃が止まる。
「……っ?」
スタンドの先に、刃。
その向こうにいたのはー
顔色の悪い、細身の女だった。
口元を抑えながらも刃先は一切ブレていない。
「おっと、危ない……随分寝起きが良いミイラだなぁ……」
消毒液の匂い。
白い壁。
ここは……本部の医務室だ。
身体中包帯でぐるぐる巻きにされている。
急に体がドン、と重くなり、その場に倒れ込む。
手が震える。
「俺は……なんで生きてんだ……」
「……弧葉手せんせーい、ミイラが目ぇ覚ましたみたいですよぉーあ、やっぱりまた寝ましたー」
ーー人のことミイラ、ミイラって不謹慎だろうこの女。
一言言ってやりたかったが、再び気を失った。
ーーー…………
「で、あの子どうしちゃったんです?
なんか急に襲いかかってきたし……
先生はミイラの研究でも始めたんですか」
「ミイラ全然ちゃうから。てか聞いてないん?
烈日隊の八木茨くんや。例の件で唯一生き残った隊員。まあ、そんな状態じゃ聞いてる訳ないか。」
「何を聞いてるって、?今日はもう午前中から吐き気と腹痛が止まらなくて死にそうだったからずっと引きこもってたし、だいたい……ーーー」
ーーー医者と、女の会話が聞こえてきてゆっくり目を開ける。
白い天井。
『唯一生き残った』か……。
つまり、隊長や他の隊員たちは……。
「行かねえと」
「八木隊員?傷口が開いてしまいます。大人しくしていてください」
「血が足りていないのです。何処に行きやがるつもりなのですか。あの世ですか?あの世に逝くつもりなのですか?」
両側から看護師2人がベッドに押さえつけてくる。
「離してくれっ俺はまだ烈日隊の1人だ、もう一度っ……虚楽に戻って……仲間たち迎えに行かねばならないんだっ!」
どんなに抵抗しても看護師たちは離してくれない。
というか力が強すぎてむしろ痛い。
「迎えに行くって……今の状態で無理をしたら逆にお仲間の方からお迎えに来るで」
ここの医者と看護師は本当に患者に容赦ないな。
しかしここでゆっくり体を伸ばしている時間はない。
「だが、約束したんだ……」
ーーだから泣いてなんかいられない。
「魂は連れて帰るとっ」
ーーまっすぐ前を見ろ。
「烈日隊最後の、こんな大事な大仕事を、なんてったって俺一人で片付けなきゃならねえのさ。
どんだけ残業しても、足らねえだろ?」
ーー俺はまだ生きている。
「弧葉手先生、えいちゃん、しいちゃん、その子のことは放っておいてください。わりと元気そうだし。
それよりも……」
俺のことをミイラ呼ばわりした失礼な女隊員が口を挟んできた。
「アタシニ……クスリヲ…ゥぷ。……ハキソウ。」
俺よりコッチの方が重症そうだ。今にもゲロをぶちまけそうな勢い。
「待て!神聖な医務室を汚すんやない!!トイレ行け、トイレ!!お前のゲロ処理すんの誰だと思ってんだ!!」
「それが医者の言う言葉!!?」
「少々待ちやがれください、すぐに薬を調合してやります」
「しいちゃん、あなたは薬の事分からないんだから私に任せなさい。」
医者と看護師が俺から離れる。
今だっーーー!
急いでベットから降りる。
身体中がひび割れるように痛くて仕方ない。
が、それよりも先に心が動く。
早くーーー仲間の元へーーー
医務室から出る前、一瞬ゲロ女隊員と目が合った気がする。
ーーいや、気のせいだろう。
今にも吐きそうな奴が、
あんな瞳するわけが無いーー。




